第49話 お金にふり回されない生き方
「ね、パパ、お金にふり回されない方法ってあるのかな?」
カノが、聞いてきた。
「お、ちょうど、これから話そうと思ってところだったよ。最後に、その話をしよう」
「うん。ぼくも、それをしっかり知りたいな」
「まず、現代では『お金』と関係なく生きるのは不可能だと言っていい。つまり、これから続いていく人生の中で、『お金』の問題は間違いなく起きる。ことの大小は別にしてね。そうした時に、『お金はどういうものか』を理解していることが、まずふり回されない生き方に必要だね」
パパは、二人の顔をしっかりと見て言った。
「今までのパパが話してくれた、いろいろなことね。『借金』とか『貧困』の話は、ちょっとこわかったわ」
「『お金』の話は奥が深いなって、思ったよ。なんでこんな大事なことを、学校では詳しく教えてくれないのだろうとも、ちょっと思った」
「どんなものか知っておくことは、こわさを減らせる。『知る』ということは、恐怖を克服するための重要な手段だ。それは『お金』についても変わらない。『お金』がどんなものか知っていると、自分がお金に対して抱いている気持ちも整理できるだろう」
「知っていると……いろいろ気づけるのね。『お金』の話を聞いてから、買い物はちょー真剣だよ、わたし」
「『お金』のことを知ってから、世の中の仕組みがより一層面白いなって感じているよ」
「次に、あらためて、『お金はコミュニケーションツール』であることを意識すること。売って買っては、会話と同じ。自分が作ったモノやサービスにお金を払ってもらえるのは、相手から信頼されている証だね。そして、自分がお金を払う時は、相手が信頼できるか見極めよう。同時に、自分が本当にそれを欲しいのかを、深く考えることも大事だね。誰かに何かをしてもらったら、気持ち良くお金を払うこと。逆に、自分がした仕事に対して、気持ちよくお金を払ってくれる人は、大切にしないといけない。信頼してくれているわけだからね」
「うーん。まだ、働いたことない子どもには、わかりづらいかも……」
「でもさ、カノちゃん。誰かに助けてもらった時にお礼をしたくなるでしょ。それがお礼の言葉だったり、プレゼントだったりする代わりに、『お金』を払うってことじゃないかな」
ハルは、自分の考えを伝える。
「あ、なるほど」
「それから、『お金』にふり回されないためには、自分の『キャッシュフローをいつも確認すること』だね。二人の場合は、おこづかいのお金が入ってきて、お菓子やマンガ代で出ていくなどかな。ダムの水というお金をしっかり貯めること。つまり貯金も意識して、使う額を制限する。高校生や大学生になったら、アルバイトもできるようになるから、もっとお金に対する意識が高まるだろうね」
「うん。働くってどういうことなのか、はやく経験してみたいな」
「いいなぁー。わたしは、まだまだ先だよっ」
「『お金の流れ(キャッシュフロー)』の管理はとても大事だ。どうやったらダムにたまる水である貯金が増えるのか、どうやったら支出という放水を減らせるのか、どうやったらダムに多くの水が集まるのかを考えておくことは、生きていく上で欠かせないんだよ」
「うーん。ちょっと面倒そうだよねー」
「でもさ、お金は数字で管理できるから、きちんと記録を取っていれば、逆に面白いかもしれないよ。ちょっとずつ貯金をして、欲しいものを買うとかさ。貯金というラベルをつけてね」
ハルが、カノの顔を見て言った。
「お金の管理をしっかりできることは、お金にふり回されないために欠かせないよ。少し面倒だと思うなら、楽に記録して管理できる方法を考えよう」
「他にもふり回されないコツは、あるの?」
「あるよ。『お金を稼ぐ手段を身につけること』だ。自分はどうやってお金を手にいれるのか? その方法をきちんと持っておくことだ。高校生くらいからできるアルバイトは、誰でもできるような仕事と考えられている。だから、時給もある範囲内なんだね。けっして高くはない。それでたくさん働いてお金を稼ぐことも可能だけど、自分にもっとスキルがあればもっと時給や給料の良い仕事に就くことができる」
パパは一息いれて、続ける。
「例えば、英語がしゃべれる、プログラミングができる、法律に詳しい、電子回路を設計できる、絵が描けるなど、世の中に必要とされるスキルはたくさんある。それらを身につけることで、より稼げる仕事に就くことができる。それは、本人の好みと努力で達成できることだ。身につけたスキルを使って、仕事をしてお金を稼げるようになることは大切なんだ。もちろん、自分でビジネスを考えて、会社を立ち上げて、社長として、がんばるなんて道もある。誰かに価値を提供できる人間は、何かしらスキルを持っているということなんだね」
「そっかぁ。ぼくはどんな仕事をしたいのかな。真剣に考えたことがないよ」
「なので、二人には学校での勉強をがんばってもらいつつ、自分が好きなことに気づいてもらいたい。そして、世の中をきちんと見わたして、どんな仕事があるのか、自分はどんな仕事に興味があるのかを気づいて欲しい。アルバイトができる年齢になったら、興味のある仕事に近いものを選んでやってみるのも良いね。パパの経験から言えば、どんな仕事にも面白いところと苦労するところがある。だから、自分が好きなこと、やっていて楽しいことを中心にして仕事を見つけられると良いだろうね。苦労やストレスをのりこえやすいからね」
「なるほど。自分がどんなことができて、それでお金がもらえるのかは重要そうだなぁ」
「していて楽しいことで、さらにお金がもらえるならハッピーだわ」
「そうだよ。もちろん、仕事というのは、誰かの代わりに行うという面があるから、やりたくないことにも見えるものもある。掃除が苦手な人からみれば、掃除ほど面倒なことはないと思うだろう。でも、キレイ好きで掃除を楽しんでいる人にとっては、周りがキレイになり、おまけにお金ももらえるなら願ったりかなったりだね」
パパの説明を聞いて、二人の顔は明るくなる。
「大人になるって、自分できちんとお金が稼げるようになることでもあるのかな」
「自立した大人になるというのは、自分で生活していけるだけのお金を稼げるってことだね」
「えっと、もう一回おさらいすると……お金にふり回されないためには、『お金のことを知る』ってことと……」
カノの言葉を受け取って、ハルが続ける。
「『お金はコミュニケーションツール』ということ。社会に欠かせない道具だと意識しておくことだね」
「あと、『キャッシュフロー(お金の流れ)を、しっかりと把握すること』ね」
「そして、『お金を稼ぐ手段を身につける』 だね」
「『お金』はたくさんあるにこしたことがないけど、手元にあるお金とキャッシュフローで身のたけにあった生活をおくれるように調整することが大事だよ。無理してお金持ちのふりをする必要はない」
そして、パパは続ける。
「本当にお金を理解している人たちは、自分の人生に不要なものは買わない。自分の人生という時間を大切に過ごすために、好きな仕事に就き、本当に自分が望むことを楽しむ。時に苦手なことは、お金を気持ち良く払って解決している。なるべくそうなるように、自分の人生を組み立てているんだね。わかったかな?」
「うん! まだ子どもだからわからないこともあるけど、でも、『お金』のことをたくさん学べて、とても良かったわ」
「『お金』に対して、しっかり考えられるようになったと思う。社会で生きていくためにお金は欠かせないとわかったから、もっと自分で勉強してみるよ。おすすめの本があったら、教えてね」
「おお、それは良い心がけだ。それじゃ、今日で『お金の授業』はおしまい。二人とも最後までしっかり聞いてくれて、ありがとう」
「こちらこそ、大切なことを教えてくれて、どうもありがとうだよ。楽しかった」
「『お金』のことをちょっと知りたいと思ったのがきっかけだったけど、たくさん教えてくれて、本当にありがとう」
三人がにっこりほほ笑んだところで、台所からママの声が響く。
「ハルくんたち、年越しそばできたわよー。のびないうちに食べよう!」
「はーい!」
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