前章 旧エピローグ

前章 絶望の淵から始まる物語

冥界 最終層 賢者の間

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 体が、熱い。魔力の使い過ぎで燃えるように痛い。


「このままじゃ、ジリ貧で負ける...」


「ほう、今のを耐えるのか...」


 俺、アストロン・フィルドは冥界で一人で世界のために戦っている。

 余裕な素振りを見せる、白髭が目立つこの老人は賢者。この世界では神と呼ばれている。別格の強さを誇り、この世界を創世したともいわれている。


 神と呼ばれる、何よりの理由は、その強さだけだは無く、大昔はこの世界にいた。それは長く続くわけではなく、他の賢者と一緒に冥界に上っていった。


 それで人々は、人間とは違うと感覚的に感じたらしい。


 賢者がまた暇つぶしにと、ごちゃごちゃと喋っている。


「ここまで人間と戦ったのは久しぶりじゃぞ。」


「そりゃどうも…」


 一見、弱そうに見えるが、まぎれもなく賢者であり、世界最強と称されるほどだ。


 こんな化け物と戦っているのは、もちろん理由がある。


 世界を救う― なんて言っても過言じゃないほどの。


 賢者は大昔、冥界に上った理由がある。それは、人間に愛想が尽きたのだ。もともと、奴は人間はあまり好きじゃなかったみたいだが、いつまで経っても戦争がずっと続くので、人間のを肯定することを諦めた。


 それからどんな理由があってか、愛想が尽きた人間にまた接触したのかは知らない。


 賢者は自分の教徒である聖教団を利用し、人間同士を選別をしようとし、俺の妹は犠牲になった。妹だけじゃない、母さんや俺の村の人たちまでもだ。 


「おい、くそ賢者!最後の勇者はどうしたんだ?」


 最後の勇者。それは人類にとってかけなしの希望であった。


「あの弱勇者か?ああ、しっかりと責任もって、保存しておる。」


「チッ!いつもお前は保存、保存って、それしか言わねぇな。」


 いつも奴から「保存」という単語が出てくる。今まで、奴に聞いたり、調べたりしてあらゆる手をもっても分からなった。


「にしても、弱勇者は転生者じゃったのに、呆れるほど弱かったのう。」


「おい!その転生者ってなんだ!?何でもかんでも知ってやがの、知識自慢も大概にしろ。」


 干し柿みたく老いぼれた顔が少し、ニコっとした。それだけ知識自慢がしたかったのかよ…


「転生とは異界から人間を呼ぶことじゃ、最後の勇者や魔王もそうじゃったな。」


 聖書に書いてあった、輪廻転生みたいなものか。それを人為的、いや神為的というべきか、それを起こすのが転生やら召喚ってわけか。そんなこと全然知らなかった。


「ああ、あと他にもいるわい、お主の妹とかじゃ。」


「は!?お前、急に何言ってんだ!妹のラナはそんな話一切したことがないぞ?どういうことだ。ジジイ、嘘だろ!」


「儂は嘘は言わん。さぁ、どういうことだろうな?自分の頭で考えてみるんじゃな。」


 くっそ。妹が転生者?ありえない。奴の話からすると転生者は出自や、出生が不明なんだ。俺の妹であるラナ・フィルドはどう考えても違うだろ。


 ラナ・フィルド――俺の大事な妹。


 ラナは元気でとにかく明るく、天然だ。超超超大切にしていたし、これからもするつもりだった。俺の一番大事で必要なやつだったから。


「ラナ、お前に会いたい…」


「来ないのか?ならわしが行くだけだがの。」


 さっきまで、べちゃくちゃしゃべっていたやつだが、動作になんの前触れもない。


 一瞬、クソジジイが視界から消える。


「速っ!」

 剣筋から、閃光が見えた。けれど、剣そのものは全く見えなかった。これじゃあ、スキル、アビリティ、ギフトどれも凌駕する力じゃねぇか!


「速く、姿勢を...」


 瞬間、悪寒がした。


「あまりに脆すぎじゃのう。やはり、最高に楽しめないのう。」


「こんなもの!だらぁあああ!!!!」


 ぎりぎりのところ、クソジジイの聖剣をうけながした。

 近距離での千載一遇のチャンス。

 瞬時、最後の力を振り絞り、賢者の首筋を一直線に狙う。


「そのクビィ!!!貰ったぁ!!」


 取った。


 そう確信した時、パリ!っと剣先が崩壊。崩壊とともに俺の体は絶望のカウントダウンを数える。本能的に死を悟った。


「もう剣が!」


 これを剣とは言えないくらい、ボロボロの状態だった。 


 剣は賢者の首筋に届くことなく、空気を切り裂こうとする。


「やはり、まだまだじゃの。まぁ、神であるこの儂に敵うはずもないがのぅ。」


 グチュ。内臓が。これはやばい。賢者の拳が腹に届き、アーマーを貫通した。


「痛っ!!!なんなんだ!?」


 俺はその時見えなかった、というか認識する前にスキル、アビリティを合わせた攻撃くらってしまう。


 くっそ、なんでジジイのこぶしが俺の腹に届いてるんだよ。しかもこっちっは騎士が装備する特注の銀のプレートアーマーだぞ。言えるのは絶望的だということだけ。腹パンだけで何十メートルもぶっ飛んだ。


 痛い。痛すぎる。ここまで光の兵士として、いろんな戦いを経験しケガもあったが、一部、特に腹や肩は痛みや感覚がもうない。損傷しすぎてしまった。武器はロングソードも、序盤の重い攻撃に使った、ハルバードも使えないほど、ボロボロのガタガタだ。


 まじでイカれてやがる、あのジジイ。


「ここで…やらなきゃ、みんなが…」


 ハァ、ハァと息を荒げる。どれだけボロボロになっても俺は立たなければいけない。


 ふらふらになりながらも、剣を突き立てなんとか、立つ。これが絶対絶命ってやつか...


 まったく、こんなに危機に瀕してるってのになんで俺は冷静なんだかね...


「何故、人間やつらに肩入れするのじゃ?人間やつらにそれほどの価値はないとお主も経験してきたではないのか?」


「馬鹿が…それが…使命だからに決まってるだろうが!」


 ジジイの冷めた目を感じる。うぜぇ。


「解せぬ。儂が今まで戦ってきた中で強者つわものじゃ。それこそ、儂の計画に賛同すると思うがの…馬鹿なのはお主じゃよ。」


「おい、クソジジイ。あの小学生が考えたみたいなボクが考えたリソウのセカイって言ってたことだろ?さすがに今どきの小学生でも言わねーよ。今からでもジジイは賢者からクソガキという異名にしとけよ。」


 今はとにかく時間を…稼ぐんだ。


 考えろ。この実力差を最大限縮めて…ジジイに追いつけるのか?


 もう武器は使い物にならない。有効なスキルも、もうない。考えろ。今打てる手を整理するんだ。


「時間稼ぎはもう満足じゃろ?不老の儂をどう殺すのか?策は思いついたのか?」


 ニヤリとした顔で見てくる。わかり切ったジジイの安い挑発には乗るなよ、俺・・・


 考えろ…ジジイはこっちの能力を完全に侮ってんだ。なら必ず、勝てる。もうこれしかないのか、俺のアビリティ虚無エンプティ領域ドメインか…このアビリティはくっそ抽象的なのに、使いずらいし、最初は最弱とまで呼ばれたが。勝てるならなんでもいい。


 俺はずっとアビリティのことを蔑まれ、「実質、無能」だと言われたこともあった。俺のアビリティは嫌われていたから。


 これまでずっと、自分のことが怖かったんだ。


 でも、ラナや母さんは嫌なこと一つも言わず、変わらない暖かい日常を過ごし続けた。


 特に妹は俺が凹んでいるとき、いやどんな時でも、味方であり、支えだった。


 いつの日だったか?ラナの言葉を思い出した。


 あれは、いつの日の夕方だったか…通いなれた帰り道。


 俺と妹はいつも隣にいて、特にその日、俺はすごくへこんでたんだ。


 詳しくは忘れたが、母と将来について話あってたときだ。母ともめて俺は、もう自分が嫌になっていた。


「こんな大事な記憶なのに、記憶があいまいなのは辛いな…」


 妹が消えた日から、ラナのことを思い出そうとすると胸が締め付けられ、頭が痛くなる。


 でもあの夕方の日、妹はそれを予測してたかの様に、いつものように接しながら、俺をあいつなりに気遣ってくれていた。


 でも、その日に妹は消えてしまった。俺の記憶もあいまいになっている。どれもこれも、賢者の仕業と言えば、説明がつく。そしてジジイは何か知っている。


 こんな直前に妹を思い出すとは――


 俺は深く、呼吸を意識し考える。もしここで、俺が戦うのを諦めたら、あの日の夕方の恩返しも出来ない。それにこれまでが全部無駄になってしまう。


 ラナ―― ごめん、いつか必ずあの日の恩返しをするから。


 俺はその時、体に雷が落ちるかのように、今まで抱いた意識が変わった。


 俺は覚悟が決め、ラナを取り返すと誓った。



 「自分を信じろ!やってみるっきゃねぇんだ!」


 足は剣がないと覚束ないほど、グラグラ。とっくに、人間の感じていい疲労を超えている。


 俺は今までこのアビリティと、向き合ってこなかった。いや、

 ずっと自分の中で、隠し続けただけなんだ。


 賢者の間まで、体が悶絶するほど痛くなるまで、戦い抜いた。だが、

 本当にこれが使えて、倒しきれるのか。


 俺の戦いは思い出すと、いつも自己欺瞞で戦っていていた。苦しい時は、いつも自分を騙し、乗り越えた。信じる。そんな言葉、俺には消えた言葉のはずだろう。


「もはや、その足では生まれたばかりの小鹿じゃの。見せ物としては面白いのう。」


 賢者はふざけた冗談のように話すが、体に言葉がのしかかるように重い。


 血と汗の生臭い臭いがする。気が狂いそうなほどの。

 そう、絶望の臭い。けれど、それは俺に似合わない。


 なぜなら、今まで支えてくれたすべての人達の希望を背負ってる。それに、負けると賢者の狂気の計画が最後の段階を迎えてしまう。母さん、ラナ、エルメス。俺の一番大事な人たち、かけがえのない温かな家族なんだ。


「おい。クソジジイ。てめぇ、このままじゃジジイが負けるぜ。」


 正直、怖い。ブルブル震える足を拳で叩きつける。倒せるチャンスは一度、限りか。

 神と呼ばれるほどの賢者が目の前にいるっていうのに、よく此処まで耐えたもんだな。とすこし自分を奮い立たせる。



「ハッ、面白い冗談じゃ。こういうとき、人間やつらは『やれるものなら、なってみろ』というのじゃったな。」


 賢者の弱点は、圧倒的余裕から来る慢心。その隙を狙うべきだろう。今までの戦いで賢者は不安や恐怖を感じないと分かった。それに俺のアビリティは警戒されてない。


 虚無エンプティ領域ドメインの力は簡単いうと無の領域を作ってものをなくしたり、消す力だ。アホほど魔力が消費するわりに、消せるものが限られてる。だから、相手の隙を作るんだ。


「永年生きてるくせに、くそしょうもねぇな(笑)」

「それに、てめぇと話すとつま向き合ってンタル、豆腐だな(笑)」


 賢者の雰囲気が変わった。よし。


「チッ。」


 舌打ちまでしやがって、分かりやすい。いいぞ。その調子。もっと怒れ!


 それはジジイから出たとは思えないとんでもない怒号だった。


「この人間風情がぁぁああああ!!!!!ごちゃごちゃと抜かしおってぇ!!」


 読み通りの直線的なジジイ最速の動き、これは…行ける!


 即座に床に手を触れる。


「ジジイィ!!!これで終わりだあああ!」


 瞬間、ジジイの足は大理石が足にへばりつくように、足止めとなる。


 冥界は基本すべて魔力製のものでできているが、地面の大理石は本物だ。この大理石を無に変換し、俺の魔力をその空いた大理石に込めて、粘度を高める。ほんと、一か八かの作戦だったが、今はこれでいい。


 魔力の粘度をなめてはいけない。粘度はあのハチミツを超えるが、性質として、絡み取ったものはなかなか放さない。


 次に俺がジジイに最速で接近する。ジジイの強さに、恐怖を感じてもやるしかない。いける。信じろ!俺が負けたら、なにもかもが無駄になるんだよ!!


「ここで!いまる!!!」


 足に力を込める。


貴様きさまぁぁぁああ!!調子に乗りやがって!」


 賢者が走り出す。俺は姿勢を低く取り、速攻でカウンターの準備をする。


 とんな怒りをぶつけられようが、関係ない。




 すべて終わらせるんだ。


 俺はジジイの顔面に触れ、叫んだ。


虚無エンプティ領域ドメイン!」


 ジジイの絶叫が響く。耳をつんざくような悲鳴が響く。けど、怯んじゃだめだ。作戦通りに、アビリティが通用して、息を付きたいとこだが、何があるか分からねぇ。最後まで粘れ!


「おのれ!貴様、儂に何をした!!!」


 ジジイの老けた顔面がさらにやせこけ、苦しそうにしてる。ジジイはどんどん肌が枯れ、髪は抜け落ち、体が細くなってゆく。俺は初めて、スキルに虚無エンプティ領域ドメインを使った。スキルもそれための魔力を使う。そこで常時発動してる不老スキルに、スキルに流れるジジイの魔力を一瞬だけ無の状態にした。賢者はどんどん老けてゆく、これまでずっと不老で歳を止めてきた反動だろう。それでも、不老を解いたジジイ強すぎんだろ...


 でも、ジジイは完全に弱ってる。ほんの少しの魔力でエンプティソードで首を断てば、終わる。


「これがラストチャンスだぁぁああ!!!」


 刹那、俺は違和感を感じた。何かのピースが足りない。決定的な何かかが。

 俺は最後のチャンスを逃すのか…と落胆した。


 その時、ジジイはエクストラスキルを発動した。


時間とき創生者クリエイター!!!」


 視界がゆがんだ。破壊がほとんどできないこの冥界で。俺の視界にはすべての建築物、自然物が崩壊するのが見えた。


 まさに終焉の景色だった。賢者は最後の最後にとんでもないものを発動したということが分かった。くっそ、ここまでか…


 次の瞬間、体がどんどんバラバラに崩壊していく。


 俺は死を回避できないと悟り…

 

 自分を失わないよう、この世界を忘れないよう、自身にアビリティを施した。


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激動の時代を迎える異世界、俺は最強闇堕ち軍師と呼ばれ、歪んだ世界に復讐を誓う 晃晃(こう あきら) @esk4649

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