孤独な目
長谷川 優
第1話
隆二と真紀が初めて出会ったのは、キャンパスの秋の風が心地よい午後だった。二人とも寮に向かう途中、キャンパス内の小さな噴水広場で偶然顔を合わせ、互いに日本から来た留学生であることがわかると自然に話が弾んだ。
真紀は控えめで、気取らず飾らないタイプの人間だった。目立つことなく、いつも静かに本を読んでいる姿が印象的だったが、話してみると意外なほど率直で、時には辛辣なユーモアで笑わせてくれる。そんな彼女の飾らない魅力に、隆二も少しずつ惹かれていった。
その後、図書館や食堂で顔を合わせるたびに声をかけるようになり、やがて一緒に授業を受けたり、勉強をする仲にまで発展していった。特別な絆が芽生え始めていた頃、真紀は隆二に少しずつ心を開き始めていった。
そしてある日、真紀は意を決して、誰にも言えなかった悩みを隆二に打ち明けた。
まだ学生だった隆二は、同じ大学に通っていた真紀から、ストーカーの被害に遭っていると密かに打ち明けられた。
「隆二、今まで言いにくかったんだけど、最近ストーカーっぽい行為を受けてて、ちょっと怖いんだよね」
「ストーカー?」
「うん」
「どんな被害に遭ってるの?」
「メールが来るんだ」
「メール? どんな内容?」
「…口にできないくらい卑猥な内容なんだけど」
「転送できる?」
「うん、ちょっと待ってて」
そう言って、真紀はスマホのメールアプリを開き、ストーカーからのメールを見つけて隆二に転送した。
隆二は転送されたメールを確認し、15秒ほど黙り込んだ後、言った。
「これは…かなり露骨だな。心当たりはないの?」
「全然見当がつかないんだよね」
「だって、これ…ほとんどレイプ予告だよ」
「…うん。それに、この内容、今私が座っている席まで知ってるよね。今日の服装も当たってるし…」
「警備に相談した方がいいんじゃないか?」
「まあ、そうだね」
「俺が話そうか?」
「大丈夫。タイミングを見て自分で話すよ。ねぇ、もし迷惑じゃなければなんだけど、今日このあと寮まで一緒に帰ってもらえない?」
「ああ、いいよ。こんなメールが届いて一人で帰るのは不安だろうし」
大学時代、私たちは学生寮で生活していた。二人ともアメリカの大学のキャンパス内にある別々の寮で暮らしていたが、隆二の寮は真紀の寮の隣で、女子寮だった。
安心できるのは、真紀の寮が女子寮だから、その中にいる男子学生ではないことは確かだということだ。
真紀のメールを見せてもらったのは、夜のキャンパス内にあるコンピューターセンターだった。その時間帯にはまだ学生が多く、誰がストーカーメールを送ったのかまったく見当もつかないほどの人が部屋にいた。
夜の9時を回り、真紀が論文の宿題を終えたところで私たちはコンピューターセンターを後にした。特に怪しい人物もおらず、二人とももやもやしたまま寮へと向かった。
真紀は、なんと言ったらいいのか難しいが、誰もが振り返るような派手な容姿でもなく、決してお洒落というわけでもない。どちらかと言えば地味なスタイルで、ジーンズか、スカートを履いていたとしてもロングのひらひらとしたスカートがほとんどだ。だから、露出で誰かを挑発しているようにも思えない。
一言で表現すると「典型的な女性とは少し違う」感じだろう。感情的になることも少なく、世間で「女性が喜ぶ」とされる振る舞いに対しても関心が薄い。男っぽさもあるが、どこか超然とした女性らしさもある、そんなタイプの女の子だった。
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