第35話 性欲はある
「それから私が夕海をなだめて、静が大塚君の部屋に移動して、なんとか裕介さん達にはバレずに済んだわけだけど、その後が最悪だったな」
本当にこの事があるまでは最高に楽しい旅行だった。大塚君の嘘は私達が不仲という事にしている。腹立つ嘘だけど、それに張り合うように私と夕海は仲良くしてやった。
その後も自由行動はあったけど、私と静と夕海で行動したし、座席など二人になるときは私が夕海の側にいた。それきっかけで夕海とは一番の親友になったのだからそう悪い話ではないが。
「僕は色々と大塚から愚痴を聞かされたな」
「だろうね。それ私達の愚痴じゃない?」
「うん。望達には言えないような内容だった」
どういう愚痴かは想像がつく。男女二人でいたらそういうことして当たり前、しないほうがおかしい、途中まで満更でもなさそうだったのに逃げやがって、辺りか。夕海は逃げて正解だ。
「私も静見てたから男子高校生に性欲はないものだと思いこんでたからなぁ。大塚君ばかり責められないよ。流されずに阻止すべきだった」
「僕にも性欲があるつもりなんだけど」
「あるの!?」
つい新幹線内だというのに大きな声をあげて、隣の静の顔をまじまじと見つめる。その顔はいつも通り涼しげ。私と一緒のベッドで寝てたって何もしなかったのに。しようとも思っていなさそうだったのに。
「あるよ。子供を育てもしないのに作るような気にはならないってだけ」
「素晴らしい考え方だ……」
眉も動かさずに誠実な事を言う静には感動しかない。性欲はあるけどその後の妊娠などのリスクを考えればブレーキを抑えられるということか。
「何を失いたくないかの優先順位を考えてるから何もしないだけだよ。素晴らしい考え方じゃなくて当たり前の考え方」
「でも普通の高校生はそんな事考えないよ。……正直、男子の中では居心地悪かったんじゃない?」
「そういう時は黙ってる」
自分が今子供を育てられないから、相手の人生を大きく変えてしまうから、そんな当たり前の事で自分を抑えられる高校生なんて少ない。あの頃の男子なんて性欲でしかものを考えられないだろうに。そんな中でも静のように育つ事があるんだ。
「静の親御さんの教育が良かったのかな」
「……ある意味ね」
それは静にしては冷たさのあるつぶやきだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます