上を見る
タバコを口にくわえてライターの火を吸う。その動作で出た煙を肺に入れてもいいのだがその動作と呼吸が合わず頬にためた煙をそのまま出した。タバコに火をつけてその行為によって出た煙を肺に入れずに放つ。この一連の行動は、はたから見ればごく自然の振る舞いで習慣的なものに見えるだろうけど、僕が自分の呼吸と示し合わせてその動作を行っていることを知れば他人には滑稽に映るに違いない。
僕は、雲にならずにはかなく舞って消える煙を見上げた。
タバコを持つ外気に晒された左手が昨日より思い通りに動いた。今日は昨日より暖かい、そう感じた。煙を見るついでに視界に入った八割かそれ以上空を覆った雲を見て、中学の頃、先生が教えてくれたことを思い出した。どんな先生だったか詳しく覚えていないが、傲慢な態度で級友に嫌われていたことはなんとなく記憶に残っている。僕は、タバコの煙を口内にため空気で煙を深く内臓に押し込んだ、それから煙が鼻から抜けないように強く口から吐いた、それでも無感情な煙は忌々しくも鼻から漏れる。あぁそういえば彼は関西弁だった、大阪出身の父の口調と重なって僕自身はあまり嫌いになれなかった。
僕は、大事そうにタバコの中間らへんを軽く指で叩き灰をミートソース缶に落とした。この缶はもうミートソースのいい匂いを放たなくなってしまった。それは至極当たり前のことで、もしミートソースの匂いが残っていたとしてもなんの意味の無いことなのだがそれが惜しいように感じた。
僕はまた空を見て、雲が暖かさを包んでいるのか、と中途半端な擬人化をして半端に思い出した先生との思い出を締めくくった。
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