おいもが空を飛ぶ
親衛隊長バロン=ポテトがその奇妙な飛行機械を見つけたのは、――彼が『
「……!凄いな!それは凄い!!」
背面飛行で
その胴体には、……タンデムスカイダイビング。ハーネス状の革紐で
親衛隊長バロン=ポテトは下級貴族ではあるが、近衛兵団長の
金髪の
「ひいいい…」などと悲鳴を上げる胸の
暴風
「んん!?なんです!?」
「…警告はしましたよ。言いましたからねぇ」邪魔者に視界を
「んん!かしこい!流石は『
「出遅れようが
「……いいかね。力と結果と利益さえあれば、すべてゴリ押しで通るんだ」
顔を寄せ、
「…私を信じろ、『
技官の頭越しに、自らの胸を親指(サムズアップ)で指し示した。「このジーニアス=バロン=ポテトを!」
「天才の条件とはなんだ。天才が天才と認めることだろ!」
「私の
「いかに生まれの環境に
「今はお家も大変だというのに。お父上、マイユール公の…」
「…ゴキブリ野郎」銀髪少女がスロットルレバーと操縦桿をガクンと前に倒すと、たちまち回転翼機が前のめりの急降下に転ずる。
「おおっと!『クイックマニューバ』!!」高速回転するメインローター/ミキサー刃に巻き込まれそうになり、バロン=ポテトは鋭角な高速機動によって
「危ないだろ!!」腕を振り上げ、遠ざかる飛行機械を怒鳴りつける。ぷんすかぷんだ。
――地上すれすれ、建物を
……そんなバロンへと胸部より話しかける、
強風にも負けず、誇らしげに
「い、いえ。私の名は」
「きみは偉いなっ!
「素晴らしき助力に感謝する、ナントカくん。進んで嫌なことをしようとする姿勢が実に素晴らしい。有象無象を
「お褒め頂き、…いえ、ですからナントカくんでは…」
「人の嫌がる事を進んでする!私とてそうやってのし上がった!お陰ですっかり
「私の正体が
ピンとこない魔術技官は、とにかく背中越しの愛想笑いで調子を合わせた。
「流石は天才、ジーニアス=バロン=ポテト!素晴らしき自信ですな。実に堂々としていらっしゃる!」
「ワハハハハ!いいぞいいぞ。褒めたら意外となにか出るからな。さあ、
「ああ!そういえば
「『クイックマニューバ』は技の名前だろ!!」
ピシャリと怒鳴られポコンと叩かれて、技官は「ヒッ…!?」と萎縮する。
「???は、はい!?申し訳…」
「それより探査を続けたまえ!そろそろなのだろう?」またポコンと頭を叩かれた技官は、慌てて呪文を詠唱する。
「……【
――急速に
「しょうがないな。ほら、私のを使え。帰りは歩いて帰るんだぞ」ごそごそと首から引っこ抜いたマントを、技官の胸部に押し付ける。「え、ええっ!?」などと
◇
「……はっきりしてほしいのだけれど」しょんぼり気分の切田くんに
「…んー」困り顔のラキコに、
「隠し事はなしって言ったでしょう。私たちの信用を買いたいのではないの?…言葉と意志のすれちがいにもほどがあるわね」
「…困ったな。まあ、うちに集まる情報の分は知ってるよ。呼ばれた日にち。召喚時の状況。いくつかの入手した魔法。だいたいの『スキル』構成まで……」
「そう」聞いておきながらも態度で
「え、…は、はい」顔が良いのでイケメン彼女だ。トゥンク。
「ぅえ?ええ。なんとか…」
「……本当に心配したんだよ。きみが、アイツと
「……はい。
「……そう。よかった」「…爆発しろ…」「もゆもゆー?」
ふんふんする
「魔除けの話を続けるね。切田くんは今、そのカードキー『アミュ
「超常の力を持つ『迷宮』のマスターキー。最下層に棲む迷宮管理者、大魔術師イェンドナが持っていたとされるアミュレット。今は宰相マイユール公が、権利を継承していると聞いていたけれど」(牢屋で会った、白いお爺さんか)切田くんの脳裏に、頭がバーンとなる老人の姿がよぎる。(…僕がお爺さんを殺してしまったことで、呪いみたいに権利を
「だから、ってわけじゃないんだけど。…正直それがどうやってキルタくんの元に来たのか、元のカバンの中に戻ったのかはわからないんだよね…」
「……そうだね。そのアミュレットくんだって、自分の力の及ぶ限り、精一杯になってきみのことを追いかけてきたんじゃない?」
(…この人の言っている事が正しいのかどうか、今の僕に証明するすべはない…)ムムムとなる。(…だけど、この
慎重な問いかけに、ラキコは元のニコニコ顔で答えた。「危害を加えたり、それを奪ったりするつもりはないんだよ。さっきの話に戻ってくるけど」
「……きみ、【
「『はぁ』って、きみ、緊張感ないねぇ…」切田くんの様子を薄目で観察し、自然な口調を続ける。「【
「だからキルタくん。きみは一旦『迷宮』の中に逃げ込めばいい。私たちの用事も『迷宮』にあるんだよ。要は、きみの解除スキルを使ってほしい相手が、今、迷宮内に囚われているんだよね」
筋は通っている様に聞こえる。……判断するには情報が足りない。(正直、さっぱりわかんない…)脳死で聞き流す。「その後は?」「スキルを使った後の話?上司から説明があると思うよ」(…投げやり〜)
「……僕らは『迷宮』には入れませんよ。資格も立場もありませんし」
「そんなの堂々と入ればいいよ。正面から」
「…どうやってです?」
「……もちろん」――
「権力を使って」
「だから一緒に来て欲しいんだよ。詳しくは私の上司に……」
「……ラキコ、敵」緋村もゆが裾を引き、上を指差し凶事を告げる。(……敵?)切田くん達も空を見上げるが、……立ち並ぶ建物が邪魔で、視界内には何も確認出来ない。
「数は?」「…羽付き2、強いのが1。探査役がひとり、おまけで付いてる」
「親衛隊の増援かな?戦力の
(……なんか実感ないんだよな……)会話ばかりの実態なき情報。この非常事態が、いまいち他人事にしか思えなかった。(…何だろう。演劇の小芝居めいている、というか…)
「…『リーバ・グラビ・デオ・リパルス。集いし魔力を根源となし、星の
ラキコに触れて詠唱する赤目の少女が、ぼんやりと警告する。「…近距離なら保つ。回線切れたら1ターンが限界。着地して」
「了解。君らを追ってる兵隊だろうね。いいかいキルタくん、重要なのはきみだ。私たちは君の信用を買いたいので、今から君と、きみの大切な人を守ってみせる。ここまではいいね?」緊迫感も無しにつらつらと語る。「恩着せがましいのは分かってるけどね、姿勢はちゃんと
何でもない口調で、ラキコは穏やかに笑いかけた。「実は私、無敵なんだ。名前にも書いてあるでしょ?」
(…んなもん、
「先に呼ばれた先輩ってのもあるからね。
「まあ見ててよ」そう言うと彼女は、付与された飛行魔法でたちまち空へと飛び立ち、スイと屋根の陰に消えた。
……切田くんは、全力で
「…類くん…」心配げな声が聞こえる。(……東堂さんが気にする、無敵の『スキル』も無くはない。……ああ、もう。聞きかじっただけの情報って、なんでこんなにフワフワするんだろうな……)
(やり取りのキャッチボールが成立してるってだけで、この人たち、言ってるだけ感が凄いんだよ…)重箱の
(『そういうものだ』と割り切ってしまえば、騙されて死ぬのは僕の方だからな。……パーソナリティを読み取られないよう、わざと自我を消しているのかもしれないし……)
空の見える位置に移動し真偽を見定める事も出来るが、……演芸会。敵と仕込んだマッチポンプの可能性は残っている。順番に考えてみる。(判断を避け、彼女らを振り払って逃げようにも、…
(…だったら空に出て確認するべき?…『ガラス玉』が無いし、作る姿を見せたくない。手詰まりに近いな…)ムムムとなる。(しょうがない。ちと恥ずかしいけど、…東堂さんの力を借りてジャンプして、屋根を
(地対空戦闘ならば僕の『スキル』は刺さっている。
(……とにかく、戦闘の様子を自分の目で確認しないと。
(…まずは自分で確かめるんだ。…慌てるなよ。まだ何の準備も出来ていないんだから、まずは防御を固めてから…)「やっぱり追いましょう。手を貸してください。僕らは一度、屋根の上に…」
ふたりの挙動を正面からじっと眺め、……緋村もゆが、言葉を
「……あなた、『賢者』……?」
(……なんだ?)違和感。奇妙な
突如影差す、突然の落下物。ドンと屋根を跳ねたそれが踊りかかるみたいに
異常な事が起こっている。
仰向けの死体。マントらしき
建物の織りなす、狭い空。
肩紐の切れた、ショルダーバッグ。
呪いで離れぬカードキー。
漏れたワインの滲み出る、床の背負い袋。
無残に潰れた、マントを抱く死体。
「ちゃきーん」緋村もゆが
(……んぇ?)切田くんは酷く変な顔になる。変顔になる。「……はい?」(なんて?)
「やっぱりそうでござるよなあキルタ氏!ヌハハハハ!」黒縁メガネで萌え袖の少女は、ふんぞり返って笑い声を上げた。
(え、何!?)「…おま、あなたは何を言ってるんだ。突然なにを、今はそれどころじゃ、…いや、何なんです!?勝手に決めつけて!」
黒縁メガネを半分ずらし、赤目の少女は冷たくのたまう。「…『賢者』の枠で呼ばれる奴なんて、マキャベリ気取りかオタクでしょ」
「おい、全国の『賢者』に謝れ」
「類くん?」東堂さんが、不安げに声を上げる。
「…マキャベリにもだ」などと追撃する少年を見やり、緋村もゆはメガネをクイと戻した。
「キルタ氏はオタクな
(……なぁにこの理不尽生物……)ラキコどころかアルコルよりも怖い。「…あの、僕らはリア充なんかじゃないです。そもそもリア充というのは、僕とは違って陽キャの延長線上で…」「!嘘をつくなぁっ!!」赤目の少女はキイと睨んだ。(…なんなの…)
「……嘘をつくな」
(何で二回畳み掛けるの)
「…うっさい!!」
(三段階で否定された)
黒縁メガネをクイと
「…いや、欲しがらないでもらえますか?無闇に三段でディスった所で、別に僕ら仲良くないんで。ボケだか
「類くん!?」
「やはり見込んだ通りの男にござったなキルタ氏〜」
「いや、今は本当にそれどころじゃないんで。…僕らは上に…」
「クックック。やっと同志に巡り会えたようでござるな。実に
(本当に何を言ってるんだ、この人は…)超早口だ。目にも止まらない。女賢者は女教師とフォルダが
東堂さんがあからさまにムッとして、腕がグイと引き寄せられる。強引で握力が強い。……冷ややかで、剣呑で、
(…わざと足止めをしている?屋根上行きを妨害して、手の内を見せないつもり…?)戦闘が行われているはずの、狭い空を見上げる。
(ラキコさんが本当に一人で戦っているのなら、…『スキル』相性や魔法の手持ち次第では、返り討ちになる可能性だって十分にある。支援や後詰めは必要なはずなんだ…)
(しかも、布石が無駄になる。僕に上の戦闘を見せないって事はさ、…『僕らとも、いずれ戦うつもりだから隠してる』、って事になっちゃうんだぞ?)
(…この人が、本当に
ふと、嫌な予感に駆られた。選択されるべきではない、本当に許されざる可能性。(……おい、待ってくれ)
……胃や頭が、締め付けられる様に痛い。切田くんは予感への疑惑に、ひどく
(……ひょっとして、それはギャグでやっているのか!?)
「盛り上がってキタでござるな?キルタ氏〜」(雑なだけぇ!?)クツクツと、彼女は笑う。(…裏も何もなくぅ?…うわぁぁ…)空気を読めない過干渉。
(こんな状況下、切るに切れないヤベー奴にまとわりつかれた時。……僕は、どう対応すれば良いんだ!?)
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