第22話
ブロロロ……
卵を買い終え、軽トラはごみ集積場にむかっていた。
(そういえば……さっき冗談で博士に牛舎で飼ってもらえといったけど、牛のコスプレをした博士って……かわいいだろうなぁ)ほわわわん……♡
(町の雑貨屋に牛のコス売ってたよな。今度買ったら着てくれないかな? そうだな、例えばなにかミスしたときに罰として着せれば)
「ねぇ助手君」
「す、すみません! 牛なんてダメですよねっ!」(やべっ、心を読まれたか?)
「牛? 牛なんてどうでもいいのよ」(アイツは私よりおっぱいがあるから嫌いだわ……)
「はぁ、ではなんですか?」
「牧場にお馬さんがいたでしょう? あれに羽とニンジン(角)をとりつければ、ユニコーンになるとおもわない? 色もペンキで白く塗れば……」
「あぁ、まゆかちゃんとの約束ですか?」
「そうよ……ホットケーキでよいといったけど、できればまゆかの大好きなユニコーンをみせてあげたいじゃない?」
「研究は順調で、アタマオハナバタケはさまざまな魔導生命体を生み出していますけど……さすがにユニコーンができるまでには、もっと試行回数を稼がないとですね」
「よくよく考えてみたけれど……ユニコーンを作ったあと、帝都に飛んでいくのは無謀よ」
(そうだな……気圧とか酸素、それから安全性の問題がある……。博士でもそれくらいはわかるみたいだ……さすがだ)ほわわわん♡
「道中でお腹がすいたらどうするのよ? 空にはコンビニもスーパーもないのよ? 空腹は死活問題よっ!」
(前言撤回。いつもの博士だったわ)「それは……角(ニンジン)を食べればいいんじゃないですか?」
「アナタ血も涙もないのねっ! アンパン〇ンじゃないのよ?」
(馬にペンキ塗ろうとするあんたにいわれたくねーよ!)
「角は航空部隊との戦闘用にとっておかナイト」シュパパパパ!
「けっして、食用にしちゃダメなんだからね!」
(いや、ぼくよりヒドイ使い方してないか?)
まゆかにユニコーンをみせてあげたい。
そんな願いをかなえてくれそうな物が……ごみ集積場でみつかった。
「博士! 大変ですっ!」
書類を大型ダストボックスに廃棄してる時、助手君が一冊の書物をもって叫んだ。ごみ集積場は騒音がひどく、大声をださないと会話ができなかった。
「なによっ! 宝の地図でもみつけたの?」
「みてください、これ」
「なによ、このきったない書物は……さっさと捨てなさいよ」
「これ……アタマオハナバタケで魔導生命体を作った、例の錬金術師の日記ですよ! 忘れちゃったんですか?!」
(すっかり忘れていたわ……そういえばそんな物もあったわね。にしてもきったないわね……さすがブック〇フの底値の本ね)
「ここではうるさいので、作業を終えた後、外に出て説明します」
私たちは廃棄作業を終えると、軽トラにのり、しずかな森のなかへ入った……。
エンジンを止め、助手君は室内灯をつけた……。私たち二人の影が、車内にぼんやりとうかびあがった。いつのまにか、あたりは夕闇に包まれていた。
「みてください……。博士この前、この本にコーヒーをこぼしたでしょう? そのページに文字が浮かんでいるんです」
(本当だわ……。
おそらくコーヒーにふくまれている成分が、消えていた文字のインクと化学反応を起こしたのだわ。そして、この文字が描画された……)
「貸しなさい」
そこに書かれていたのは……アタマオハナバタケの秘密についてだった。
むずかしい文体でいろいろ書いてあったけれど、要約すると「アタマオハナバタケの見る夢の動力源は、つねに熱暴走を起こした融合炉」であること「夢とはいつだって脈略の糸をたずさえておらず、結合のためには氷漬けが必要」である、とのことだ。
なるほどね……。本質的なところは理解できていないかもしれない。けれど、シンプルに言葉の意味をくみとってみると、
液体の硬質化
そのように理解すれば、わかりやすいかもしれない。
マグマも高温状態のままでは、流動的であり形を保てないわ。冷やすことで……価値のある鉱石に姿をかえる。アタマオハナバタケの「夢」も同じで、氷漬けることで初めて形を具現化する……のかもしれない。
(この本が虚言でなければ……もしかしたらあの新種のキノコの悪性物質が『氷漬け』と同じ作用を起こしたのか?)
……そして
「ユメヒヤシンス……」
ユメヒヤシンスという花に含まれた成分が、それらの役目を引き受けること……。そんなことが書かれていた。
(その花の名前はしっている……多くの花は幸せや希望を司っているけれど、この花が含む成分の象徴は『気だるさ』と『惰眠』と『氷結』と『不吉』……。見ると人に不安感をあたえるその花は、見かければ切除および廃棄される慣わしがある)
「博士、これもみてください」助手君は書物後半のページから一枚のメモ用紙をとりだした……。これは、研究の時にも見かけたことがあるけれど、ただのよごれた白紙だったから気にも留めなかった物だ。今その白紙に、ちいさな字が連なっている。
「これにも文字が浮かびあがっていて……賢者様がお作りになられた、魔導生命体のリストの詳細配合例が記載されています……ホラここっ!」
助手君が指さした箇所には
「ユニコーンっ……!」その名前が刻まれていた。私は目を見開き、配合リストを確認する。
(必要な材料は……うん、研究所にある物で準備できるわっ! あといる物はユメヒヤシンス)
「やりましたね、博士っ! ユニコーンが作れるかもしれませんよっ!」
「そうね、助手君……ユメヒヤシンスを採取しにいくわよ」
「え、博士、心当たりがあるんですかっ?!」
「えぇ……この山岳地帯近域に、昔、聖騎士が通ったとされる『後ろ指の渓谷』という場所があるのっ! そこに生育しているはずよっ!」
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