Seq. 14

 ぶっちゃけた話、僕の「竜殺し」はミロの「華刃演舞」に対して相性が最悪だ。

 僕が試合で勝利するためには、相手の身体を固定して首筋に木剣をそえる必要がある。相手の骨をグチャグチャにする度胸があれば別だけど。


 どちらにせよ、まずは懐に入らなければならない。

 一度とらえてしまえばそれなりに距離をとっても維持できるけれど、リーゼの射程はせいぜい腕2本分くらいしかないからだ。


 対する華刃演舞は、正確な距離は知らないけれど、かなり遠くまで有効らしい。

 少なくとも僕を寄せ付けないためには十分なくらい。


「はあっ……くぅ……」


 やっぱり簡単には近づかせてもらえない。

 高速で動き回る木剣が2本ずつ、交互に僕を貫こうと十字方向から迫ってくる。避けることで精一杯だ。


 4本同時だとそうなるか……。


 ピアスの投げる小石とは比べ物にならないくらい速いそれをリーゼでとらえるには1本に集中しないとダメだ。

 ミロもわかっていてこの猛攻を繰り出しているのだろう。


「はっ……はぁ……っ……はあっ」


 だんだん息が上がってくる。


「どうしたのかしら、エクシイ! 今日はずいぶんとおとなしいのねっ!」


 僕を挑発する声が発せられるのはまだかなり遠い前方からだ。


 1本だけでいい、どうにかとらえられれば……。


――ズザッ!


「ぐぅ……っ」


 考え事をしながらだと回避しきれず、木剣が左肩をかすめていった。


「はっ……はぁ……。一か八か、やるしかない」


 続けざまに迫ってくる2本の木剣。

 ギリギリを見極めて避け、片方をリーゼで包む。


 これで1本――。


――ドシンッ!!


「がはっ……ぁ……」


 ミロはその隙を逃さなかった。

 その前の攻撃に使った2本を急反転させてこちらへ飛ばしてきたようだ。

 なんとか1本は避けることができたけれど、もう1本の直撃を腹部にもらった。


「ぁっ、はっ……はっ」


 ふらつく身体を気合で動かし、追撃を受けないように素早く後方へ跳んで距離を取る。

 宙に浮く4本の木剣はしっかりと視界に収めてある。


「両者待て!」


 そこで戦闘が中断された。

 グラウンドに響き渡る声を出したコルム先生の方向へ目をやる。

 3人で何やら話し合っている。今ので勝敗を決めるべきか相談しているようだ。


「大丈夫、まだやれます」


 試合終了の是非を判断しかねている教師陣に向かって軽く数回跳ねてみせて、続行可能を意思表示をする。

 コルム先生が口を開いて何か言うとほかの2人はしぶしぶといった顔でうなずいた。


「それでは再開する。両者構え!」


 その言葉で僕は再び木剣を構えてリーゼを展開する。

 ミロは4本の木剣の先をちらに向けてくる。


「はじめっ!」


 今度はどちらもすぐに動かない。

 お互い、見合ったまま相手の出方をうかがっている。


 どうすればいい……?


 決して手がないわけじゃない。

 ただ上手くいくかどうか、自信がないんだ。


「エクシイ!!」


 ミロが叫んでくる。


「もうあなたばかりを最強とは呼ばせないわ! 確信したの、今日はあなたを負かしてワタクシの強さを証明できるって!!!」


 それなら。


「やってやる」


 覚悟は決まった。全速力でミロへと一直線に駆けていく。


――ビュゥンッ!!


 まずは2本の木剣が迫ってくる。


「ふっ、っと」


 これは回避に専念する。

 そして前へと進むために足を動かし続ける。


――ビュッン!!


 間髪入れずに残りの2本が飛んでくる。

 こっちは避けずに正面から突っ込んだ。


「よしっ……」


 片方をリーゼでとらえた。


「はっ」


 その木剣を操りもう片方の木剣に打ち当て、軌道をそらした。


「まだっ!」


 先ほどと同じように切り返してきた2本。一方は操った木剣で軌道をそらし、もう一方はリーゼでとらえきった。

 そこで攻撃が止まる。


 上手くいった……。


 今の状況は、僕の周囲に意のままに操れる2本の木剣が空中に漂っている状態だ。


「エクシイ、あなた……それはいったい……?」


 きっとそんなことを言っているのだろう。

 目をまん丸にしたミロが口をパクパクさせている。


 コレを学園で使うのは初めてかな。


 僕の湧能力「竜殺し」の、「リーゼ」の真髄……世界最強と呼ばれる理由がコレだ。

 リーゼがとらえた対象にできることは僕が普段使っている「固定する」、「破壊する」だけじゃない。

 対象を自在に「支配する」。それがリーゼの本来の力なんだ。


「あまりにも傲慢な力だから、僕としてはできる限り使いたくないんだけど……」


 とらえた対象が他人の湧能力の制御下にあった場合、その湧能力さえも限定的に支配することができる。

 つまり今僕は2本の木剣に対して華刃演舞を発動しているわけだ。


「まだっ、勝負は終わっていないわ!」


 頭を切り替えたミロが残りの2本と、手に持っていた1本も浮き上がらせて合計3本の刃を向けてくる。

 僕がそれに怖気づくことはなく愚直に真正面から飛び込んでいった。


――ヒュンッ!


 迫りくる木剣を、支配した2本を使っていなしていく。

 2人のへだたりは瞬く間に縮まっていった。


「まだよっ!!」


 ミロが僕から距離を取ろうとする。


「無駄だよ」


 華刃演舞で制御している木剣に足を乗せて一気に加速する。

 射程圏内に入ったミロをリーゼで覆った。

 そのまま身体を固定して、喉元に初めから持っていた木剣をそっと当てる。


「そこまで!」


 試合終了の合図がかかる。


「勝負ありっ! 勝者、『竜殺し部』エクシイ!!」


 コルム先生により僕の勝利が告げられた。


「ふう……」


 気が抜けてその場に尻もちをついてしまう。

 かなりギリギリの戦いだったけれどなんとか勝利を収められた。


 これでまた少し、キミに近づくことができただろうか……。

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