2年目 後

今の俺達は横に向かって落ちている。


ちょっと魔法の種類をミスっちゃったせいで、時間が経つたびにどんどん速度が上がり、次に瞬きをすれば目標に追突するのは間違いない。


ん?そんなに早いならなんでこんなに思考できているのか、だって?

人って死ぬ直前、凄くゆっくりになるって言うよね。


うん、そろそろ動き出すんじゃ無いかなぁ。


「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「さらば世界……」


上がアルス、下が俺。


ボギャ!!


今のが目標が木っ端微塵になった音で、


「「ぐぇぇ……」」


物にぶつかったことにより魔法と勢いが消失し、地面に落ちた俺達が吐き気を我慢して終了となります。


「大丈夫か、リース……」

「ん……」


青色の血に塗れながらも俺の魔法と元から硬くて頑丈なアルスが庇ってくれたおかげで無傷で着陸した。


「投石攻撃みたいな感じだったな、石が俺達だけど……」

「うゅ……」


お互いに顔色が悪いながらも支えながら立ち上がる、といっても身長差的に俺が寄りかかってる感じだけど。


「む?」

「どうした〜……」

「敵、集まってきてる」

「いや、まじか」


指揮官的な魔物を殺されたのを察知した他の魔物がここへ集まってきているのが気配でわかる。


指揮官が死んだことで全体の連携が崩れて戦いやすくなるかと思ったけど、実際はそうでもなかった。

同じ種類の魔物同士で固まることで全体指揮を取る奴が居なくなっても、小さな集団での連携はもちろん近くにいる集団との意思疎通ぐらいは出来ていた。


つまりだ、


「やるぞリース、此処でコイツらを足止めしつつ要塞からの応援部隊を待つぞ」

「倒しちゃっても……?」

「……それ負けるセリフだから辞めろ」


全体での進行が遅れるが、魔王軍側の戦力がまだ残っているため即時撤退とはならない。

というより、撤退の連絡ができるであろう指揮官が居ないのだから相手からすれば戦うしかない。


それこそ死ぬ覚悟で。


……もしかしたら俺達、戦犯かな?



ーーー1日後ーーー


「勝利ぃぃぃ!!!」

「ぉぉぉ〜〜……」


数多の魔物の残骸の山の上、アルスが勇者というより山賊や蛮族のような表情で勝利宣言をしている。


ちなみにだが、流石の勇者も1日中戦い続けるのは難しかったらしく負傷が増え始めた頃に俺の魔法で酔っている時のテンションを無理矢理引き出し、戦闘の疲れを忘れさせているせいで、あの表情である。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


ドラミングしちゃって、ゴリラかな?


「魔法、解く……?」

「いや砦に帰るまではこのままで、絶対に動けなくなっちゃうからねぇぇ!!」

「ん……」


この五月蝿いアルスと一緒に帰るのかぁ。

まぁでも、魔法解いて動けなくなっちゃったら砦に帰るまで時間掛かっちゃう、砦に残ってるはずの2人も心配だし魔力の消費は仕方ない。


「早よ乗れい」

「待って……」


指揮官の亡骸から大きな魔石を取り出して持つ、1日帰らなかったら嫌味を言われちゃうかもだし証拠は大切。


「デカいな、一瞬で倒したから強さがわからなかったが……上級にギリギリ入りそうで入らなそうな魔物だな」

「ん、確かに……」


一瞬で半身吹き飛ばしたからマジで強さわからなかったけど、これは魔物から手に入る魔石の中でもかなり大きい。

用途としては勇者の中でも一部の奴しか持ってない超高級装備の加工に使われるだろう、ちなみにだが俺達のパーティーでは誰も持ってない。


でも、王族は持ってた。


戦わないのになんで持ってんだ、貸せよ。

アルスの背中で魔石を見ながらサンタクロースみたいな王様の姿を思い出してると、


「売った金で島買って老後過ごすか」


アルスが変なことを言い出したからとりあえず、


チョップ


「イタッ」

「早すぎ……」


若いうちに老後を考えすぎるのは危険だぞ。


「リースがそう言ったとしても譲れんぞ、なるべく早く隠居するのは俺達の目標だからな」

「たち……?」

「そうだ、俺とヘレンとメリッサ、そしてリースのな」


そんな目標初耳なんですけど、私が聞いたのは人類を守ろう!みたいなのだったし、砦に来た時に言ってたのはそっちだと思ってたんだけど!

というかメリッサとヘレンは知ってたの?


「んむぅ……」


それって仲間外れ?悲しみ……


「そんな悲しそうな鳴き声出すな、まだ俺しか知らないしな」


チョップ!


「イタッ!」


別にさっきのは鳴き声じゃねぇよ、気持ちが落ち込んだから勝手に出ちゃったんだよ。


「そろそろ何か食いてぇな……」


シュッ!シュッ!


ちょっと腹が立った私は話しかけられても無視し、チョップの練習をしていた。

そのうち俺達が配置された砦が見えてきた。


「────!」


向こうからも見えたみたいで何か言ってる兵士が手を振ってきた、砦全体が騒がしくなってる。


「勇者様!ご無事でしたか!」

「あぁ……」


門番の兵士に声を掛けられ砦に入ると、前に会った嫌味言ってきた砦の責任者が近寄ってきた。


「勇者様とそこの魔法使いが行方不明の間に魔王軍の襲撃がありまして、数がかなり多く長期戦を覚悟していましたが、なんとか追い返す事に成功したのです」


また嫌味だ、バカにしてやろうって雰囲気を感じる。


「それで、勇者様は大変な時にどちらへ?」

「リース、例の物を」

「ん……!」


例の物、それは大きな魔石。


「それは!」

「俺とリースはここを攻めてきていた魔王軍の指揮官を仕留めてきた、砦は優秀な騎士の方々がなんとかしてくれると信じていたからな」


いつの間にか俺達の周りには騎士が集まっていた。


「だが皆さんが大変な時に砦に入れなかったことは謝罪したい、申し訳なかった」

「……謝罪の必要は無い。

お前達何をしている!早く砦の修復に戻れ!」


嫌味な人はそう言って周囲の騎士を散らし、俺達を無視して去っていく。


「砦の4階東が貴方達の部屋だ、そこで休むといい」


最後にそう声を掛けた、おいおいツンデレかよ。


「……降りてくれ」

「ん」

「あと、出来れば運んでくれ」

「ん……ん?」


バタン


俺を下ろして倒れたアルス、一瞬焦りながらも疲れが出たんだと理解した。


ツンツン


「や、やめてくれ、筋肉痛を更に酷くした感じなんだ」

「ふふふ」


このままツンツンし続けるのも楽しそうだ、でも俺も休みたいし魔法で運んで──


「リースちゃーん!」

「ぐぇ」


この声と後頭部に当たる柔らかさはメリッサだ。


「心配したんだよ!本当に無事でよかったよぉぉぉ!!!」

「心配、ごめん……」

「うぇぇぇん」


泣かせてしまった……

女になっても心はまだ男、ここは黙ってされるがままにしておこう。心配をかけてしまったお詫びだ。


「今から明日の夜まではわだじどいっじょに過ごしてもらうがらぁ!」

「ん……」









「俺のこと、忘れてね?」


倒れたまま放置されたアルスは訓練を終えて部屋に戻る最中のヘレンに発見され、半分引きずられながら部屋に戻ったとか。


追記、アルスが拗ねてて面倒でした


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