第37話 パンツパンツ
「咲良から聞いてる。アンチのせいで危ない目にあうかもしれないんだもんね。言いふらさないようにするよ」
「お願いします。私の事は在宅でデザインしているとかでごまかしといてください」
「本当はめちゃくちゃ自慢したい私の義妹なのにねぇ」
寧々さんにそう言ってもらえる事が嬉しくて仕方ない。本当にこの結婚が決まって良かった。そうだ、この話を両親祖父母にもしといておかないと。どこから本当の話が漏れるかはわからない。
「そろそろお昼ごはんだよね。エプロン持参したんだけど、お台所にお邪魔していいのかな?」
「エプロン持参とかそんなのいらないと思いますよ。お寿司とったらしいし」
「でも何かお手伝いを……」
「じゃあまずこの家の中を案内しますよ。何かあった時すぐ動けるように」
お嫁さんだからとプレッシャーが大きいのだろうか。でもうちも祖父母もそんなの求めていない。そうして私は寧々さんをわざと連れ回し、昼食ぎりぎり前に食卓につかせるのだった。
■■■
居間に並べたお寿司を存分に食べて寧々さんに働かせまいと台所で後片付けをしていたら、廊下から静が顔を覗かせた。
「どうかした?」
「どうかしてた。これ見てよ」
静は呆れたように言って、私にメモのついた封筒を渡す。メモには達筆な字で『望さんに渡してくれ』とあった。私は手をしっかり拭いてから封筒をとる。
「旅行カバンの底に入ってたんだ。昨日は気付かないでそのまま持ってきてしまったけど、父さんがこっそり入れてたんだと思う」
封筒は意外にずっしりとしている。中を覗き見れば紙幣が見えた。
「滞在費、十万円だって」
全部千円札かもしれないという期待は消えた。数えるまでもない。一万円札が十枚入っている。
「なんで?!」
「生活費出してもらったからじゃないかな、パンツとか」
「あんたのパンツ十万円もするの?」
つい二人してパンツパンツと言ってしまう。パンツ以外でもお金を使ったけどそれだってこんな額にはならない。お客様へのおもてなしなんだから要求する気はないし、影武者で十分な対価をもらっているのに。
「返しといて。お米とかは選んでくれたものだから頂くけど、これは受け取れない」
「だよね。一応見せといただけ」
「……まぁ、記憶なくて中身高校生だもんね。お父さんも何かあったら心配で、ついつい包んじゃったのかも」
つい過保護と言いたくなるのを抑えた。過保護だなんて静が一番よくわかっていることだろう。
そしてこんな状況の静を親としても心配に思う気持ちもわかる。静のお父さんにも一度あった事があるけれど、寡黙だけど静への愛情が伝わってくるような人だった。旅行で友達ごと別荘に招いたりするような人だったわけだし。
「僕も後片付け手伝うから、それ終わったらちょっと出かけない?」
「どこか行きたい所でもあった?」
「そんなところ」
今は皆兄さんのアルバムを見ている頃だろう。主役でない私達二人が出かけても問題ない。
皿洗いに参加すべく静が袖をめくり上げる。
そうして私は昨日の話を思い出した。静はこの市に何か用事があることを。
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