第13話
「はっはっはっはっ!うそっでしょ、こんな疲れんのか!」
「うむ!では今日の刀の訓練は終了である、明日も来るなら来い、来ないなら野垂れ死ね」
教官である男の人からとんでもなく厳しい訓練をさせられた後俺は死にかけの魚のようにビクンビクンと跳ねながら地面の上でうなだれている。
教官は俺をそのまま放置してその場を去っていった。その他の訓練生たちも俺と同じようにへとへとになりながらもなんとか帰路についていた。
なんか俺ってハンターたちの中でも体力ない方だったんだな。
いやだとしてもあの訓練メニューはちょっとやりすぎじゃないかぁ!?
まずウォーミングアップとして百回腕立て伏せした後百回腹筋して、百回スクワットして、10キロランニングして、その後ようやく刀の振り方を教えてもらえると思ったら「貴様らにはまだ刀を振るのは早い」とか言いやがって刀替わりで渡されたのはこの棒だ、これは刀と同じ重心、同じ柄の長さ、けど重さは通常の刀の十倍という代物だ。
いやぁこれがまぁ重くて重くて、まともに振ることすらできなかった。そんな中でもあのクソ………いや教官は容赦なく刀の振り方を教えた後、実践形式の模擬戦とかをさせてきやがった。
ガチでもう腕が痙攣してまるで動かん。こんなにつらいなんて想像できなかった。もうやめたい、逃げ出したい。
「はぁ、はぁ、はぁ、でも頑張ないとなぁ」
じゃなきゃあの人を追い越せない、あの人の期待に応えることができない。だから立ち上がろう、立ち上がらなくちゃいけないんだ。
俺は刀を杖替わりにして震えながらもなんとか立ち上がる。朦朧とする視界の中悲鳴を上げる足に鞭うって近くに置いてある刀の打ち込みように用意されている木人形に向かって渡された刀の十倍の重さを持つ棒を教官に教えてもらった通りに振りあげ、そして振り下ろした。
木人形の肩に棒は当たるばきっと木人形の肩あたりが壊れ、めくれ上がった。
「ははっ情けねぇなぁ、こんな木人形一つさえ壊すことができないなんてよぉ」
そしてもう一度振り上げ振り下ろす。最早そこに力は入っておらずへなへなとした軌道のまま再び木人形に当たる。木人形はびくともせずに未だ俺の前に立っている。
「はっ、はっ」
息が途切れ途切れになり、棒を持つことさえままならなくなり、振ろうという意識は強くあるものの体が全力でそれを拒否している。
つい手から力が抜けどすんっと棒を落としてしまう。
「はっ、たくっもっと訓練してればよかった」
震える手を見てそう後悔する。人が活動していいだけの体力はもう残っていない。俺に残されているのは気力だけだ。
「ははっおもろ」
だがその辛さが痛みが、今も俺の体を成長させ続けていると考えるとどうにも笑みがこぼれてしまう。これを続けていれば俺はもっと、もっと強くなれるはずだ。
「あ、ミスナさん!」
と、振る意識だけを強く保ちながらも持つことができずにいると背後からジュリさんの声が聞こえてきた。
「はぁ、はぁ、あれジュリさんどうしたんですか?」
振り返るとジュリさんがその豊満な胸で挟むように折りたたまれた服を持ってきた。
「装備できたので届けに来たんですよ、本当は訓練が終わってエントランスに上がって来た時に渡そうと思ってたのに全然上がって来ないから仕方なく持ってきたんです、もうっ無茶はいけませんよ」
「ははぁ、気ぃ抜けちゃった」
足から崩れ落ちた俺は天を仰ぐ。するとジュリさんが俺を見下ろせる位置まで歩いてきてくれた。
「これがノームジャス装備になります、スキルの説明などは不要ですよね?」
ぼすっと俺の顔に服が落とされる。俺はその装備をどけて眼福である巨大な胸を存分に視界に入れてむふーっと息を吐く。
「あ、はいノームジャス装備のスキルは結構有名ですから」
「了解しました、では私はすぐに業務に戻りますね」
「あ、はいありがっいたぁぁぁぁぁぁ!?」
もう何事もなく去っていくものだと思っていたが全然そんなことはなくジュリさんは去り際に鋭利なヒールのかかとで俺の目をつついてきた。とんでもない激痛が俺を襲う。
「言いましたよね、次そんな目を向けたら目に気をつけてと」
「………ひっこわ」
まさか有限実行するとは思わんやん。
「じゃ私はこれで」
絶対零度な視線を俺に向けてからジュリさんは去っていった。
「はぁぁぁ、今度からはもっと見方を考えないとなぁ、10メートルくらい離れてた位置でないと無理かぁ?」
などと煩悩にまみれた思考が俺の脳を独占する。
「あ、そうだそうだ!重要なのはそんなことじゃなくて装備な方だった」
俺は今一度重要だったことを思い返し、煩悩を退治する。
「おっほ、これがノームジャス装備かぁ」
見た目はどこにでもありそうな茶色の長袖、だがその生地は確かに分厚く、到底日本にあったようなものではなく、さらに少し触るだけで感じるざらざらとかしたこの布の感触は直に着ると肌に擦れて痛そうだ。
「でもまぁこれが装備だよなぁ」
着やすさよりも性能を重視しているのが装備だ。
装備にはスキルという特殊な能力がついている。スキルは自分で狩ったモンスターの素材を加工した装備を作ったときにつくもので、そのモンスターを狩った本人でないとスキルは発動しない。
スキルはモンスターごとに違っていて、例えばジャスだと”モンスターに背を向けた状態で走るとそのスピードが上がる”というものだったり、ノームジャスは”刀を持ったとき筋力が上がる”というものだったりする。後ちなみにシリウス・ルナ団長が身に着けているあの軍服みたいなものもあるモンスターの素材を使ったものであり、そのスキルは”刀を振るうときの速度を3倍にする”というものだ。だからシリウス・ルナの刀はあれほどに早いのだ。
あと武器にもスキルがつく、これも結構大事で俺が使っていたジャスのナイフや刀は草を切りやすいっていう戦闘面ではなんの役にも立たないスキルだがシリウス・ルナ団長が本気を出したときに使う刀のスキルは斬れる範囲を10倍にするというものらしい。まぁ普通にチートである。
じゃあノームジャス装備の俺がシリウス・ルナ団長に勝てるわけがないって?そこはもう努力でなんとかすんのさ、めちゃくちゃ頑張ってその穴を埋めるんだ。
「むふふ、にしてもこの俺が大型モンスターの装備を切れる日が来るなんてな」
俺は長袖の他についてきていた革製のズボンと、ジャケットを羽織る。さっきまであった疲れはどこへやらと言った感じで軽々と着替えていく。
「お、おぉぉぉぉ!!」
着心地は最悪、少しでも動けばざらざらとしている服が俺の不快感を倍増させていく。白色の革ジャンに長袖、そして厚いズボン、うんはみ出ている皮膚の部分が少なく、服の布も厚いにも関わらず動きずらいと感じることはない、うん今回の鍛冶師は結構腕がいいな。
ほんと鍛冶師は当たり外れがあるからな、防御力重視すぎてださくて重い装備になったり、デザイン重視しすぎて防御できる面積が少なくなったりもする。
「よし、装備もできたことだし流石にそろそろ帰るか」
というか今の今まで忘れていたけど、あの老龍エリクファに復讐心を燃やしていた少女セリアを家に置いたままだった。
「やべぇ、大丈夫かな」
俺はノームジャス装備をうっきうきで装着したまま帰路についた。
そして家に戻りドアを開けた。だがそこにいるはずの少女の姿はなかった。
「え、セリア?」
「あ、ごめん、ちょっと外出してた」
すると俺の背後から快活な声が聞こえてきた。見ると出会ったときにあったすべてを憎むような目は鳴りを顰め、普通の少女が持つような綺麗な瞳をしていた。
「もう平気なのか?」
「………平気ではないけど、まぁずっとへこたれてても仕方ないしね」
強い子だ、親が死んで周りの人達もほとんど死んでしまったというのにまた前を向こうとしている。
「私は強い子なのです」
腰に手を当てて胸を張ったセリアはどやぁと頬を膨らませる。
「いいね、そういう前向きな姿勢俺は嫌いじゃないぜぇ」
サムズアップしてセリアを誉める。
「そうそう、明日にでも私がベータ拠点で体験した地獄を話しに行こうと思うんだけどいい?」
「まぁいいと思うぞ、まぁ相手にしてもらえるかは知らんが」
「そこは、さ頼むよミスナさん」
両手を合わせてかわいくウィンクをしたセリアのそのおねだりは俺の心にクリーンヒットした。
「俺に任せとけぇ!!」
そう豪快に叫んだ。
「るせぇ!騒ぐな!」
「あ、しゅいません」
隣の部屋に住んでいる少し柄の悪いハンターに起こられてしまった。ここ壁薄いからなぁ。
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