好感度が100になりました
港湾部居住区、グラシス組のアジト。
ガバナの『スカウトマン』たるスキルホルダー、『寝取りのネッド』は、新人どもの片割れ女を
部屋の合鍵もあるにはあったが、今使えば決定的な不信を植え付けるだけだろう。――第一、『好感度』のスキルを使うのは
「……
(『好感度』プラス1。実にチョロい)ネッドはほくそ
◇
それからふたりは、いろいろな話をする。キルタの話だ。
どんな奴か、良い所、キルタの直してほしい所。(「…
そして、その時が来た。
扉の向こうの声の調子が変わる。不信も、気だるさも、つっけんどんな態度も。すべて突然消え去ってしまった様に。「……あっ、……そっか。そうなんだ……」――
「ねぇネッド。私、あなたの事が好きだと思う」
(『好感度』100、
(…さて。おとぼけキルタに見せつけるためにも、
扉の向こうの、声が答えた。
「それは駄目」
(……何?)意外な答えに、ひどく
平坦な声が
「あなたのことを想うと、好きの気持ちが
「…うん。うん?」(…何だって?)ネッドは
「私、今は切田くんのことを待たなければいけないの」
……激しい
(ああ?なにがしたいんだよこの女。脳内か?
「あなたの言うことももっともね、ネッド。でも、それは困るの」
「…なんで」
「ここを開けてあなたを
「……なにをわけのわからんことを……」意味不明。意図不明。
「ねえネッド。あなた、本当の信頼って見たことある?」
(……うわぁ)ネッドはひどく
「無いな。まあ」
「ふふ」扉の向こうは、コロコロと
「馬鹿みたいよね、『本当の信頼』。自分探しがキラキラするために言うたぐいの。自分では
「……お、おう。そうかもな?」
ネッドはこの場所に、酷い
「…でもね。切田くんはそれをくれる気がするの」
「感じたのよ。切田くんは他の人とは違う」
「きっと
「『本当の信頼』、ふふ、馬鹿みたいよね。本当に」
「だって、見てよ!世の中を、世界を。そんなもの『フィクション』の中にしか無いじゃない!」
「…フィ、フィクション?」
「でもね、彼はそれをくれたのよ。いいえ、
「あがいてくれているのよ」
「それを私に向けてくれている。…切田くんが、切田くん」
「…はぁっ…」
「
「だって、そんなの」
「好きとか、性とか」
「
「ああ…何かしらこの気持ち。なんて言葉にするのかな」
「『
「アハッ、言葉って馬鹿みたいね?」
「だから
「心も、
「そう演じ続けるの。だって他にやり方がわからないもの。切田くんの大切な信頼が、どこかに行ってしまわないようにするやり方が」
「そう、私は切田くんの『聖女』をすればいい!」
「『自分が傷つくような戦い方なんて止めて!』ですって。アハッ、アハハ!馬鹿みたいよねえ。カマトトって言うんでしょう!?こういうの!」
「だって、そうしないと、切田くんは、どこかに行ってしまう!」
「私なんて切田くんに必要な女じゃないんだもの!」
「…ふふ…でもね、でも、ね?切田くんが自分を
「もし傷ついて帰って来るのなら」
「…ふふ…」
「『
「ふふ…アハハ!私が必要になる!私が切田くんに!やったわ!やった…やったあ…」
「アハ。
「もう離さない。離れられない。絶対に離さないから」
「ふふ…アハハハハ!!」
扉を
「ふふ…好きよ、ネッド。どうしてあなたが好きなのか、私には全然理解できないのだけれど」
「きっと私には理解できない、見えない力がそこに流れているのね?…ねえ、ネッド?」
(……チッ……)
扉の向こうが、続ける。「だからその力は、これからは切田くんのために役に立ててほしいの」
「……はい?」
「そうよ。こんなに私が好きだと思えるネッドですもの。あなたならきっと切田くんの役に立てるわ!…どうか切田くんに、その力を貸して、ネッド!」
(……ああ……くそっ……)重圧みたいに締め付ける衝動に、無言になる。
「……ネッド?……ねぇ、ネッド?」
「返事」
「へ?」ドゴン!!と、扉が
「ねぇ、ネッド?」ゴン、
「わかるよね?」ゴン、
「私の言ってること、わかるよね?」ゴン、
「私が好きだと思える人だもの。そのぐらいわかるよね?」ゴン、
「でないと変でしょ?おかしいでしょ?」ゴン、
「見えない力の話だよ?」ゴン、
「切田くんは
「私、何かおかしなこと言ってる?」ゴン、
「言ってないよね?」ゴン、
「なのに、どうしてわからないの?」ゴン、
「私が好きになった人だよね?」ゴン、
「変だよね?」ゴン、
「そんな人、私が好きになるわけないもの」ゴン、
「ねえ、変だよね?」ゴン、
「そんなんじゃ
「っ!いやいや、待て待てっ!そんな風に突然言われてもさ!」
「ほら!…なんていうか、そういうのって、…ほら、
「…ちゃんと持ち帰ってじっくり考えるっての。
「……そうね」扉を
「あなたの言うことももっともね、ネッド」
「……ああ。それで、結局の所。今日はここを開けてはくれないって事でいいんだよな?」
(【魅了】の最大効果は、視覚からの影響がもっとも強い)
(対象が目に入った時の衝動の
(…使うか?合鍵を)ポケットに手を当てて昏い
「明日、顔をあわせましょう。切田くんと一緒にまた話し合いましょう、ネッド。あなたへの
「……それに、持ち帰って、じっくりと考えてくれるのでしょう?」
(……ふん)
(そうだな。キルタの目の前で心変わりをさせるのも面白いか)ほくそ笑む。第一、こんなメンヘライカレポンチを
「わかったよ。今日は帰るわ。…また明日な」
「ええ、また明日」
◇
「ふふ、出会いというのはあるものね。理由がよくわからないのだけれど」東堂さんは扉を
「…ああ、だけど、『好きだ』なんて言ってしまって」
「……切田くんにも言ったこと無いのに……」
「
「『世にあまねく聖なるものよ』」
「『淀みを
「…【
――
彼女はゆっくりと、目を開ける。
嫌悪感。
最初に感じたのは、激しい
なぜ?
どうしてこうなった?
……自分の中でまとまり、理解を
血が
「ああ…やってくれる…やってくれたわね…ガバナ…ネッド!」
ヘビーメイスを
◇
「おつかれさんっと」アジトの入り口を内側から守る門番に声をかけ、ネッドは夜の街に繰り出した。「……けっ。ドウシテわかんないの〜?だとさ。知るかバーカ。
「…こっちの苦労だって、お前も何も分かってねえくせに…」
――『スキル』で女を良いように
それは後ろめたさではない。ネッドを
魅了状態、もしくは高い『好感度』による思考誘導で関係を作っても、相手の不自然な好感にまみれた言葉にネッドが返せるのは、いつもそれにそぐわない、違和感のある言葉。……合わせたことさえ不安になる、通じ合わぬ言語の
グラシスが言うようなデカいことをする
だが、その
「『スキル』が作った
「『好感度』で
夜風に
「酔っ払いも、女の世話を
「『頼りになるな、ネッド』『お前がいねえと始まらねえな、ネッド』。それみろ!みんなの思いが後押しするんだ。俺のやり方が、世界と
「
「……そりゃあ、まあ。俺にちょっとぐらい足りねえ部分があってもだ。将来性ってものを考えてさあ、まともに俺を
「ファミリーなんだ。手を掛けて、
「若いんだからさ!」
毛玉みたいに
「ふん。だが、まあ今回はあれだな。あの
「ハハ。我ながら
「…そりゃあ誰だって、自分が嫌な奴だなんて思われたくはない。だから認めない」
「だがな。世界中のありとあらゆるすべての人間は。
「この感覚は、
「……まあ、
「ざまぁ、ってことだよ、キルタ。ハハハッ!」
ヒュッ、と音がした。
視界が突然回転した。(ん?…なんだ?)
……回転が止まり、ネッドは
「…な、何が…」
「こんばんわ、ネッド」
夜風にそよぐ
――その純白さには、
夜の
思わず意識を
(…なんて、美しい…)
――そして、昏い欲望が身をもたげた。(自分のものにしたい。『好感度』のスキルを使ってでも!)
脚だ。
自分へとつながっている。自身の足だ。
それは
脂汗が吹き上がり、激痛が
「ごめんね、ネッド。痛いよね?」
つかつかと女は歩み寄り、
「……でもね。私の味わった痛みは、こんなものじゃない。……『ごめんね、ネッド。痛いよね?』ですって。馬鹿みたいよね?ふふ……」
「『んんんあああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!』」
爆発的衝動。振り下ろされた右足が、ネッドの無事な太腿骨を一瞬のうちに踏み砕いた。肉が
「うがあああああああああああああああっっっっ!!」ネッドは限界まで腹の空気を
「だから
声にはたしかに聞き覚えがあった。信じがたいことに、この美女は、あのイカれたフードのメンヘラ女だ。「……て、てめえ、トードーかっ……!!」
東堂さんはカクンと首を
「アハッ」
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