第19話 大野亀

 きっと北からの強い風だったならば、悠長に散策などできなかったろう。快晴とまではいかないものの、それなりの晴れの上に気温が下がらなかったおかげで、眺望を堪能できたのだ。到着したのは大野亀という場所だった。途中二つ亀という場所もあり、巨岩が並ぶ風景は確かにこぶの二つある亀だなと、ラクダでもないのに形状に感心してみれば、ここは勇壮な佇まいである。一枚の岩からできているという全長一六〇メートルの高さは山ではないがトレッキング気分になる。確か東京タワーの展望台が一五〇メートル強くらいではなかったろうか。つまりはでっけーわけだ。山頂、ではなく岩頂には社があるようで鳥居が見えた。しかし、もうまもなく冬が近づく季節。落ち着いた天気とはいえあの高さまで行けばどんな風に吹きつけられるかしれない、そのせいであろうか、そこまで続く小道は途中から通行止めになっていた。この一辺がカンゾウで埋め尽くされるのはちょっと見てみたいなと来年あたり、それこそ観光で来ようかなどとのんきなことを考えていた。大の字になって自然な空気を体内に取り入れてフレッシュに満ちようとしていると、

「志朗、的中だ」

 やはり鳥とコミュニケーションを取っていたお能登さまが決然としてまっしぐらに向かっていた。例の通行止めの先へである。

 もちろんリフレッシュは中途半端で終わり、呼吸のタイミングを逸してしまい、むせながらお能登さまを追う。何から情報を聞く暇もなく悠然と進むお能登さまを一旦停止させなければならない。

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