4.作品を見つめ直すということ。そして次のコールセンターへ……

 私が開催した作品の読み合い企画には九人の参加者が集まった。

 この企画の目的は、参加者に私の作品の感想を具体的に書いてもらうということ。それを実現するために、私は参加者の作品に対する感想を事細かに書き、一つのレビュー作品として連載した。


 レビューを書いた作品の作者様からは大いに感謝され、同時に私の作品へも熱のこもった感想をいただいた。

 見ず知らずの人の小説をジャンル問わず読み、良い点、改善できそうな点、素直な評価を素人なりに熟考し、丁寧に書き表す。決して簡単なことではなく、何日もかけて読み直したり、知らない言葉や表現方法が出てくるたびに調べ、相当な時間と労力を使った。


 すべての作品のレビューを終わらせるのには一か月以上かかった。

 仕事から帰ってきてすぐに作品を読み、気づいたことを書き出し、文章としてまとめる。時には仕事の昼休憩中に作業を進めることもあった。


 企画は大成功。狙い通り、お互いの作品を読み合い、意見を出し合う交流の場として目的を果たすことができた。


 重要なのはここからだ。

 いただいた感想を自分で再度まとめ、どこが良かったか、どこが理解されにくかったかを箇条書きにする。


 その結果、ストーリーを根本から改稿し、表現や描写をより細かくするべきだと気付かされた。


 冒頭から書き直し、より納得のいく文章と展開を……




 ***




 私がカクヨムに登録したのは二十三年五月十六日。その数日後に次の職場が決まり、六月中旬から研修がスタートした。(ちなみに自主企画を立ち上げたのは同年六月四日)


 今度の職場もコールセンターだった。前の職場よりも家からの距離が近く、毎日徒歩で通った。


 気になる業務は、大手企業が提供する決済端末の設置案内とそれに伴うアンケートの協力依頼で、つまりアウトバウンドだ。内容をかみ砕くと、店舗に電話をかけて「お得なキャンペーンなので決済端末を使いませんか?」と提案するというもの。もしくはすでに決済端末を利用している店舗に架電してアンケートや送付物の設置依頼をするという、前回とは全く角度が異なる仕事だ。


 まず、相手が店舗なので基本的に対応が優しく、温厚な通話になりやすい。そしてこちらから発信するという都合上、相手が忙しい場合は「また後で」と断られて終話するし、そもそも電話に出ない場合は留守電に吹き込んで終了するなど、明らかに受電よりも楽な仕事だった。


 さらに絶対に言及しないといけないのが職場環境だ。キャビネットの上にはお菓子が山のように置かれ、その場で食べられたり持ち帰りも自由。スペースは前回の職場より狭いが、人数が少ない分SVの目が十分にいきわたりサポートも手厚い。

 なにより皆の仲がとてもいい。和気あいあいとしていて、一つのチームとして全員が同じ方向を向いている感じがたまらなく居心地のいい環境だった。


「本日から入社しました○○です。趣味というか、最近は小説を書いてます」


 自己紹介のときはこんなあいさつをして、既存の方々から「おお……!」とわかりやすく驚かれたのをはっきりと覚えている。

 “アイスブレイク”と題して研修初日に開催された、新人と既存メンバーが打ち解けるための時間。業務エリアではなく、会議室を貸し切ってSVを含めた全員で自己紹介や雑談、軽いゲームなんかをするいわゆるお楽しみ会。こんな雰囲気のイベントが定期的にあった。


 研修も一か月以上あり、私を含め同時に入社した七人の新人が本格的に架電を開始したのは七月の下旬からだった。それまではゆるいお喋りを挟みながら言葉遣いの勉強や資料の読みこみをし、既存の方とのロープレを得て準備万端の状態で本番を迎えた。エクセルで決済端末の紹介や断られたときに切り替えすための台本を作成し、「物書きだから文章が上手で参考になる」と皆から褒められた。


 今思えばあんなにいい職場は他にないんじゃないかというほど充実していて、私にとってコールセンターのイメージを大きく変えた天国でもあった。


 本格的に業務が始まると一筋縄ではいかないことも多々あったが、周りには友達のように仲のいい皆がいてくれて、いつでもSVの人が助けてくれる。店舗が導入を決めて“獲得”したときには、ご褒美に商店街などで見かけるガラガラくじを回し、出た色に応じて一等~六等までの景品を貰える(高いもので一万円相当)。そのときに貰ったハンカチは今でも使用している。


 最高じゃないか? 職場の年齢層は高めではあったが、私と近い歳の人もいてアニメの話とかゲームの話とかで盛り上がって。一回り二回り年上の先輩からはいろんな話を聞けて。いいところだったなあ……最後は業務がすべて終わって拠点をたたむことになったため同年十一月に解散になったが、それまでの半年間はかけがえのない時間だった。お別れ会もしたし、最後には感極まって泣いているSVもいた。




 ***




 そんな恵まれた環境で働きつつ完遂した読み合い企画。

 作品を見つめ直した結果、内容があまりにも変わりすぎたため一度作品を非公開にし、新しく「黒いマジック」を連載することとなった。その後は未だ自主企画への参加や開催はしていない。



 ここまでの話をまとめると、やっぱり私は文章を書くのが好きだし、大事なのはいかにして働きたいと思える環境と出会うかということだ。

 あの時、すぐに辞めた解約阻止のコールセンターも必要な経験だった。

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夢って決めなきゃだめですか? 伝子 @denco_

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