第24話 Cランクハンター活動記(4)

 俺とリシュルゥ、そして偶然再会したボルボさんとハンターギルドへ。

 ハンターはかなりの数がいるが、広間にいるハンターはほとんど下位のハンターたちだ。上位ハンター認定試験で見かけた人も何人かいる。下位のクエストは雑用レベルのクエストばかり。認定試験を突破しなければ稼ぎのいいクエストを受けることすらできないんだ。


「リシュルゥ、ここがハンターギルドだ。物騒な人が多いから気をつけてくれ」

「わかった。けどちょっと怖い」


 千年京に動物的な種族はいない。たまに行商が訪れるくらいだ。

 ボルボさんもそうだが、体がデカくて威圧感がある人が多い。

 ハンターギルドの受付にはパンダ族のコッペさんがいた。


「おう、ボルボとナナセか。そのちっこい人間種はなんだ?」

「この子はリシュルゥです。俺の属性魔法は全部リシュルゥから教わったんですよ」

「ほー。上位のクエストはチームで受けることを推奨してる。自信があっても不測の事態ってのは起きるもんだ」

「そうですね……そうだボルボさん、せっかくだし俺たちと一緒にクエストを受けませんか? 近接が俺以外にもう一人いるとかなり安定すると思うんですけど」


 リシュルゥは強いが、戦闘が本職じゃない。俺を守ると意気込んでくれているのは嬉しいが、できる限り負担をかけたくない。

 ボルボさんはニカっと笑って快諾してくれた。


「俺でよけりゃいくらでも盾になってやるぜ」

「ありがとうございます! じゃあコッペさん、クエストはありますか?」

「いいのから悪いのまでたっぷりきてるなぁ。いい加減売れ残りも片さなくちゃいけないんだが、なかなか受けるやつがいなくてなー」

「売れ残りクエストですか。どんなのか聞かせてもらえますか?」


 横のボルボさんは顔をしかめ露骨に嫌そうな顔をして言う。


「おいおいナナセ、俺たちは売れ残るようなクエストをやりたくなくて上位ハンターになったんじゃないのか? 相当面倒で割に合わないやつだろ?」

「まぁものすごい大変で苦行でしかないようなクエストなら俺も嫌ですけど、誰かがやらなきゃいけないと思うし、困ってる人がいるなら聞いてみるくらいはしないと」

「物好きなやつだな。けど一緒に行くって決めたからにはナナセの決定に従う。なんたってナナセの初クエストだしよ」

「ありがとうございます、ボルボさん。まだ受けるとは決めてないですが。コッペさんその売れ残りクエストを教えてもらえますか?」


 丸い体のコッペさんはのそのそとカウンターの下を漁る。

 一枚の紙を取り出して読み上げた。


「あーこれだこれ。地下水道第二区域の魔物退治。魔物ってのはおそらく水棲キバネズミとか毒霧コウモリとか、あとはゴブリンもいるな」


 ゴブリンは想像している通りの魔物なんだろう。前の二体はネズミとコウモリらしいが大きさとかが想像できない。


「それって強いんですか?」

「いんや。認定試験の一次試験で泡吹いてたやつでも倒せるくらいの魔物だ。問題なのはそっちじゃない。お前さんたち、地下水道第二区域って知ってるか?」

「いえ……俺はまったく……」

「俺もよそ者だから知らねぇ」


 コッペさんはまたカウンターの下をガサゴソと漁る。

 出てきたのは大きな地図だった。


「これは天球礼拝地の全体図だ。ハンターギルドがこの辺だな」 

「へぇー全体図ってこういう感じなんですか」

「この都市の地下には十字に水路が流れてるんだ。それを四つに区分けして呼んでる。北が第一区域、東が第二区域って具合に」

「それだと第二区域って……都市の横半分の距離ってことですか!?」

「おう、その通り」


 天球礼拝地はかなり広い。歩いてだと端から端まで四時間以上かかるだろう。


「第二区域は毎年ハンターギルドが受け持ってるが、期限ギリギリまで受けるやつがいなくてな。いつも無理矢理数を集めてどうにか終わらせてる」

「これは大変そうですね。当然一日じゃ終わりませんよね?」

「朝早くから深夜までみっちりやれば一日で終わるぞ」


 引き受けるとなれば三日はかかるだろう。どうしよっかな?

 俺はあんまり嫌じゃない。十分に休憩をとって自分のペースで進めればそれほど苦痛じゃないように見える。


「ちなみに報酬は?」

「あー、金貨十二枚」


 物価の違いはあるが、銀貨が一枚百円くらいで、金貨が一枚一万円くらいだ。

 三日か四日働いて十二万円と聞くと多く聞こえるが、チームで分けるとなると途端に金額が小さくなる。一般人からすると割がいいと思うが、上位ハンター基準で考えると拘束時間が長くて地味で安いクエストだ。


「おいおい、三人で分けたら一人金貨四枚じゃねぇか。一日で一人金貨五枚稼げるクエストがゴロゴロあんのにそんなの受けるやついないだろ」 

「んまぁ俺も同感だがなー。これは公共事業だからこの金額しか出せないんだ」


 暮らしに必要な仕事は報酬が安い。致し方ないことだ。


「コッペさん、地下水道の経路図はもらえるんですか?」

「ん? お、おう。もちろん」


 ボルボさんは口をあんぐり開けてドン引きしている。


「ナナセ……正気か? お前の実力ならもっとすごいクエストを楽にできるだろ?」


 俺はサブクエストをすべて終わらせてからストーリーを進めるタイプなんだ。地下水道のクエストがあると聞いてそれを無視するのはどうも気持ちよくない。


「多分三日は通わなくちゃだけど、いいかリシュルゥ?」

「うん。わたしはどこだろうとせんせぇについていく」

「このクエストは俺とリシュルゥでやりますから、ボルボさんは好きなクエストを受けてください」

「急にはしご外すなよ! 俺も行くに決まってるだろうが! ここで断ったら金のことしか考えてないちいせぇ男になっちまう」

「そんなこと気にしなくていいと思いますけど。本当にいいんですね?」

「あぁ二言はないぜ」


 上位ハンターになってこういうことがしたい、という目標を俺は持っていない。武者修行感覚でハンターになった俺は経験が積めればそれでいいと思っている。地下水道の敵は弱いという。けどこれも経験だ。ギルドもクエストが片付いて嬉しいみたいだし。


「じゃあ行きましょうか」 





 俺の初クエストは地下水道第二区域の魔物退治に決まった。

 地下水道の経路図を受け取り、俺たち三人は地下水道の入り口へ向かう。


「ここが地下水道の入り口か」


 ハンターギルドからそう遠くない場所にあった。見た感じ普通の倉庫の入り口みたいだけど、経路図にはここが入り口と書かれている。


「扉に鍵はかかってないみたいだ。奥に階段が続いてる」

「薄暗くてカビ臭い場所かもな」

「行ってみないとわからないし、とりあえず行ってみましょう。ボルボさん準備とか大丈夫ですか?」

「おう、俺はこの拳があれば他にはいらねぇ」

「じゃあ降りてみましょう」


 ボルボさんは実に頼もしい。

 階段を降りていくと数度気温が下がり肌がひんやりする。階段を降りきった先には広々とした空間が広がっていた。真っ直ぐと水路が伸びていて水が流れる音が絶え間なく響いている。


「結構広いんですね。もっと窮屈な場所かと思ってましたけど」

「驚くほど広いな。こんなのが地下にあったとは」

「これは複数の大型魔導力機でできた循環システム。この地下水道を完成させるのに百年近くかかったという文献が残ってるよ」

「なるほど……魔導力機工学の歴史に載ってるくらいすごいのか……」


 リシュルゥは知識を披露できて満足気な顔をしている。

 広い空間の壁には薄っすら光る照明が付いているので見通しは悪くない。さらにところどころに天井から木漏れ日のような光が差し込んでいた。地上と繋がっている排水溝のようだ。


「えっと……ここがB-1地点で……向こうの別れ道の右側がB-2。左側はB-A-1……別れ道が結構あるりますね……」

「本流は真っ直ぐだが脇道があるんだな。一つ一つ潰すしかないか。まだ魔物の気配は感じないし進むぞ」


 本流だけ真っ直ぐ歩いていけば二時間ほどで端まで行けそうだが、入り組んだ別れ道がいくつかある。魔物を取りこぼさないようにしないとだ。


「せんせぇ、待って」


 敵影もなくしばらく歩いていたところ、リシュルゥが真剣な声で俺を呼び止めた。

 リシュルゥは光の球体を天井に向かって打ち上げる。


「なんだありゃ!」

「天井に張り付いてるんだ。あれが毒霧コウモリってやつか、くるぞ!」


 天井にはいくつもの光る目が。瞬時に翼を開きこちらへ降下を始めた。

 ピシャっと毒霧を吐いている。


「リシュルゥ、あの毒霧を風魔法で飛ばしてくれ! 俺とボルボさんで襲ってくるやつに対処する!」

「任せてせんせぇ」


 毒霧にどの程度の毒があるかわからない。回避が一番だろう。幸い霧なら風魔法で容易に対処できる。毒霧はリシュルゥに任せて俺は剣を抜く。急降下して襲いかかるコウモリを一体切り捨てると簡単に真っ二つになって絶命した。


「動きは思ったほど速くないみたいです。体も大きいし狙いは付けやすいですね」

「おうよ! 俺も一体殴り潰してやったぜ」


 確実に一体一体倒していく。

 逃げようとする数匹に雷閃で追撃すると焼け焦げて地に落ちる。

 一分足らずですべて倒すことができた。


「パンダの教官が言ってた通り魔物は雑魚だな」

「そうですね、めんどくさいのがメインのクエストみたいですし」

「戦った気がしないがまぁいい。進もうぜ」


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