第39話 せめてにんげんらしく
ラスターは剣を振り、ケモノと化した兎塚さんをひっぱたいて正気に戻し助ける。少なくとも、当初はそのつもりだった。
だが、
「やっぱ……ダメだ」
ラスターはあろうことか、剣をしまってしまったのだ。ケモノは唸り声を上げている。威嚇しているのだろうか?
「ほら、怖くない。大丈夫だから……」
『希望!』
「相手はレディなんだから、やっぱ向けるのは剣であるべきではないな。そう思ったんだ。ですよね? 南雲センパイ」
そこにはニヒルに笑い、なんとか立っている南雲センパイがいた。
「男が女に向けるべきは剣でも拳でもねえ。愛のある言葉であるべきだ」
南雲センパイはフラつきながらもどんどん近づいてくる。
「後輩……いや、仲間なら尚更な」
なんて言いながら、ラスターの頭を兜の上からわしゃわしゃとやる。
「兎塚さん、なんとか戻れない?」
「そうだ、お前なら出来るハズだ。なんたってお前は、俺たちの仲間なんだからな」
ラスターから戻った藤堂と、南雲センパイは、ケモノに向け手を差し出す。
「マッタク……オヒトヨシ……ナンダカラ」
「お、声は違くても、その声は兎塚だな?」
「モウチョットデセイギョデキソウ」
ケモノの力を制御する。それは災禍の魔王を捕食した副作用なのかもしれない。
ケモノは体を輝かせる。すると外装がひび割れ、粉々に割れた。
「ふう、」
中から現れた兎塚さんは、存外元気そうだった。
「なんだかお腹いっぱいなのよね」
「それはアレだけ食べたから」
「言わないでよ!」
その夫婦漫才を目の当たりにした南雲センパイは、体の痛みなぞ気にせずに大きく笑う。
「よし、帰るか」
「でも、どうやって帰ります? 一応ここは亜空間ですし」
「あーソレなら私が」
南雲センパイは藤堂と兎塚さんを突き飛ばす。その後血反吐を吐いた。それもそのハズだ。腹部に大きな穴を穿たれたのだから。
「え? センパイ?」
思わず声を上げた兎塚さんも、藤堂もこの事態を飲み込めていない。南雲センパイはそのまま倒れる。
「ハハハ、まずは一匹」
藤堂は声の方を見る。
ピジョン・ド・サブレがそこにいた。
ピジョンが持っているのは、オーゾの持っていた「災禍の剣ディザスター」だった。
「遂に手に入れた。魔王の力、その根源を!」
悲鳴をあげる兎塚さんを藤堂は落ち着かせるため肩を掴む。
「まずは回復魔法だ!」
兎塚さんと藤堂は、南雲センパイに回復魔法をかける。
だが、南雲センパイは起きない。
「ウソでしょ! いや! センパイ! 死なないで!」
藤堂は魔力が著しく低下していた。兎塚さんも、魔王の力を手に入れたとしても、すぐ馴染むモノではない。それにあの激戦の後だ、無理もなかった。
藤堂は立ち上がる。
「ピジョン……」
「なんだ? カエルのお供めが。ウサギを殺したら最後は貴様の番だ」
「……アンタは……アンタは許さない!」
藤堂は剣を呼び出しす。その様子を見て、ピジョンは吹き出し笑う。
「そんな、剣しか呼び出せないほど衰弱してて、何ができるってんだ?」
『希望! 最後の力、振り絞るぞ!』
「ああ、やるさ」
藤堂は剣をかまえる。
ピジョンは笑いながら、藤堂に向かってかけてくる。
「藤堂!」
「兎塚さん、こっちは任せて。南雲センパイをよろしくね」
藤堂はピジョンに向け駆ける!
「頼むぞ、グランスカリバーン!」
それに応えるように、藤堂の剣は輝き始めた。
気合いと共に、ピジョンは下段から、藤堂は上段から剣を振る。
両者の剣はかち合い、互いを弾き合う。
「なぜ、なぜだピジョン! なぜこんなことを!」
藤堂は剣を薙ぐ。
「知れたこと、元の世界に帰る為だ!」
ピジョンはそれをバックステップでなんとかかわす。
「元の世界に帰って、魔王を討伐し、世界を統べる王になるんだよ!」
ピジョンの上段からの攻撃、藤堂はなんとか打ち返す。
「させるか! アンタの思い通りになんて、絶対にッ! させるかああ!」
藤堂は渾身の力を込め、ピジョンに連続剣を見舞う。
「もう一度異世界への扉を開くには、オレたちを追ってきた三英傑の力が必要だった。
だがお前らは力不足。だから育て、力を吸い取った! だからお前らはもう用済みなんだよ! さっさと朽ち果てろ!」
連続剣をかわしたピジョンは、藤堂の腹部を蹴り、強制的に間合いを作る。
「なぜだ、なぜお前は自分の思い通りにだけしようとする! そのために他がどうなってもいいのか!」
「当たり前だ。王の糧になるんだぞ?むしろ光栄だろ!」
ピジョンは跳び上がり、落下速度を利用して攻撃してくる。藤堂はなんとかそれを転がってかわす。
「暴君になってはダメだ! そんなことをしても、誰もお前にはついてこない! 一人になるぞ!」
「知れたこと。世界にオレ以外必要ではない」
藤堂は剣を握る力を強める。
「お前を止める!」
「やれるモンならやってみろ!」
藤堂とピジョンは幾合も剣を合わせる。
「よ、よう兎塚」
「センパイ! ダメ、動いちゃ! まだ塞がりきってない!」
「そうか……藤堂は……やっぱピジョンと……」
「はい」
一命を取り留めたとはいえ、南雲センパイのキズはまだ深かった。兎塚さんは魔力切れの目眩で立てなかった。
「なさけねえなあ……仲間のピンチだってのに……」
「藤堂、負けないで!」
藤堂は気合いをため、残り少ない魔力の全てを剣に流し込む。
「次の一手が、最後の攻撃というわけだ。いいぜ? こっちもそんなもんだ」
藤堂は剣を最大限輝かせる。
「さあ来いよ、カエル!」
「うおおおおおおお!」
ピジョンもディザスターを真紅に輝かせる。
両者は睨み合い、そして爆けるように駆けた。
「砕け散れ! カラミティブレイク!」
「必殺! ギガスマッシュ!」
両者の剣はぶつかり、光が爆ぜた。
「藤堂……」
「藤堂ーッ!」
光が収まると、そこには……!
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