切り札は最後までのこす物3

 俺の目の前にはその汗の量から、相当走ってきたのだろう推測できるほど疲れている五色がいた。

 そんな五色に申し訳無さを感じつつも、もう少し早く来てくれたらという不満も感じていた。

 まぁ来てくれただけでありがたいのだが……

 そんな五色を横目に俺はある方向を向いた。そう宗田の方だ。

 なぜなら木刀を杖代わりに、よろよろと立ち上がってきていたからである。


「おいおいまだ立つのかよ……さっきの音的に骨が折れたくらいの痛みが、お前を襲っているはずなんだけが……」


 ここはゲームの中のはずなのに、何故か痛みが感じられる現実味のある不思議なゲームだ。

 そんな不思議なゲームの中で、骨折にも匹敵する痛みが与えられてみろ。普通の人間なら間違いなくその場に蹲って、痛みが引くまで苦痛の声を上げ続けるだろう。誰だってそうなると思う。もちろん俺だって。

 そんな痛みをあいつはもろともしないで、立ち上がってきてるんだ。誰だって警戒するだろ?


「ねぇ僕さっき思いっきり殴ったはずなんだけど?何であいつはあんなにピンピンしてるの?」


 五色がやっと息を整えて俺に質問してきた。

 俺のほうが聞きたい、痛みを感じてないのかよ。さっきの鳩尾で俺は十分悶絶したんだが……


「俺のほうが聞きたいよ……何であいつ起き上がってきてんの?怖すぎだろ」


「まぁでもこんなチャンスのがすわけないよな、さっさと気絶させちまおうぜ」


 木刀を手に取り宗田に近づいて殴りに行く。


「わりぃな。こっちの勝ちだわ」


 木刀を宗田の頭に振り下ろした。

 ”カツン”という音は宗田の頭からなるはずだった。

 ――だがその音がなったのは、俺の手首からだった。


「痛っ!!」


 宗田が俺の木刀を薙ぎ払っていた。俺は武器を取られたので五色の下まで一旦下がる。

 そんな宗田もさっきまでの余裕そうな雰囲気は感じられず、さすがにこいつもさっきの痛みでギリギリなのだと感じられた。

 だがギリギリとはいえこいつは剣道の天才、ワンチャン2対1からでもまくられる可能性がある。

 ならどうするか……


「武器でも奪い取ったらいいんじゃない?」


 そう答えたのは隣りにいる五色だった。

 確かに木刀さえ取っちまえば、2対1で勝てる可能性がほぼ100%に近くなるが……問題は……


「どうやって武器を取るんだ?さっき戦った俺の立場から言わせてもらえば、あいつの強さは異次元だ……さすがに自分でエリートって言ってるだけはあるぞ?」


 あいつに真正面で戦ったって勝てない、さっき戦って分かった。だがさっきみたいに目潰ししたとしても、一瞬しか怯まなかったそれにもう多分食らってくれないだろう。


「てかささっきから思ってたんだけど……なんで木刀一本しか出してないの?」


 五色が不思議そうな顔で俺に言ってきた。


「だって市民の能力って、木刀一本しか出せないんだろ?だからさっきから一本でしか戦って無いんだろ?」


「は〜〜」と五色が俺の言葉を聞いて、呆れながらため息を付いている。


「それは誰が言ってたの?」


 その言葉を聞いて俺は察した。

 もしかして木刀って


「2本以上出せるの……?俺じゃあさっきから縛りプレイしてたってこと?」


「大正解……どう?これで勝てる見込みは集まった?」


「まぁさっきよりはマシだけど……なにかもう一つ確信が欲しい……」


 俺は顎に手を当てるいい策がないか考えるが、なんにも思いつかない。

 うーん木刀の数を増やすのは良い策だとは思うんだけど……この策だけだったら、さっきみたいに弾かれて負ける気がすんだよな……ただの感だけど。


「じゃあしょうがないな……用心深い君のために、僕が一つ知恵を授けてあげよう」


 五色が耳の近くでボソボソと喋りだした。

 俺はその作戦を聞いたとき、こう感じた。ふざけんなよ、とだが俺に拒否権はない。


「まじで言ってんの……?」


「はいじゃあ早速行動に移してねーー」


 五色が俺の背中を勢いよく押す。

 俺の言葉にはフルシカトだ。


「後で覚えとけよ?」


 今、宗田はさっきの攻撃で割と弱体化してる。攻めるなら今しかねぇ……

 これがラストバトルだ。


「かかってきなよ、僕はすべての攻撃を防いで君たちに勝ってみせるさ」


 宗田は走っている俺を横目に深呼吸をしながら、木刀を構える。

 体の背筋が冷たくなる。

 多分草食動物が、肉食動物に襲われるのってこんな気持なんだろうな……


「やってやるよ!!くらえ!!」


 しっかりと地面から力をもらった俺の横薙ぎは、宗田の胴体をしっかりと捉える。

 だがそれは俺の予想通りに木刀ごと弾かれてしまう。

 ”カランッ”という音とともに、木刀が地面に落ちる。


「まったく呆れたよさっきと同じ攻撃だなんて、でもその無駄なあがきもこれで終わりだ」


 目の前で木刀がすごい速さで距離を詰めてくる。

 ”カンッ”という音とともに、大きく一人の人間が吹き飛ばされ宙を舞う。

 ――宙を舞っていたのは宗田だった。


「何故……だ、なぜ僕が倒れているんだ?」


 何が起こったかわからないのだろう、そりゃあそうだ俺にも分からないんだから。


「一体……何をした……と言うんだ……?」


 困惑した声で宗田が言った。

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