第20話 今度は巨大亀の精霊
「あの社にあるそうだ。ならば行くしかあるまい」
「そうですけど、ここは入っちゃいけないですし、勝手に入って係員……はいなかったから、どっかで監視とかしている人がやってきたら、それ以降が面倒になりますよ」
「ではどうする? 他にあの方の要求にこたえられる方法があるのか?」
それはある。夜に忍び込むとか――とはいえ、夜までここにいたら逆に怪しまれるし、一旦帰ってまた来るのも面倒。というかこの場所。外灯はないし、さぞかし真っ暗闇になって、しかも波音が鮮明に届いてきそうになれば、怖さ満点で、想像しただけで短時間でもいたくはない――、お能登さまが鳥なんかに指令を出すとか、例のしゃべる鳥に説明して、親鳥に取り来させるとか。
「ずいぶんあるのだな。しかし、志朗。ここまで来て何もせず帰れるだろうか」
俺に感心してはいたが、手が尽くせないことを今にも地団駄を踏む勢いだった。お能登さまの気持ちは分かる。確かに監視員がいるというのは俺の推測でしかないし、見つからないように進む方法もなくはない。けれど、頂に行った結果、突発的な事態に対応できるかどうかの懸念の方が断然勝ってしまう。だから、冷静になって思案し直すしかないのだが。
揺れた。地震だと一瞬思ったが一瞬だった。これは地震ではないと悟った。なぜなら揺れが地面から伝わってきているわけではなかったからだ。言い方が難しいが、工事関係のどでかい車両が前方でエンジンをかけている感じだったのだ。地震でないことの安心と、震源がどこかという不安が同時に浮かんだ次の瞬間、
「ウソだろ」
さすがに絶句した。お能登さまは凝視というか、睨んでいた。一枚の巨岩である大野亀がまさに亀のように動き出していたからである。もうまさに前進していく勢い。よくもまあ他に誰もいないもんだ。観光客がいたら大パニックと視聴者撮影のネットニュースは間違いない。
さらによく見れば、岩は動いてない。それはそうだ。岩だから。岩から岩と同じ大きさと形状の亀が突出しようとしていた。もはやなんのことやら視認をそのまま記述しているのに現像の二重撮りがまさに現実の進行の現象としている。結果なんだか原因なんだかもうよく分からん。
それよりも。
「お能登さま、逃げましょう」
踵を返した。ところがお能登さまは毅然として立っている。
「お能登さま、さすがにまずいって」
その手首を握った。もう強引にでも連れて行くしかないからだ。
お能登さまは自分の手首と握っている俺の手を一瞥してから、そっと俺の手を放した。
「伏せておれ、志朗」
お能登さま、足を肩幅に開くと両手を胸の前で交差。その両手を勢いよく前方へ振った。
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