第48話 歓迎会?

 なぜか。夕食はトナカイの歓迎会になった。いや、夕飯の献立を土産物関係の物色の後に寄ったスーパーで取り揃える予定だったのだが、持っていたカゴに入れるは入れる食材、お菓子、飲み物。手持ちのカゴはカートに変わり、極力安い食材を選んでいたはずが、

「志朗、刺身のセットを所望する」

 弁天さんがすでに天高く掲げていたので購入するしかなく、

「大根かあ、味が染みたおでんの具ってたまらないですよねえ」

 トナカイが神に祈るように両手を組んで、目をキラキラさせて涎を垂らし始めたので、おでんセット、プラス大根を購入するしかなく、

「別に、気になるとか、味わってみたいとか思っているわけではないぞ。ただ、このラベルのはまだ飲んだことないなと思っていただけで」

 お能登さまが日本酒のコーナーで一升瓶を首の座ってない赤子をあやすみたいにまじまじと見つめていたので購入するしかなく、帰宅後購入した品々を並べてみたらパーティするしかない食材で、その時点でトナカイががっつきそうにステイしていたので、結果歓迎会になったのである。

 お能登さまが入浴し、弁天さんがへべれけになっているタイミングで、まだ酔いつぶれてはいないが瞼が落ち始めたトナカイを引っ叩いても聞いておきたいことがあった。実はトナカイの首根っこをとっ捕まえてでも二人きりになれないかを探っていたのだが、格好の機会が訪れたのである。

「トナカイ、君は唐突にやって来て支離滅裂な理屈で俺を困惑させた挙句、君の職務に同行させ、にもかかわらずそれに見合う対価を払ってない。そうだな」

「……そうなりますね」

 酔った顔で中空を見つめた。俺の言ったことを咀嚼していたのか、自分の言動を反省したのか、支払うべき価値あるものが思い浮かばず途方に暮れたのか、力ない同意だった。

「そこでだ、俺は君に質問をする。それに答えてくれることで、今日の失態を不問にして差し上げようと思うがいかがかな」

「羽場さんの寛容なご裁量感謝いたします」

 テーブルに頭をこすりつけた。チョロイ。加えて、

「トナカイ、君のその素直さに乾杯」

 グラスを鳴らした。トナカイがグイッと飲み干すのを待って、

「お能登さまの素性を知っている限り話せ」

 できる限り低い声で、さらにはドスを効かせて尋ねた。

「……、お能登様はお能登様です」

 目を逸らしやがった。

「君は素直な子ではなかったのかな。そして俺に貸しがある。それを質問一つに答えることで解消できる、これほど簡易で容易で君に損失が発生しない方法があろうか」

 トナカイはヘッドバンギングの勢いでうなずいた。

「それならば答えられるよね?」

 目に力を込めてみた。

「お能登様とバディを組むようになってだいぶ経ちます。たぶんお能登様は誰にでも同じだと思うので、羽場さん相手でも同じだと思いますが、あんな感じです。自分のこと話さないし、友好を深めるアクションもありません。ただ与えられた仕事を実直にこなす人です。誰がお能登様に指示を出しているのか、私には分かりません。ただ私の所属部署の直属ではありません。派遣であるとは聞いています。どこからかはやはり分かりません。でも、お能登様は信用に足るパートナーです。以上です」

「そんな素性不明なコンビで、君は背中を預けているとでも言うのかい?」

「さっき質問一つって言ったのに」

 弱々しく語るトナカイへの皮肉に怯えたのか、両腕を壁にして隠れようとした。全く意味のない行為だが。

「君はお能登さまが好きかい?」

「はい!」

「さっき質問は一つと言ったからそれ以外は答えられないと顔をそむけなかったっけ?」

「ひゃあ!」

 思わず反射的に感情を発露した結果、再びボディーブローを喰らいまたしても顔を隠すが、やはりまったく意味がない。しかし、トナカイの心象は率直なもので偽りはないだろう。下手したらお能登さまは仏頂面で人付き合いできそうにないとも受け取られそうだが、そんな表面的な同僚だったら、トナカイが人の社会にその姿のまま来訪するなんてことはしないだろう。他の人から見れば単なる野獣である。動画で拡散されるならまだましで、自動車に轢かれたり、極論射撃されたりする危険性だってあったのだ。そうか、このトナカイ、普通のトナカイではなかった。サンタクロースとプレゼントを運搬するトナカイである。童話的なら空も飛べるはず。そうか、飛んで来た可能性も。それはそれでUFOと誤認されかねないか。粗忽感の拭えないこのトナカイが万全の対策を取っていたとは断じて思えない。まあそれらはともかく、それを冒してまでお能登さまに会いに来た。まあ、それはトナカイが変身できるにもかかわらず、人の姿にならなかったそそっかしさが原因だが。それはともかく、その心意気が何に由来するかといえば、それこそトナカイの言う信頼なのだろう。それはこれまたトナカイの言う誰にでも同じ対応で、そこに虚飾はないのだ。

 俺の見ているお能登さまとトナカイの見ているお能登さまに評価の相違はない。得られる情報はここまでとお手上げになるしかなかった。

 それからトナカイはやけくそのように飲んで、酔い潰れた。

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