ティーンエイジモンスター
真白いろは
プロローグ
「おはよー、ヒカルちゃん。」
「おはよう。」
高校一年生、そして女子。私は恋をしていた。だってもう十五歳。とやかく言われる道理はない。事実、クラスの中にはカップルがいたりもするのだから。
朝早くの教室は静かで、ようやく人数が増えてきたところだ。もう夏は過ぎているというのにクーラーの温度が下げられていく。湿度が高過ぎてサウナのような室内に気持ち程度の冷風が細くたなびく。
それにしても、私の読んでいる本が難しい。賢く見えるかと思って、頭を使うような小説を開いているが、かなりつまらない。あくびを噛み殺しながらページをめくる。たまに出てくる単語の意味が分からず、そもそも漢字が読めなかったりするのだ。
(あ…来た。)
おおよそ席が埋まった時、いよいよ首を長くして待っていた人が教室へ踏み入った。そして座ったのは、私の前の席。本当に運が良かった。私は彼の後ろの席を引き当てている。夏の前の私に心の中で感謝してしまう。
東雲ハルカくん。決して彼は明るくおちゃらけたタイプでも、優しくふわふわしたタイプでもない。運動神経の良いクールタイプといったところだろうか。まさに一匹狼だ。
『顔も結構いいけど、暗いんだよねー』
『でも運動得意なのはギャップじゃない?』
『私、割と気になってたりするんだけど』
というのがクラスの女の子たちの意見。ちなみに私は東雲くんの何を考えているのか分からない顔が好きだ。何を考えているか読もうとすると空虚な部屋に辿り着いてしまうような雰囲気が好きだ。
あわよくば隣の席でも良かったが、後ろで満足している。ここからなら授業中でも東雲くん観察ができる。たまに見つめ過ぎて板書に追いつけなかったりもするが。
けど、私は絶対にハルカくんと結ばれない。
私は超能力を持っていた。
きっとそれを見たら東雲くんは怖がって話しかけなくなる。そして、嫌われる。話しかけられなくなる。
それを考えるとなんだか胸が苦しくなってため息が出てしまう。ブラックコーヒーのような気持ちに陥ってしまう。
「ア…ガァ…!」
(いつからいたんだろう…。)
そして私には怪異が見えていた。現在進行形で幽霊が私たちの教室を歩き回っている。首から上がないのに声が響いている。けど反応しない。なんだか悪いことが起きそうな気がするからだ。これが、超能力の代償だろうか。他の子には見えていないし、声も聞こえないようだ。
「黒瀬さん。」
「え、あ、うん。」
呼んでくれた…。東雲くんから手渡されたプリントを一枚取って後ろに回す。内容は学校の事務的な連絡だったが、その文字たちが輝いて見える。いつもならざっと読んでクリアファイルに入れてしまうところを3回もじっくり読んでしまった。
私は他の素敵な女の子たちのようになれない。可愛く髪を結ったりアイドルの話ができない。だから今日もこうやって、難しい本を開いている。
(東雲くんも好きなのはああいう華やかなタイプなんじゃないかな。意外に大声で甲高く笑うタイプが好きだったりして。私もスカートは一個だけ折ってるんだけどね。あの子たちの二個や三個には叶わないか。)
私の恋は絶対に叶わない。けど決して消えることもない。鉛のように私の足を引っ張っている。早くこの気持ちの飴が溶けてほしい。
けど結局、後味は残るんだろうなぁ。お砂糖が必要ね。
(まぁ、ないんだけど。)
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