おいもが空を飛ぶ

 親衛隊長バロン=ポテトがその奇妙な飛行機械を見つけたのは、――彼が『魔除けアミュレット』奪還のための後詰めを率いて飛び立った、少し後のことだった。「…『ローターソプター』一機だけだぞ?カニンガムは殺られたのか?」


「……!凄いな!それは凄い!!」


 背面飛行でるバロンは喜色満面に手を叩き、そして後に続く羽付き二人に向かって『先にいけ』とハンドサインを出す。


 その胴体には、……タンデムスカイダイビング。ハーネス状の革紐でくくられた、汗まみれの魔術技官がくっついている。そいつの頭が邪魔なので拍手はけて叩いた。



 親衛隊長バロン=ポテトは下級貴族ではあるが、近衛兵団長の肝煎きもいりによって、えある第一戦隊の長を任されている。


 金髪の細面ほそおもてを過剰に鍛えて太くした様な、違和を感じる面相めんそう。兜を外した白鎧姿。【フライ飛行】の力場によって不自然なほどに棚引たなびかない、例の落下制御マントを背負っている。――奇矯ききょうな人物ではあるが、その体躯はしっかりと鍛え上げられており、筋骨隆々の長身が周囲に威圧感をかもしている。


「ひいいい…」などと悲鳴を上げる胸の重石おもしをものともせずに、バロンは豪快な回転飛行で、回転翼機の傘の下へと強引にすべんだ。「これはこれはご機嫌麗しゅう、『技術神童テックジーニアス』のお嬢さん。組織や派閥の垣根かきねを越え危険もかえりみずの協力に感謝を!!」


 暴風つんざくキンキン声に、「うるさ」銀髪の少女は『心底嫌な奴に会った』という様相ようそうで顔をしかめた。「危ないですよぉ、そこ。巻き込まれても知りませんよぉ」


「んん!?なんです!?」


「…警告はしましたよ。言いましたからねぇ」邪魔者に視界をふさがれて苛立いらだたしげに、そして、銀髪少女はきょうが乗ったとキシキシ笑った。「ところで男爵バロン今更いまさら何しに来たんです?の状況を聞くとかないんですかぁ?」


「んん!かしこい!流石は『技術神童テックジーニアス』!」嫌味ったらしいげん感銘かんめいを受けて、もったいぶってオールバックをげる。「親衛隊へのだ!カニンガムに出遅れた我々をいらえておるのですな!これは実に可愛らしい。…しかし、何も問題などない」


「出遅れようが手強てごわかろうが、私ひとりで十分解決。この厳然げんぜんたる事実が、私自身の通った道に履歴りれきとなって横たわっている」胸を張る美丈夫。とにかく凄い自信だ。


「……いいかね。力と結果と利益さえあれば、すべてゴリ押しで通るんだ」


 顔を寄せ、わった嫌な目で覗き込み、彼はねっとりと声を張った。


「…私を信じろ、『技術神童テックジーニアス』。そしてたたえるんだ」


 技官の頭越しに、自らの胸を親指(サムズアップ)で指し示した。「このジーニアス=バロン=ポテトを!」


「天才の条件とはなんだ。天才が天才と認めることだろ!」


「私のがわも認めるさ、『技術神童テックジーニアス』。やはり、きみは天才だ。何より姿勢。一貫してブレがない」


「いかに生まれの環境にめぐまれども、その年齢としでなお、そうもに惑わされぬなど。…かたくなな思い込みによってみずからの邪魔をする、神経反応よりの離脱。やはり才覚さいかくを感じるな」


「今はお家も大変だというのに。お父上、マイユール公の…」



「…ゴキブリ野郎」銀髪少女がスロットルレバーと操縦桿をガクンと前に倒すと、たちまち回転翼機が前のめりの急降下に転ずる。



「おおっと!『クイックマニューバ』!!」高速回転するメインローター/ミキサー刃に巻き込まれそうになり、バロン=ポテトは鋭角な高速機動によってもらい事故を回避した。


「危ないだろ!!」腕を振り上げ、遠ざかる飛行機械を怒鳴りつける。ぷんすかぷんだ。


 ――地上すれすれ、建物をって去る『ローターソプター』。街の人々が逃げ惑う様子が垣間見かいまみえる。「…いい趣味だな…」バロン=ポテトはニヤリと笑うと【フライ飛行】を加速させ、先行二名にたちまちのうちに追いついて、チーム編隊を組み直した。


 ……そんなバロンへと胸部より話しかける、細々ほそぼそとした声がある。「……デカい顔をするばかりの邪魔な小娘も、ポテト卿の前には形無しですな!赤子の手をひねるようにあしらうとはっ!」


 強風にも負けず、誇らしげにたたえる声。接触を使った骨伝導だ。バロン=ポテトは、と眉をひそめた。「きみの名前はなんと言ったかな。そう、見張り塔の魔術技官。一番に率先して名乗りを上げたナントカくんだ」


「い、いえ。私の名は」


「きみは偉いなっ!常日頃つねひごろより言っているだろ。戦いとは拙速せっそくたっとぶものだとっ!!」自信満々にのたまったバロンは、よく通る張りのある声でこたえる。


「素晴らしき助力に感謝する、ナントカくん。進んで嫌なことをしようとする姿勢が実に素晴らしい。有象無象をけて、のし上がる機会を願っているのだろ?」


「お褒め頂き、…いえ、ですからナントカくんでは…」


「人の嫌がる事を進んでする!私とてそうやってのし上がった!お陰ですっかり扱いよ。年嵩としかさでもなく男爵程度の権威では、くみやすしと有象無象が寄って来る。彼らには私など飴玉にしか見えんのさ」胸部の頭頂部に向かって、高圧的につばを飛ばす。


「私の正体が弱き芋虫であったのならば、えさとなって巣に引きずり込まれる所ではあるが。――あいにく私は人間だ。めちゃめちゃに踏んづけて穴に熱湯を流し込んで、なおへこたれずに向かってくるなら相手をしてやる。キラーアント対アントキラーだ!」


 ピンとこない魔術技官は、とにかく背中越しの愛想笑いで調子を合わせた。


「流石は天才、ジーニアス=バロン=ポテト!素晴らしき自信ですな。実に堂々としていらっしゃる!」


「ワハハハハ!いいぞいいぞ。褒めたら意外となにか出るからな。さあ、何処いずこからでもかかってくるがいい!私に隠すものなど何も無いからな!」


「ああ!そういえば先程さきほども堂々と!『クイックマニューバ』とおっしゃるのですか!?隊長殿の『スキル』は!」


「『クイックマニューバ』は技の名前だろ!!」



 ピシャリと怒鳴られポコンと叩かれて、技官は「ヒッ…!?」と萎縮する。



「???は、はい!?申し訳…」


「それより探査を続けたまえ!そろそろなのだろう?」またポコンと頭を叩かれた技官は、慌てて呪文を詠唱する。


「……【ロケート方向把握】の反応は、……近いです!前方まもなく、いや、迎撃が上がった!?」「ナントカくん。きみ、飛行、浮遊、落下制御等の手持ちはあるか?」言葉をかぶせ、問いかけが飛ぶ


 ――急速に切迫せっぱくしていく状況。飛行魔法にて離陸した敵が一体、――前方ほぼ直下、街並みより飛び上がるのが見えた。上昇しざまに後方より噛みつくかまえだ。このままではぐに接敵する。「え?い、いえ。あいにくと…」


「しょうがないな。ほら、私のを使え。帰りは歩いて帰るんだぞ」ごそごそと首から引っこ抜いたマントを、技官の胸部に押し付ける。「え、ええっ!?」などと狼狽ろうばいする技官など気にも止めずに、バロン=ポテトはバチンとハーネスを外した。



 ◇



「……はっきりしてほしいのだけれど」しょんぼり気分の切田くんにおおかぶさって、『聖女』は闖入者ちんにゅうしゃ達へと高圧的に問いかける。「あなたたち、私たちについて。調べがついているの?」


「…んー」困り顔のラキコに、毅然きぜんと詰める。


「隠し事はなしって言ったでしょう。私たちの信用を買いたいのではないの?…言葉と意志のすれちがいにもほどがあるわね」


「…困ったな。まあ、うちに集まる情報の分は知ってるよ。呼ばれた日にち。召喚時の状況。いくつかの入手した魔法。だいたいの『スキル』構成まで……」


「そう」聞いておきながらも態度でさえぎり、しゃがみこむ覆面少年に親密な声を掛ける。「情報をにぎられているのなら、もう治すから。…良いよね、類くん」


「え、…は、はい」顔が良いのでイケメン彼女だ。トゥンク。


 えられた手から治癒の力が伝播でんぱし、左手の痛みが消えていく。ベロリと皮膚が溶けていたはずの火傷を確認する暇もなく、彼女は心配げに尋ねかけてくる。「…他に痛いところはない?」「はい、大丈…」頬に手がえられた。「類くん、さっき上から凄い勢いで落ちたよね。本当に大丈夫?隠してない?」


「ぅえ?ええ。なんとか…」


「……本当に心配したんだよ。きみが、アイツともつれ合って落ちるのが見えて、急がなきゃって……」切実な声。「す、すみませ」「謝らないで」


「……はい。はがねさん、僕は大丈夫です」


「……そう。よかった」「…爆発しろ…」「もゆもゆー?」


 ふんふんする怨念おんねんに釘を刺し、ラキコは敵意のなさをアピールする。「…ち○こぜろ…」「ちょ〜っと黙っててね?」


「魔除けの話を続けるね。切田くんは今、そのカードキー『アミュレット・オブ・イェイェンドナの魔除けンドナ』に正式な持ち主として登録されているんだ」


「超常の力を持つ『迷宮』のマスターキー。最下層に棲む迷宮管理者、大魔術師イェンドナが持っていたとされるアミュレット。今は宰相マイユール公が、権利を継承していると聞いていたけれど」(牢屋で会った、白いお爺さんか)切田くんの脳裏に、頭がバーンとなる老人の姿がよぎる。(…僕がお爺さんを殺してしまったことで、呪いみたいに権利をなすられてしまった?)


「だから、ってわけじゃないんだけど。…正直それがどうやってキルタくんの元に来たのか、元のカバンの中に戻ったのかはわからないんだよね…」


「……そうだね。そのアミュレットくんだって、自分の力の及ぶ限り、精一杯になってきみのことを追いかけてきたんじゃない?」滔々とうとうと語るラキコは、ジトッと微笑する。「かいがいしいね。エモいって言うのかな」


(…この人の言っている事が正しいのかどうか、今の僕に証明するすべはない…)ムムムとなる。(…だけど、このアミュレットカードキーが敵の目印になっていることは確かか。…まいったな…)「あなたの言うことが正しいなら、僕はどうすればいいですか?…あなた方は、僕をどうしたいんです」


 慎重な問いかけに、ラキコは元のニコニコ顔で答えた。「危害を加えたり、それを奪ったりするつもりはないんだよ。さっきの話に戻ってくるけど」


「……きみ、【ブレインウォッシュ洗脳】系の状態異常を解除する『スキル』が使えるでしょう」「はぁ」(…だいたいの『スキル』構成は知られているって言ってたな…)


「『はぁ』って、きみ、緊張感ないねぇ…」切田くんの様子を薄目で観察し、自然な口調を続ける。「【ロケート方向把握】の魔法は、位相いそうの違う『迷宮』内には及ばない」


「だからキルタくん。きみは一旦『迷宮』の中に逃げ込めばいい。私たちの用事も『迷宮』にあるんだよ。要は、きみの解除スキルを使ってほしい相手が、今、迷宮内に囚われているんだよね」


 筋は通っている様に聞こえる。……判断するには情報が足りない。(正直、さっぱりわかんない…)脳死で聞き流す。「その後は?」「スキルを使った後の話?上司から説明があると思うよ」(…投げやり〜)


「……僕らは『迷宮』には入れませんよ。資格も立場もありませんし」


「そんなの堂々と入ればいいよ。正面から」


「…どうやってです?」


「……もちろん」――無敵河原むてがら 羅紀子らきこは空を指差し、ニッコリと笑った。



「権力を使って」



「だから一緒に来て欲しいんだよ。詳しくは私の上司に……」


「……ラキコ、敵」緋村もゆが裾を引き、上を指差し凶事を告げる。(……敵?)切田くん達も空を見上げるが、……立ち並ぶ建物が邪魔で、視界内には何も確認出来ない。


「数は?」「…羽付き2、強いのが1。探査役がひとり、おまけで付いてる」


「親衛隊の増援かな?戦力の逐次ちくじ投入。…ホント機能してないんだね」あきれかえるラキコの手前、……切田くんは動くに動けず、途方に暮れる。(…索敵能力はうらやましいな。ブリギッテさんのふくろうみたいなのを使っているのか?…うーん…)


(……なんか実感ないんだよな……)会話ばかりの実態なき情報。この非常事態が、いまいち他人事にしか思えなかった。(…何だろう。演劇の小芝居めいている、というか…)



「…『リーバ・グラビ・デオ・リパルス。集いし魔力を根源となし、星のくびきよ。の解き放て』。『エンチャント付与』【フライ飛行】」



 ラキコに触れて詠唱する赤目の少女が、ぼんやりと警告する。「…近距離なら保つ。回線切れたら1ターンが限界。着地して」


「了解。君らを追ってる兵隊だろうね。いいかいキルタくん、重要なのはきみだ。私たちは君の信用を買いたいので、今から君と、きみの大切な人を守ってみせる。ここまではいいね?」緊迫感も無しにつらつらと語る。「恩着せがましいのは分かってるけどね、姿勢はちゃんとしめさないと。君らが組む気になるように、役に立つところもあらわさなきゃならない。それに、」


 何でもない口調で、ラキコは穏やかに笑いかけた。「実は私、無敵なんだ。名前にも書いてあるでしょ?」


(…んなもん、ける人はいませんよ…)聞き流す切田くんの隣、「…類くん、無敵だって…」不安げにささやきかけてくる。(……けている……)


「先に呼ばれた先輩ってのもあるからね。は私のほうが上なんじゃない?」


「まあ見ててよ」そう言うと彼女は、付与された飛行魔法でたちまち空へと飛び立ち、スイと屋根の陰に消えた。



 ……切田くんは、全力で穿うがった見方を取る。取らざるを得ない。(僕らを待ち構えたがわからの接触。そして接敵。……勝つ自信があるのか、談合だんごう済みか。それとも敵が来ているのは嘘?)


「…類くん…」心配げな声が聞こえる。(……東堂さんが気にする、無敵の『スキル』も無くはない。……ああ、もう。聞きかじっただけの情報って、なんでこんなにフワフワするんだろうな……)


(やり取りのキャッチボールが成立してるってだけで、この人たち、言ってるだけ感が凄いんだよ…)重箱のすみにケチをつける。(…何気ないやり取りにだって、その人たちの考えや心情はあるはずなんだけど…)ちなみに切田くんが『言ってるだけ』の時は、大体ドヤ顔になる。


(『そういうものだ』と割り切ってしまえば、騙されて死ぬのは僕の方だからな。……パーソナリティを読み取られないよう、わざと自我を消しているのかもしれないし……)


 空の見える位置に移動し真偽を見定める事も出来るが、……演芸会。敵と仕込んだマッチポンプの可能性は残っている。順番に考えてみる。(判断を避け、彼女らを振り払って逃げようにも、…アミュレットカードキーが目印になるのは事実。解決しない)


(…だったら空に出て確認するべき?…『ガラス玉』が無いし、作る姿を見せたくない。手詰まりに近いな…)ムムムとなる。(しょうがない。ちと恥ずかしいけど、…東堂さんの力を借りてジャンプして、屋根をつたって戦うのが一番か)


(地対空戦闘ならば僕の『スキル』は刺さっている。あの人ラキコさんがヘイトを抱えてくれるのも丁度いい。…敵の狙いは僕らだ。下手に正面に出るよりは良い局面…)


(……とにかく、戦闘の様子を自分の目で確認しないと。、ラキコさん達が可能性だって、十分にありうるんだ)


(…まずは自分で確かめるんだ。…慌てるなよ。まだ何の準備も出来ていないんだから、まずは防御を固めてから…)「やっぱり追いましょう。手を貸してください。僕らは一度、屋根の上に…」


 ふたりの挙動を正面からじっと眺め、……緋村もゆが、言葉をかぶせてボソリと言った。




「……あなた、『賢者』……?」




(……なんだ?)違和感。奇妙なほどに不穏な問いかけに、切田くんの言葉は途切れる。――東堂さんがからだごと割り込み、鋭い警告を放った。「…危ない。下がって!!」(……えっ?)


 突如影差す、突然の落下物。ドンと屋根を跳ねたそれが踊りかかるみたいにかぶさって、「わああっ!?」そばの地面を跳ね土埃を上げる。――人間の死体。事務方らしき軍服の、見知らぬ男性。ひび割れた箇所かしょから、石畳に血液がにじている。


 異常な事が起こっている。


 仰向けの死体。マントらしきつつみを大事に抱き込んでいる。その表情は絶望にこおりつき、生命の喪失に白目をいている。(……ああ、もう目茶苦茶だよ。一体何がどうなって……)目眩めまいがする。情報が錯綜さくそうしている。(…ラキコさんが撃墜したの?談合だんごう路線は消えた?…分からない。…頭が全然整理出来ていない…)世界の速度は切田くんを抜き去って、すでに猛スピードでまわはじめている。――すべての位相が奇妙にずれて、厄災へと置き換わっていく感覚。…まわる。…まわる。


 建物の織りなす、狭い空。衝立ついたての書き割りめいた景色。

 肩紐の切れた、ショルダーバッグ。

 呪いで離れぬカードキー。

 漏れたワインの滲み出る、床の背負い袋。

 無残に潰れた、マントを抱く死体。




「ちゃきーん」緋村もゆがふところから黒縁メガネを取り出し、掛けた。「オタクにござろう!」


(……んぇ?)切田くんは酷く変な顔になる。変顔になる。「……はい?」(なんて?)


「やっぱりそうでござるよなあキルタ氏!ヌハハハハ!」黒縁メガネで萌え袖の少女は、ふんぞり返って笑い声を上げた。


(え、何!?)「…おま、あなたは何を言ってるんだ。突然なにを、今はそれどころじゃ、…いや、何なんです!?勝手に決めつけて!」


 黒縁メガネを半分ずらし、赤目の少女は冷たくのたまう。「…『賢者』の枠で呼ばれる奴なんて、マキャベリ気取りかオタクでしょ」


「おい、全国の『賢者』に謝れ」


「類くん?」東堂さんが、不安げに声を上げる。


「…マキャベリにもだ」などと追撃する少年を見やり、緋村もゆはメガネをクイと戻した。


「キルタ氏はオタクながわの『賢者』でござろう。当たりでござろ?ははぁん、彼女さんにヲタバレしたくなかったでござるかぁ?グゲゲ。それはそれは!ざまぁでござるねぇ!キケケケ。賛同者多すぎてアンケートを取るまでもない。リア充爆発しろ!この世すべてのリア充は崖上に列作って、理路整然と炎上爆発すればいい!墜ちて潰れろ!むぎぎぎぎ…」憎しみが強い。黒縁メガネの少女はで、ドスドスと地団駄を踏み、キリキリ歯を鳴らす。正直怖い。


(……なぁにこの理不尽生物……)ラキコどころかアルコルよりも怖い。「…あの、僕らはリア充なんかじゃないです。そもそもリア充というのは、僕とは違って陽キャの延長線上で…」「!嘘をつくなぁっ!!」赤目の少女はキイと睨んだ。(…なんなの…)


「……嘘をつくな」


(何で二回畳み掛けるの)


「…うっさい!!」


(三段階で否定された)


 黒縁メガネをクイとなおし、少女はたずねかける。「ツッコまないでござるか?」


「…いや、欲しがらないでもらえますか?無闇に三段でディスった所で、別に僕ら仲良くないんで。ボケだか本気マジだかわからない微妙なフリにツッコミ要求するとか普通に図々ずうずうしいし地獄なんですよ。てかあなた、さっきマジで怒ってましたよね。マジギレしてましたよね?」(超頭痛い…)


「類くん!?」


「やはり見込んだ通りの男にござったなキルタ氏〜」


「いや、今は本当にそれどころじゃないんで。…僕らは上に…」


「クックック。やっと同志に巡り会えたようでござるな。実に僥倖ぎょうこう。ラキコ殿も他の人らも、陽の者かチクチク者ばかりで拙者ずっと肩身が狭かったでござるよぉ。フッ、何を隠そうこの緋村もゆ、キルタ氏好みの少年ジャンルも一通り履修済みでござる!闇の炎に焼かれ系の、偽悪系厨二ものが好みでござったか。ところで『女賢者』ってなんかエロくないでござるか?自分でも、こう、何というかムラムラくるものがあって。紳士フォルダ作りたいというか。ほら、貴公のにもあるでござろう?ぐへへへじゅる…」


(本当に何を言ってるんだ、この人は…)超早口だ。目にも止まらない。女賢者は女教師とフォルダがかぶりそう。(…それは流石に別でしょ…)


 東堂さんがあからさまにムッとして、腕がグイと引き寄せられる。強引で握力が強い。……冷ややかで、剣呑で、刺々とげとげしい圧力が、切田くんの胃壁を刺激している。


 だのだの奇声を上げる、自称『女賢者』。脇に転がる、ニュートンのリンゴ。(……ぐうっ……)――ぬぐえない不安。(何なんだ、この状況…)頭がぐるぐる回る。気分が悪い。地獄かな?


(…わざと足止めをしている?屋根上行きを妨害して、手の内を見せないつもり…?)戦闘が行われているはずの、狭い空を見上げる。


(ラキコさんが本当に一人で戦っているのなら、…『スキル』相性や魔法の手持ち次第では、返り討ちになる可能性だって十分にある。支援や後詰めは必要なはずなんだ…)


(しかも、布石が無駄になる。僕に上の戦闘を見せないって事はさ、…『僕らとも、いずれ戦うつもりだから隠してる』、って事になっちゃうんだぞ?)


(…この人が、本当にこうしているのなら。なんでこんなに、目的と行動がずれるんだ?)



 ふと、嫌な予感に駆られた。選択されるべきではない、本当に許されざる可能性。(……おい、待ってくれ)…とする。(……もしかして、この緋村もゆとか言う人……)


 ……胃や頭が、締め付けられる様に痛い。切田くんは予感への疑惑に、ひどく懊悩おうのうした。



(……ひょっとして、それはギャグでやっているのか!?)



「盛り上がってキタでござるな?キルタ氏〜」(雑なだけぇ!?)クツクツと、彼女は笑う。(…裏も何もなくぅ?…うわぁぁ…)空気を読めない過干渉。せまる脅威を認知できない種類の人間。……疑惑を深める。(……だとしたら……)モヤモヤもする。


(こんな状況下、切るに切れないヤベー奴にまとわりつかれた時。……僕は、どう対応すれば良いんだ!?)

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