第二話 半年後:過去が語る未来への道
このジブ王国には四季がある。あの伝説の事件から、半年が経ち、すっかり景色たちは秋の姿になっていた。最果て村から都市部の駅まで寄り、王都へ向かっている。
「まったく、汽車にはなれないもんだな。」
「もう。それを言ってるのはお兄ちゃんだけだよ。」
ラナに叱られてしまった。でも、ずっと乗ってると、気が遠くなって、どうしても吐き気がしてしまう。
考えが読まれたのか、母さんが、
「さっき食べた昼ご飯、絶対吐かないでね。」
今日は俺の母さんのエリスとともに、旅行と調べものをしに王都まで行くんだ。それに王都の発展はすさまじいらしいからな。すこし興味がある。
汽車に揺られ、吐き気を覚えて、2時間後――
「はぁはぁ、やっと着いた。オェ⤵ 」
限界だった。キラキラしたもの口から豪快に吐いてしまった。
「ちょっと!あんたここで何してんの!だらしない。」
母さんが怒りで鬼モードになってしまった。ラナに関しては俺に苦笑いを向ける始末。さて、どうしたものか…
説教が長引いたものの、やっとの思いで終わり、王都の町へ入る。前言ったのは確か、3年以上前か…
前のときに比べて、建物はよりはるかに高層になり、人々の服装は変わっていた。17年前の産業革命によって、この国は違えるほど変わっていっている。
「お兄ちゃん、ほら国立歴史館に行くよ~」
「はぁ、はぁ、ちょ、速いって…」
ラナは俺よりも体力があって、足も速い。兄妹でこんなにも違うものなのか…
息を荒げながら、歴史館へ到着した。
ここジブ王国王立歴史館は王国の歴史を資料や、文献で知ることが出来る。家族旅行の一環で来たわけだが、受付を出たのち、広間に着く。
「うわぁ、広いわね!それに、内装も新しいわね。」
母が感嘆する。確か、この歴史館は去年に建てられたから、まだ全然新しいんだ。古代の彫刻、装飾が広大な空間にある。考えただけで、興奮する。それと反対に、妹はと言うと…
「歴史館なんてやだよぉ、帰ろうよ~」
ラナは、歴史やら、芸術やらに興味がないらしい。これも兄妹の違いか。妹の駄々を無視して、歴史館の中を回り始める。最初は芸術コーナーで絵画が多い。絵なんか、村には無い。
「これは…油絵か。それに、皇室や貴族の絵がやたら多いな。」
この建物は新しく、取り揃えた絵を新しいのか。前見たときは、古い絵が多くて、今みたいな写実的な絵は無かったな。技術の発展が目まぐるしい中、芸術もすさまじい速度で発展するのか…
じっくりと絵を眺めた。油絵の滑らかさ、画家の情熱的な動きが感じられる。ただただ、きれいだった。
その後、俺は芸術コーナーを出て、王国の歴史コーナーをじっくりと調べる。ラナは母と一緒に、彫刻を見ている。今がチャンス一人になるだと思い、抜け出しだ。王国史は一応、母から教わっている。俺が特に好きなのは、文献がほぼ残っていない、古代の魔王の時代だ。
「はじまりの勇者か…まさに英雄だな。」
はじまりの勇者。魔王討伐のため、この国で初めての勇者召喚された異界の者たち。賢者から、特別なギフトをもらう特別な存在。勇者は一人ではなく、数十人の一行で向かったらしい。結果は、勇者たちの勝利。魔王は打倒されたのだ。
今見てるのは、多分こうだろうと後世の人たちが残した絵。どうも、はじまりの勇者というのは他の国に召喚された勇者とは別格の強さを誇るらしい。周りにほかの客が来た。やっぱり、人気なんだな。
家族連れがはしゃぐ。
「うわぁ、はじまりの勇者だー!」
「はじまりの勇者とおわりの勇者はどっちが強いのかな?」
「そういえば、おわりの勇者が王都に来てるらしいよ。」
マジか!!っと声に出そうになったが、ここで叫んだら、マナー違反。いけない、いけない。はじまりの勇者とおわりの勇者か…
母から聞いたことによると、はじまりの勇者召喚後、何十年に一回、勇者を召喚し続けていたらしい。しかし近年、聖教団が各国と勇者条約を結び、そこで勇者召喚禁止の宣言をし、勇者は召喚できなくなったのだ。だから、今この国にいる勇者はおわりの勇者と呼ばれているのだ。
「はじまりの勇者を声高に叫んだのは、聖教団なのにな。ほんと、みんな聖教団の話になると興ざめするよな。」
聖教団は今や、一番勢力が強い宗教団となっている。勇者を求め欲していたのに、今や、排他的になってる。やばい集団だと、俺は思ってる。
すべての資料を見終わって、一人で広大な歴史館を出る。
「母さんには独りになると言ってないが、まあ許されるだろ。」
軽い気持ちで向かったのは、王立図書館だ。ドキドキしてきた!ここにはやばいほど、本が所蔵されてる。そこにはもちろん、俺の欲す本も!
「速く行かないと、母さんに見つかっちまう。」
母に見つかるという、心臓バックバクの状態で、走る。この角を曲がれば――
ドスン!低い地響きがなり、ぶつかる。
「痛!」
俺は誰かとぶつかったが、誰か分からず、下を向いてうずくまる。
ちょっと、怒られそうで、怖い。
「あぁ、すまない。」
体からして青年だろうと思った。
ぶつかっても、その青年の声は落ち着ている。この少しの会話でふんわりとした印象を受ける。
「ごめんなさい、前をちゃんと見てませんでした!」
とりえあず、謝る。すると、青年はすぐに走り出してしまった。でも、少し顔は見えた。優し気な顔で、太陽のような男だった。でもこの顔ってどこかで…
ぼけっとしてると、周りの人たちが、あきらかにその青年に聞こえるよう噂話が耳に入った。
「あいつ、最後の勇者みたいだぜ。ほんと、厄災神みてだよな。」
もう一人が、
「おいまじかよ、王都にまだいやがったのか、とっと出ていけ!」
あいつ、おわりの勇者だったかのか…
周りの噂はどれも本当か分からない、しかしどれも勇者批判だった。魔王討伐以降、勇者の必要性がなくなり、世界は戦争のために勇者を召喚してきた。
だから、勇者は民衆に嫌われ、蔑まれている。
あの、勇者やっぱりどこかで――
「うっ!!!頭が!」
頭の深い深いところに激痛が走った。痛い。なんでこんな急に。
頭痛を感じた瞬間、汗がドバっと大量に出た。しかも、心臓の鼓動も速い。
周りの奴らが俺が倒れたことに気づき、声をかけてきた。
「おい、坊ちゃん、大丈夫か?しっかりしろ!」
だんだんと意識が薄れていき、気を失った。
―数時間後―
悪い夢を見て目が覚めた。知らない部屋の天井が、目に映る。その時、意識を失ったことに気が付いた。一体、なんなんだこれは。
「アビリティの暴発か?アビリティを使う感覚も分からないのに?」
暴発はない。でも何が起きたか、分からん。多分、この部屋は声をけてくれた人だろう。
「まったく、なんでこんな時に悪い夢を見てしまうのかね…」
映像はぼんやりとしているが、夢の記憶自体ははっきりと覚えてる。あの夢を簡単に言うと、自分に追いかけられ、殺されそうになる夢だった。しかもその夢の追いかけてくる自分は青年っぽく、目に光が無い。まさに瞳を見ると、虚無が映っていたようだった。
「あいつ、なんかしゃべってたよな?『忘れるな』とか、『エンプティ…』と言ってたような。」
「忘れるな」か、俺が忘れたことなんかあるのか?いや、今はここを出て、母さんのところに戻らないと。俺は助けてくれたおじさんに感謝した。
「いい人に助けられたな…」
「さて、さっさと帰ろうか!」
そこから、母のところに戻る途中、街の裏路地にて、チンピラグループに絡まれてしまった。気絶してから、不運。
「おい、坊や!さっさと金出せぃ!」
「見た感じ、金はもってなさそうだな!おい、叫んで親読んでこい!」
「痛い、痛い、放せ!」
胸ぐらを強く掴まれた。痛い、それに服が破れそうだ。どうする?腕を振り切って、逃げるか?
「ン、おらぁああ!」
腕を振り払おうとしたが、自分の筋力が無さ過ぎて全く歯が立たなかった。
「誰かあぁあ!助けて!」
瞬間、俺は光が見えた。それは火の光や町の明かりでもなく、勇者が出した一筋の光。
シュパン!っと剣の高い音と、チンピラたちがザバ!っと斬れる音が重なった。
「うん、大丈夫かい君。」
「あ、ありがとうございます。」
「いや、僕は堅苦しい感謝は好きじゃないんだ…って君は、」
相手はどうやら気づいたようだ。
「ぶつかったときの君だね!あの時はごめんな。」
勇者ってこんなにも鈍感なものなのかと実感する。名前くらい聞いておくか。
「あの、名前は?勇者なんですよね?」
「へぇ、勇者ってことばれてたんだ。僕の名前は八神陽斗だ。勇者って悪い意味で有名になってるから、聞きなじみがあるかもね。」
心臓が貫かれたかのように、ドキッとした。
ヤガミ、聞いたことがある!いや、知らないけど。なんなんだ?この胸騒ぎは…
「あのヤガミさん、俺とぶつかる以前あったことあります?」
「いや、それはないと思うよ。召喚されたのは別に昔の話じゃないし。」
会ったことがない…だと。そんなことはないはずだ。俺はなぜかこの男を知っている!
すると、また痛みが電気の様に頭に走った。
「痛い!」
俺はその時、居ても立っても居られなくなって、母のいるところへ走った。俺の脳内では、今まで封じられていた記憶がどんどん、波の様に解放されていき、それとともに頭痛もひどくなっていく…
「なんだよ…この記憶たちは…」
母さんが見えた!速く!行かないと。
すると、信じられないほど、視界は暗くなり、気を失った。
■■■■■■■お礼・お願い ■■■■■■■
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