Seq. 27
「いきなり危なかった……」
開幕直後に放たれた光弾に対してリーゼの展開は間に合わなかったけれど、間一髪で避けことができた。
次の攻撃が繰り出される前に急いでリーゼを広げる。
「なんだ避けれたのか。やるじゃねえか」
試合前と同じように軽口をたたくアンドリューさん。でもその目は本気だ。
改めて彼の全身をしっかり視界に収める。
構えている剣の先はまっすぐ僕に向けられていた。
「じゃあそろそろ本番といくか!」
そう言って木剣に光が収束していく。
それを見た僕は全神経をリーゼに集中させる。
ずっと特訓してきた、大丈夫だ。そう自分を奮い立たせた。
「僕だってまだまだこれからですよ!」
光が音もなく次々と放たれる。怒涛の連撃だ。
でも光弾はリーゼに触れた瞬間に消失し、僕には届くものは1つとしてない。
「へぇ……」
感心という表情を作ったアンドリューさんが攻撃の手を止めた。
その一方で自分の攻撃が全く通用していないことへの焦りが見えないのは、超えてきた修羅場の数によるものか、あるいはまだ対抗策を残しているのか。
「今度はこっちからいきますよ」
油断はしない。
けれどずっと守っているばかりではいつまでも勝利を掴むことはできない。
リーゼを纏いながら走り出す。
的にならないよう、こまめに左右に切り返しながらアンドリューさんへ近づいていく。
「ハッハッハ! 面白くなってきた!!」
さっきよりも短い間隔で光弾が迫ってくる。
ジグザクに進んでいるのにもかかわらず、正確に僕を狙った射撃だ。
とっくの前から目で追うことなんてできていない。
走りながらリーゼの感触だけを頼りに放たれる一つひとつを消し去っていく。
正直、感覚さえ掴めてしまえば楽だった。
「光一閃」はミロの「華刃演舞」と違い直線でしか飛んでこないからだ。
意識する必要があるのは正面だけで、動き回る余裕は十分にある。
「いける、このままっ!」
淡々と光弾を捌きながら着実に距離を詰めていく。
一歩また一歩と僕が進むたびにアンドリューさんの顔が歪んでいく。
「これでっ!」
ついにリーゼの射程範囲まで近づいた。
とらえようと手をいっぱいに伸ばす。
けれど、そんな僕に向かってアンドリューさんは歯を見せてきた。
「甘いな」
その言葉とともに目の前の姿が消えた。
どこに行った!?
すぐに周囲に視線を巡らせる。
右斜め後方だ。そこにアンドリューさんが立っている。
「惜しかったなぁエクシイ。さ、仕切り直しといこうぜ」
ゆっくりと木剣を構えなおして口角を上げていた。
問題はない、これくらい予想の範疇だ。
それに今ので確認できたことがある。
「逃げられたのならまた追い詰めればいいだけですよ」
根気比べといこうか。
僕は石畳を蹴って再び走り出す。
「いいねぇ、その熱さ! もっと楽しませてくれよっ!」
アンドリューさんが狙いを定め、剣先から光が連射される。
先ほどのものよりも力が込められているのが感じ取れる。
彼の昂ぶりを伝えてくるそれを丁寧に処理しながらまた距離を縮めていった。
「今度こそっ!」
「はいざんねーん」
すぐそこまで迫ったのにやっぱり取り逃してしまう。
けれどさっきのように探すことはしない。
迷うことなく身体を捻って方向転換して足を動かし続ける。
「おぉっ?」
躊躇わずに駆けていく僕の姿に虚を突かれたアンドリューさんが見えた。
消える前に向ける木剣の方向に注意していればどこへ跳んだかを予想するのは簡単だ。
アンドリューさんの反応が遅れたこともあり、近づくのにそこまで時間はかからなかった。
「ヤバッ」
そう言って同じように距離を取ってくる。
けれど僕は止まらない。
追い詰め、逃げられ、また追い詰め、また逃げられ……。その繰り返しだ。
少しずつアンドリューさんの逃げるタイミングが遅れてきている。
「クソがっ!」
何度目かの接近を受けたアンドリューさんが3回ほど連続で跳躍して僕から大きく離れる。
それを目で追いながら声を上げた。
「いつまで続けますか? そろそろ限界でしょう?」
ほとんど動かずでも、湧能力を行使するだけで体力は消耗する。
あれだけ強力な力を連続で使用すればその消耗は計り知れない。それがリーゼの展開くらいでしか体力を使わない僕にとってのでかいアドバンテージだ。
そしてそれ以上に攻撃が全く通用しないという焦燥は精神をひどく削ってくるだろう。
「……そうだな」
たっぷりと息を吸ってからアンドリューさんが静かに言う。
「いい加減鬼ごっこは終わりにすっか」
雰囲気が変わった……!?
何か仕掛けてくることを悟り、とっさにリーゼを全方位に広げた。
「まぁせいぜい頑張れよ」
真正面から光弾を放ってきた。
なんだ? それが僕に通じないのは思い知ったはずだ。
と思ったら突然その姿が消え去った。
「なっ!?」
剣先はずっと見ていた。それを僕に向けたままアンドリューさんが消えたので、どこへ行ったかわからなくなる。
……後ろ!
リーゼを全方位に展開していたのが幸いし、背後にとらえた感触を抹消する。
そうして振り返ったけれど、誰もいなかった。
右から……今度は左前、また後ろだ!
あらゆる方向から次々と攻撃が迫ってくる。
たとえ死角からでもリーゼの感覚があればしっかりとらえることはできる。
しかし、今現在いったい何が起こっているのかがさっぱりわからない。
手……?
一瞬視界に映ったアンドリューさんが右手の木剣と左手の先から同時に光弾を発射しているのが見えた。
そこで僕は2つの勘違いに気がついた。
1つは光弾が剣先から放たれると思い込んでいたこと。
移動と攻撃を同時にできるとは考えていなかった。
そしてもう1つはあれだけ湧能力を使ってもまだまだ体力には余裕があるということ。
この人に疲労という概念は存在しないらしい。
アンドリュー・コーダーはとんでもない化物だ。
「さあエクシイ。次はお前が追い詰められる番だ」
前後左右のあらゆる方向から発せられる言葉に僕は耳を傾けることしかできない。
「我慢比べといこうか」
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