Seq. 15
「さっきのあれ、何だったのか教えてくれないかしら?」
試合後、腑抜けてグラウンドで仰向けに寝そべっていた僕にミロが問いかけてくる。
「さっきのって?」
「急に木剣を操りだしたじゃない」
ああ、その話か。
「初めて見たけれど、あなたの『竜殺し』には念動系統のような力があったのかしら」
「いや、そうじゃなくてね――」
別に隠すようなことではないので、リーゼの本質について簡単に説明する。
「……なるほど、支配する力ね」
話を聞いたミロは見るからに落胆している。
「それがエクシイの本気……。今までのワタクシの実力では不十分だったのね……」
「それは違うよ」
身体を起こして卑屈になるミロを否定する。
「あの力は本当に危険なんだ。だからできる限り使わないように言いつけられているし、僕もそれがいいと思っている」
リーゼによる支配は物体だけじゃなくて人間や魔物にも適用できる。使いようによっては他人を奴隷みたく扱うことだって可能だ。
そんな使い方をして人の道を踏み外さないように、幼いころからお父さんやグラームズさんから教育されてきた。
「むしろ僕に使わせたことを誇っていいんじゃないかな」
慰めではなく心からそう言った。
「でも……ようやくあなたと渡り合えるくらい強くなれたと感じていたのに……」
さっきからミロは俯きっぱなしだ。
これでは何を言っても追い詰めてしまう。
どう声をかけるべきか考えていると、ふと、昔に言われた話を思い出した。
「あのさ、どうしてミロは強さにこだわるの?」
「えっ……?」
脈絡のない僕の質問に目を丸くするミロ。
「もっと強くなりたいと思っているのは僕だって同じだよ。でも大事なのは、誰より強くなるかよりもどんな風に強くなるかだと思うな」
僕がピアスに認められたいと願っているように。
「エクシイ……」
ただの受け売りで偉ぶったことを言ってしまったけれど、胸に手を当てているミロは冷静さを取り戻したようだ。
「……ワタクシの故郷、ファイフは魔物の被害が他国より深刻なのは知っているわよね」
「うん」
僕と背中合わせに座ったミロが語りだす。
「獰猛な魔物が暴れて毎年何万という人が命を落としているわ。討伐隊や自衛団はいるけれど、まともに太刀打ちできる湧者はほとんどいないのが現状なの」
ミロを視界に入れないまま、黙って耳を傾ける。
「非力な人々でも身を守れるようにと、小型の銃器が開発されている。けれど魔物に有効打を与えられるほどの威力があるものはまだ存在していないわ」
ファイフ公国の銃器の話なら聞いたことがある。
長年かけて開発したものの、湧能力の足元にも及ばない代物だったという酷評だったけれど。
「だから、ワタクシは強くならなければならないの。魔物を狩れるの湧能力を持つ者として、1匹でも多くの魔物を討ち、1人でも多くの命を守るために」
「そうだったんだ」
僕の相槌のあと、ミロは大きく息を吸ってからゆっくりと吐き出した。
「ワタクシ、あなたの強さにこだわっていたみたい。やっと自分を見つめなおすことができたわ。お礼を言わせてちょうだい」
立ち上がったミロが手を差し出してくる。
「どういたしまして」
僕も立ち上がってその手を握り返した。
「おーいお前ら、いつまでも話してないでさっさと片付けしてくれよー」
試合中には全く聞かなかったコルム先生のやる気のない声が聞こえてきた。
「さてと。ああ言ってることだし、そろそろ片付けしようか」
「ええ、そうしましょう」
◆◆◆
木剣を備品室に返してグラウンドの整地が終わったころ。
「エクシイー!」
誰かが僕の名前を呼びながら手を振って駆け寄ってくる。
夕日の逆光で顔は見えないけれど声でわかる。
ピアスだ。
「やっほー!」
僕も負けじと声を張り上げ手を振り返す。
そのまま近くまで来たピアスとハイタッチを交わした。
「試合、どうだった?」
ピアスはさっそく結果を知りたがる。
「ワタクシの負けよ。完敗だったわ」
そう言ってミロが肩をすくめた。
「いやいや、かなりの接戦だったって」
「でもエクシイが勝ったんだ。さすがだね」
ピアスにそう言われて、にやけながら頭をかいた。
そんな僕に向かってミロは堂々と宣言する。
「次こそは負けないわ。なんていったって、多くの学園生が注目する大舞台だもの!」
「そっか、もうそんな時期なんだ。いよいよなんだね――」
「「ベクマス闘技大会!」」
そこで2人の声が重なった。
「その前に、定期考査だけどね」
「あー……そうだね……」
せっかくの盛り上がりをピアスに水を差されてしまった。
いやピアスは悪くない。むしろ現実を教えてくれたことに感謝しなければ。
「……今回も、よろしくお願いします……」
あんまり勉強が得意じゃない僕は、テスト対策に付き合ってもらうよう成績優秀なピアスに懇願するのだった。
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