第8話

 結局、日本は人口の5分の1をこのゾンビアポカリプスで失ったらしい。関東を中心に被害が大きく、国の機能はしっちゃかめっちゃかのままだ。

「まさか生きているうちにこんな映画みたいな事件に巻き込まれるとはね。しばらくはごめんこうむりたいわ」

「しばらくって、私はもういいよ。一生いらない。もうゾンビ嫌い」

 柚希は保護されてすぐに人間に戻ることができたらしい。私はというと、保護されてすぐ気絶してしまったようで、気が付いたら人間に戻った柚希と無事だった両親に付き添われて入院していた。最初に目を覚ました時は夢かと疑って思いっきりほほをつねってしまい、悲鳴を上げた。

「この経験をもとにしたゾンビ映画、絶対見たいんだが!」

「そんな不謹慎なもの、だれが作るのよ」

「死体保存のため作られたウイルスの失敗作が暴走しゾンビパンデミック!主人公は女子高生二人、一緒に逃げ回るの。いっぱい血を飛び散らせてさ、絶対楽しいよ!」

「ハイハイ」

 結局ゾンビが発生した原因となったのは、秘密裏に開発された遺体の保存性を高め移送に耐えさせるためのウイルスだった。しかしその性質のおかげで、ゾンビになった人も体の一部が残っていれば人に戻ることができたのだ。今も順番待ちで、どんどんゾンビを人に戻している。知らない間にずいぶんSFな世界になっていたものだ。

 少なくない人々が人を殺す経験をしてしまったが、なにせ町も壊れていて証拠はないしゾンビになれば記憶もないしで不問にされることとなった。思うところはあるだろうが、誰しも自分が生きるために人を食らったことなんて知らないままの方がいいし、愛する人のために手を汚したことなんてなかったことにしたかった。

 生活を立て直すには程遠い。学校再開もまだ未定だ。大人たちが奔走している間、子供である私たちは夢を語らうことにしようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最期の晩餐は君と 北路 さうす @compost

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ