29 リライトおわりました

 過去6回にわたってお送りしてきたリライト編も今回で最終回です。


 長編2の初稿が書き終わり、私は次に何を書くか迷いながら推敲作業をしていました。長編2を書き上げるまでの紆余曲折は、これまでのエッセイで語った通りです。次も長編に取り組む自信もなく、全く別の新しい作品を書くにしても、どのネタも決め手に欠けていました。

 そんな時、リライトというものを知りました。また牛捨樹さんが「いつも読んでいただいている方に限りいつでもリライトやアレンジ、オリジナル話を作って書いていただけるのを大歓迎」(※1)とおっしゃっていたので(リライト等を希望される方は、執筆前にご確認願います)挑戦させていただくことにしました。


 リライトを進めるうちにいろいろな発見や学びがありました。大義名分として掲げていた「後学のため」という理由も、きちんと役目を果たしてくれました。


 まずテーマ探しで発見したのは『神に遭う路地』編に作者の伝えたいことがたくさん詰まっていることです。


 作者である牛捨樹さんの近況ノートによれば『神に遭う路地』編で「神田(雅弘)との対比と成長目標の提示」(※2)をしたかったそうです。綾香のバックストーリーは『上野恭介は呪われている』『相反の子』編 第156話『1-1 おいでおいで』と対比になっています。また、雅弘は『異界行き電車に乗って』編で自己肯定感の高い人物として書かれており、彼よりも自己肯定感の高い人物として綾香は示されています。


 また『25 プロットを比較しよう 前編』にいただいた牛捨樹さんの応援コメントによれば、『自分が命を懸けてまで助けたい相手を見定める』という隠れ課題やホラー要素としての『神様の強さ・扱い・存在』と『罰当たり者の末路』も入っているそうです。さらに「綾香が対峙しなければいけない”神”とはどんなものなのか、綾香の強さは『絶対に勝負に負けない強さ』なのかを書き……たかった感じです。」とコメントをいただきました。


 私は『神に遭う路地』編のテーマを「信じるとは何か?」と分析しましたが、第352話『クソオヤジ』の後にある『extra』をエンディングとみなすなら、テーマとなる問いは別のものだったかもしれません。それだけ読み取れることの多い作品でした。


 細かい部分にも作者の伝えたいことが含まれています。

 プロットの比較で触れませんでしたが、現代パートの「承」では事務所内の千晴に重点が置かれています。雅弘はこれまでオカルト同好会部の部長としての千晴しか見てきませんでしたが、綾香と接する彼を見て違いを感じ取ります。もちろん、これはテーマとなりえませんが、作者の伝えたいことのひとつだと感じました。


 『神に遭う路地』編 第349話「当たり前の事」では「無礼をされたら誰でも怒る、悪いことをしたら謝る、謝罪を受け入れてもらったら感謝をする」という3つの「当たり前の事」が書かれています。テーマの本で理解までは及びませんでしたが、これはメッセージにあたるのだろうかと考えています。


 私は『長編2を書く』編でテーマが「作者の言いたいこと」と見かけた時、とっさに長編1のテーマを「ない」と断言してしまいました。その後、長編1もテーマを見つけたのですが『24 テーマを探そう!』で最初に設定したような限定したテーマしか見つけることができませんでした。

 「言いたいことが何もない」というのも、私が下手の横好きである所以かもしれません。こうした伝えたいこと、作品を通して伝えられることを探していく必要があると感じました。


 

 続いてプロットから発見したことです。

 私は長編2を執筆する際、プロットを書こうと決めていました。ただでさえ混乱気味の頭に、プロットを抱えたままで本文を書くのが大変だったからです。結局のところ、本文を書きながらプロットを整理してという作業を繰り返し、穴だらけなプロットしか書けませんでした。初稿完成後に行ったシーンの書き出しは8日もかかってしまいました(眠いんですよ、あの作業……)。さすがに効率が悪すぎます。


 長編2の反省を生かしてリライトではきっちりプロットを書きました。間違えました。過去パートのプロットはきちんと書きました。

 プロットがあると作品全体からシーンの流れまで把握できます。頭の中が整理されるので、本文も書きやすくなり、情報の過不足にも気づけます。細かい描写や言い回しにも気を配ることができました。これは発見でした。


 なぜ私がプロットを書くことを苦手としているのかも理由が見えてきました。

 

 私は現代パートのプロットを書かずに本文を執筆しました。現代パートは追加要素があるだけで、オリジナル版と大きな差がないからです。いわばオリジナル版がプロットのようなものでした。エッセイで説明するのに必要となり、オリジナル版とリライト版の両方ともプロットを書こうとして気づきました。


 何から書き出していいか分からない。


 ここでも冒頭問題が発生していたのです。エッセイ用ということもあり、なるべく分かりやすく端的に書くよう努めました。その結果、本文とプロットの書き方が違うことに気づきました。

 リライト版で現代パートはプロット(詳細版)を以下のように書き出しています。

 

 夏休みが始まって一週間。祓い屋の見習いの雅弘は、師匠である綾香のもとで修行をしていた。修行の一環として、雅弘は滞在するホテルの除霊を課題に出されていたが、姿の見えない声だけの悪霊に寝不足を強いられていた。雅弘はこらえきれないあくびを綾香に隠していたが、彼女から何が飲みたいか訊ねられ、とっさにかき氷と答えてしまう。綾香は事務員の千晴に電話を入れ、おろし金でかき氷を作るよう無理難題を押し付ける。


 これを本文に則した形で並べなおすと以下の通りになります。

 

 雅弘はこらえきれないあくびを綾香に隠していた。夏休みが始まって一週間。祓い屋の見習いの雅弘は、師匠である綾香のもとで修行をしていた。綾香から何が飲みたいか訊ねられ、とっさにかき氷と答えてしまう。綾香は事務員の千晴に電話を入れ、おろし金でかき氷を作るよう無理難題を押し付ける。修行の一環として、雅弘は滞在するホテルの除霊を課題に出されていたが、姿の見えない声だけの悪霊に寝不足を強いられていた。


 本文をそのままプロットにしようとすると、分かりにくいですよね?


 頭の中でシーンや文章を思い浮かべた状態でプロットを書こうとして、冒頭から詰まるという事態が起きているのだと思います。このことにようやく気づけました。

 プロットから本文、本文からプロットの間にがあるのでしょう……(何かって何?)。


 もうひとつ、この「何か」に阻まれているものを発見しました。


 会話文です。


 もともと会話文に苦手意識がありました。会話がメインのシーンは、他よりも書くのに時間がかかります。書いた後に流れを大きく変えることもあります。プロットでもどう書いたらいいか分かっておらず、書き上がった本文と比べると大きく違いました。


 ゼロから考え出す自作とは違い、リライトではあらかじめストーリーを把握しています。そのおかげでプロットを書く上で何がネックとなっているのかを知ることが出来ました。



 リライトで学びが多かったのはキャラクターでした。特にキャラクターの作り込みの面では、自作がいかに足りていないかを実感させられました。私はキャラクターの作り方を学んでも理解度が低く、長編2の反省点もキャラクター面が大半を占めています。

 

 独自の展開としてリライト版には「綾香が消灯時間の病院を抜け出し、途中の公園で大塚と出会う」というものがあります。二人が話を終えた後、大塚は綾香に病院へ戻るよう言い渡します。この流れを決定するのに、私は作者の牛捨樹さんへ以下の質問をしました。


「第344話で綾香さんから『ダメな大人の代表』と称されている大塚さんが、どの程度、良識的な考えを持ち合わせているのか知りたいです。具体的には、夜10時以降に出歩く15 歳の綾香さんに、もう帰れと言うような方でしょうか?」


 この質問に対する回答がこちらです。


「大塚さんは夜10時に綾香さんがふらついていたら『もう帰れ』と言います。しかしその理由は『女の子がこんな時間に危ないから』という理由ではなく『お前がフラついてるかぎり俺が見てなきゃいけなくてめんどくさいから』です。おおよそ一緒のような気もしますが、こういうニュアンスの違いは人間性を表すのに便利なので細かく考えてしまいます……。」(※3)


 これですよ、皆さん! この時の回答で私は大塚への理解が深まりました。細かな設定を作り、そこからどういう人間かを考えていく。そのあたりが自作には足りていないと気づかされました。次の作品ではキャラクター作りにも力を入れたいと思います。



 全7回にわたってお送りしてきたリライト編はいかがでしたでしょうか?


 永遠の初心者で下手の横好きが推し作品のリライトに挑戦するだけでなく、本編の半分ほどの文字数を使って解説(言い訳)する……。と、文章にすると意味の分からないことをしている気もしますが、まあいいでしょう!


 リライトに挑戦させてくださった作者の牛捨樹さんには、この場を借りて改めてお礼を言いたいと思います。

 素敵な作品とリライトの機会をいただき、誠にありがとうございました!


 では次回!


 ※1 近況ノート2025年6月3日 『!企画に参加しました!』より引用

 ※2 近況ノート2025年5月17日『しゅうまいがすきです。』より引用

 ※3 長編2 第17話 応援コメントより引用

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