第27話「怠惰」

 *


 何をするにも身体が気だるい時期というものがある。


 特に、大型連休明けの通勤・通学などは、もうその顕著な例だと言って差し支えないだろう。


 この時期の退職を考える人々や、この時期をきっかけに学校に行きたくなくなる子らの気持ちも、分かろうというものだ。


 表題とした「怠惰」というのは、そういう方々へ喝を入れるためではなく、他ならぬ私自身の啓発を目的としたものである。そもそも私は、他人の人生にとやかく言えるような立場にはいない。それはご家族やご友人、あるいは心療内科医の領分である。


 大型連休中は、私の職場はカレンダー通りの休みであった。


 普段通り図書館に行ったくらいで、どこにも行かなかった。

 

 人混みが苦手なのである。


 その帰りに、らしくもなく洒落たカフェに寄ったら、そこで勉強や軽作業に励んでいる人が大勢いた。少し腰を落ち着けてドリンクを飲もうかとも思っていたのだが、生憎席は埋まっていた。


 良く集中できるなあ、と思う。私ならできない。未だに家以外で小説を書こうなどというものなら、自分の打鍵音が周囲に迷惑をかけていないか不安になり、執筆どころではなくなるからである。


 なんちゃらフラペチーノなどというハイカラな飲み物を頼んだ。


 甘かったが、べたつくような甘さではない。不思議な飲み物であった。どうやって作っているのか、製造過程が気になった。


 そのなんちゃらフラペチーノを飲み終え、家で座椅子に座りながら小説を読み、私の大型連休は過ぎていった。


 小説の方は、書いている長編が行き詰まったので、プロットを書くことに専念していた。もう毎年応募している新人賞にはあらかた応募し尽くしてしまったので、来年に向けて、新しい作品を練っているという状況である。


 一人で寂しくないのか――と、しばし知人からは言われることがある。


 寂しいと思う時は勿論あるが、私は人生の割と重要な、それこそ人と積極的にコミュニケーションを取って、その能力向上を図るべき時に一人でいることが多かった子どもだった。そのため、一人でいることに慣れているのである。否、慣れてしまった、と言うべきか。良い意味でも、悪い意味でも。


 そして、そんな風にして、私の連休は終わった。


 さあ、仕事だ! と切り替えられれば一番良いのだが、残念ながら人間の脳の構造はそう単純にできてはいない。一度怠惰に染まってしまえば、そこから抜け出す作業が必要である。


 正直、連休明けの水曜日なんかは、いつにも増してぽんこつであったように思う。勿論社会人として最低限取り繕ってはいるけれど。


 しかしそれは他の人達も同じらしい。どこか声のトーンが違っていたり、いつもできているはずのことを間違えたり、部署全体のムードも、どこか消沈していた。


 まあ、いつまでも、落ち込んでいても仕方ない。


 取り敢えず今日と明日、仕事に行けば、再び土日の休日である。


 怠惰な自分も自分なのだと認めつつ、社会の歯車としての活動に励もうと、私は思った。



(続)

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