第74話 トナカイから受け取るもの

「ところで羽場さん、よく見れば隈ができてるじゃないですか。サンタクロースでも待ってたんですか、その年で」

 こいつ、すぐ調子に乗る。笑ってないが、愉快そうにケタケタとしゃべりやがる。

「サンタを待っていたら、大食漢のトナカイが宿借りに来たけどな」

 これくらい言って返さないと。覿面。トナカイは頬を膨らませやがった。

「そんなこと言うならプレゼントあげませんよ」

「プレゼント?」

「そうです。延長料金を払ってもらいたいぐらいです」

 それに見合う分、飲み食いをすでにしていると思うが。

「お能登様からです」

 トナカイがテーブルに置いたのは、何個かの白いパックが入った包装だった。そのパックには葉や茎のようなものが見える。

「お茶?」

「いいえ、入浴剤だそうです」

「なぜ入浴剤」

 包装を手に取り、まじまじと見つめた。

「詳しくはこちらで。私のサービスです」

 いつからトナカイはスマホを持てるようになったのだろう。その画面を見せてきた。動画が再生された。和室でお能登さまが机に広げた枯れた葉や茎をいじっていた。

「お能登様、何してるんですか?」

「ああ、お前にはすまないが志朗に運んでやってくれ」

「お茶ですか」

 俺の発想はトナカイ並みだったか。なんかげんなりしてくる。

「いいや、入浴剤だ」

「なんでまた入浴剤なんですか」

 話しの展開までトナカイと同じなのか、泣けてくる。トナカイを理由にして絞れるほどに涙を流す自信がある。

「志朗は気苦労が絶えないようだからな、それに風呂が好きと言っていた。これで少しでも疲れが取れるならと思ってな」

「お能登様、優しすぎです」

 本当に。涙出てくるありがたさだ。それなら黙って出て行かないでもらいたかったくらいだ。

「本当は、やってはならないのだ。けじめはすでにつけたから。だから、これはしてはいけないことだ。いや、それを言うならもっと前に……。それでもな。私も愚かだな」

 動画はそこまでだった。

「だそうです」

 スマホをしまうトナカイ。

「私としても不本意です。捨てようとか、黙って自分の物にしようかと何度思ったことか。けれど、お能登様が丹精を尽くしてお作りになった品です。羽場さんには受け取る義務があります」

「義務じゃない、権利でもない」

「それくらい言わせてくれてもいいじゃないですか」

「だから言わせたんだろ」

 わざとらしく湯呑を出してきやがった。これだけで反論どころか、ボケられないから弁天さんに負けっぱなしになるんだよ。

「羽場さんの神経は電柱並みかもしれませんが、私のは蜘蛛の糸なんです」

「結局はカンダタも助けられなかったわけだが」

「それなら羽衣を作る糸です」

「天衣無縫ならそれはそれ頑丈なのでは?」

「ああ言えばこう言う。本当、羽場さんて遠慮とかないですか。それで就職できないなんて……ああ、そうだからできないのか」

 トナカイもたいがいだな。決して類友とかとは思いたくはない。約一名を除いて。それに、言うのも相手を選んでいるつもりだ。

「その割に、お能登様や弁天様にも負けてなかった気がしますが」

 湯呑を軽くテーブルに何度か音を立てて置いた。行儀悪いのは弁天さん並みだな。理不尽でない限り要求を跳ね返す理由はない。下手をしたら、お能登さまにあることないこと告げ口しかねない。

 お茶を出して、

「それでいつまでいるつもりだ」

 念のため訊いておく。居すわられたらそれはそれで肩が凝りそうな相手ではあるから。

「これから昼寝して起きたら出ます」

 ということは、夕食は手抜きできるわけだ。

 お茶を飲み終えて客間に戻ったトナカイが起きたのは午後七時で、結局は夕飯を食うことになった。クリスマスその日に、トナカイと過ごすことにあるとは。その暴食は、

「ピザくらい自作できないんですか。市販をチンするだけなんて。フライドチキンもそうですよ、お能登様ならちゃちゃっとこしらえるというのに。ただこの赤ワインはなかなかだと言って差し上げましょう。後ですね、このメニューに寿司を取りそろえるセンスは一体なんです、食べますけど」

 口は一つなのに、二つもあるかのように食うと喋るとを同時にしていた。文句なら起きなかった自分に言うべきであり、急いで準備した手際を褒めてくれてもいいのでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る