第12話 常夏の国へ

緑繁る季節が過ぎ、樹々の葉も朱や黄土色に染まる頃。

ある便りが愛の元へ届いた。


DNA鑑定のために提供していたが、ある遺骨と一致したとの知らせだった。


「父さんが見つかったんだね。いままで隠れとって」

愛はそう呟くと、嗚咽しながら体中の水分が無くなるくらい泣いた。


「三陸へ、お父さんを迎えに行こう」

「お父さんも、愛ちゃんに逢いたいと思うよ」


愛に語り掛ける時男や千賀子の眼からも止めどなく涙があふれる。


迎えにいった父は、小さく白い箱に入っていた。

父の大切にしていた腕時計も。


父の箱を胸に抱え、愛は

「神さんっているんかな。私の事には来ないみたい」

さみしそうに呟いた。


持ち直していた愛の心は、闇の中に堕ちていくように

気力もなくなり、学校にも通えない日々が続いていたある日。


何気なく見ていたテレビのニュースに愛は釘付けになった。


――漂流?日本の船が常夏の国へ――

グアムの海岸へ日本の漁船と思われる漂流物が打ち上げられました。

船体はかなり傷んではいますが、側面に「大漁丸」と書かれています。

可能性としては、大震災で海を漂流した漁船が、海流に乗って

流れ着いたものと思われます……


「おばちゃん!おばちゃん!お母さんの船が!」

とても信じられないが、夏海の乗っていた船は海流にのり

遥か彼方グアムまで流されていたのだ。


帰宅した時男にも話したところ、時男はそのテレビ局に

問い合わせの電話をした。

やはり、その船は間違いなく夏海の船であった。


だがしかし、かなり傷んでいるとの事で日本に持ち帰るのは

難しいらしかった。


落胆した愛をみて、時男が言った。

「愛ちゃん、船を引き取るのは難しいけれど

お母さんの船に会いに行こうじゃないか」

「そうよ、愛ちゃん。お母さんがきっと愛ちゃんの事を

待っていると思うわ」


「え…でも叔父さんや叔母さん迷惑じゃないの?」

ここしばらく生気のなかった愛の頬が桜色になった。


行こう、夏海さんに会いに。

夏海さんの名前に似つかわしいグアムの海へ。


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