第31話 追いかけろ!
「どこ行きやがった……」
そう呟いたのは兎塚さんだった。
「危険だ。早く見つけないと」
南雲センパイがそう言うも、手がかりがない。新旧三英傑はお手上げだった。
「まあ、生きている限り何度でも殺すけどね」
藤堂の目には、「ピジョンを許さない」とあった。怒りがまた込み上げてきたようだった。
「の、希望! 落ち着いて」
「落ち着いてますよ、グラムさん。ただちょっとだけカチンときただけっすよ」
「希望……」
「皆さんお困りのようですね」
背後で腕を組んでいるのは、漢方屋の姉ちゃんだった。
「ああ、手がかりが無いからな」
「孝和、ここは何屋だい?」
「ボロい漢方屋……だよなあ」
藤堂も兎塚さんもそれ以上何も言えなかった。
「ボロいは余計だよ! まあいい。こんなこともあろうかと、盗難対策用の発信キノコをつけといたんだよ」
「ほう、やるじゃないの」
「で? チック・ベイカーは今どこに?」
「この亀の甲羅型レーダーによると」
ボソリと南雲センパイが「何でもアリだな」言ったのも、姉ちゃんは聞き逃さなかった。
「おだまり! で、ヤツは……この方角はアンタらの学校のある方角だね」
と、藤堂は走り出す。
「おい、藤堂! ったく」
舌打ちしながらも南雲センパイは藤堂を追いかける。遅れないよう兎塚さんも走りかけた。
「ちょいとお待ち!」
振り返ると、姉ちゃんが何かを持っている。
藤堂は校門の前にたどりつく。すぐに南雲センパイもたどり着いた。
「よう、藤堂。チック・ベイカーはいたか?」
藤堂は首を横に振る。
「だよな。どうする? 何? 正面からブッ潰す? やめとけ。それをやると民間の警備員が来る。少々めんどくさくっても忍び込んだ方がいい。わかるだろ? 戦えない相手が来ても……な?」
「……わかりました」
南雲センパイは校門を破壊して中に入ろうとしていた藤堂をなんとかなだめすかしたのだった。
「ちょっとアンタら何してんの?」
「兎塚も、校門をまたいで越えるってのを、やらないか?」
兎塚さんは「イヤイヤイヤ。ノーノーノー」と断固拒否のかまえだった。
「こっち、開いてますし」
校門の右手にある教職員用の小さな門だった。門を開け楽々兎塚さんは校内へと入ってきた。
「よく知っていたな」
「こちとらほぼ毎日こうやって出ていましたし」
えっへんとでも言いたげな顔をしていた。門の向こうで合流した三英傑の面々は、短く相談を始める。
「どうする?」
「しらみ潰しに校内を探すしか……」
「あ、私いいの持ってますよ」
兎塚さんは、スカートのポケットから何かを取り出す。
「それは? スマホか?」
「へへへ、コッチですよ」
亀のストラップだった。
「それは?」
「あ、亀の甲羅がレーダーになっていて、発信キノコに近づくと教えてくれるんですって」
「すごいじゃん! さすが兎塚さん。グラムもなんかわからないけどスゲ〜って」
天狗の鼻も、伸びればここまでになるか。というくらい兎塚さんはゴキゲンだった。
だが南雲センパイは考える。あの姉ちゃんが渡してきたものだ一筋縄で行かないことくらい容易に思いついた。
「マンドラゴラみたく叫ばなきゃいいがな」
「マンドラゴラってなんです?」
「簡単に言うと、引き抜くと叫ぶ植物」
「ああ、僕も聞いたことある。叫ぶのを聞くと気絶するんでしたっけ?」
南雲センパイはそれを否定する。
「たしか、死ぬんだよ。叫び声を聞くと」
「「え?」」
急に危険物を持っている気がしてきた。
「まあいいんじゃねえか? 俺たち誓ったよな。「死ぬ時は一緒だ!」ってな」
重たい話になってきた。爆弾を腹に抱えて特攻する兵隊はこんな気分なのだろうか?
「じゃあ行かないか?」
「そ、そうね」
「ま、変身すれば防げるかもですしね」
三英傑たちはようやく動き始めた。校内は真っ暗だったため、兎塚さんは全員に暗視魔法をかけてからのことだが。
昇降口を抜け、ロッカーを抜ける。
「あ」
「どうした兎塚」
「亀が!」
亀のストラップはわずかに浮かび、とある方向をさし示していた。
「コレについてこいってことか」
「よかったですね。マンドラゴラじゃなくて」
ホッとしてる兎塚さんと南雲センパイに藤堂はシビレを切らして声をかける。
「ほら、みんな行くよ!」
階段を登ると亀は左をさし示している。
「こっちね……っと、」
「いたか」
「はいセンパイ」
その言葉を聞いた藤堂はいきなり殴り込みに行こうとした。
「まて藤堂はやまるな。今は泳がせるんだ」
「何でです?」
「ピジョンの基地があるかもしれないだろ?」
納得した藤堂はチック・ベイカーを見る。その先にあるのは……!
「生徒会室?」
「そこにピジョンの隠れ家が!」
「待て! 藤堂! ああ、行っちまった」
藤堂はチック・ベイカーが入っていった、扉をスキマからこっそり覗く。
「まだ冷静なところもあったらしい」
「ただの小心者じゃないんですか?」
「全くだ。っと、追いついた。藤堂、何が見える?」
藤堂が指差した方にいたのは、真っ暗な部屋で倒れている校長先生を見ている生徒会長だった。
「ヤツがピジョン?」
「よく考えたら、誰も顔見てないんですよね」
「ピジョンの?」
南雲センパイの言葉を兎塚さんは肯定する。
「だってホラ、コート着てフード被ってたし。暑くないのかなぁ? とは思ってましたが……」
そうかもしれない。この状況で一つ言えることが藤堂にはあった。
「今ならピジョンに勝てる」
「ほほう、その心は?」
「ドラコもワキャワもいない。三対一。負ける要素はない」
南雲センパイはうーんと考える。
「一方的に三体一で倒すってのは後味によくないものを残すが……」
「そんなもん便所のネズミのクソですよさあ南雲センパイ、兎塚さん。これを最終決戦にしましょう」
「わかった」
「ええ」
そして三英傑は、扉をガラリと開け、生徒会室へと入っていった。だが、
三英傑はその光景を見て驚嘆した。
そこにはいたはずの生徒会長はおろか、校長先生すら居なかったのだ。
「この一瞬で、どこに?」
「え? でも、え?」
「ピジョン! ヤロウ! どこ行きやがった!」
「希望……」
旧三英傑が現れ、ゆっくりと話しかける。
「どうしたグラム?」
「ここ、多分亜空間に繋がっているよ」
「エキャモラにも出入り口はわからないわ」
「ふぁ〜孝和、ラモッグの空間認識レーダーにも反応はないよ〜」
面々は各々考えを巡らせる。
「一旦出直した方が良さそうだな」
「わかりましたセンパイ」
「藤堂も、いいな?」
「……居ないんじゃ仕方ないっすよ」
そして三英傑たちは部屋の外へと出ていった。ハンガーにかかったあのコートには気づかなかったようだった。
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