第40話 訓練生たち

「今日だけ訓練に参加することになったエルとカレンだ。

我らの訓練の厳しさを教えてやってくれ」


 俺とカレンは、ヴァルトフォーゲル伯爵により、いきなり50人の訓練生の中に放り込まれた。


「おい、貴族と女だぜ」

「俺たちみたいな底辺部隊に何の用だろうな」

「これは事故が起きても仕方ないな」


 訓練生たちは、一癖も二癖をあるような感じで、不穏な空気が流れている。

どうやら、ヴァルトフォーゲル伯爵による嫌がらせのようだ。

いや、待て。

俺たちが望む調査に一番適した部隊に招待されたとも考えられる。

ヴァルトフォーゲル伯爵、どういうつもりだ?


 とりあえず【凶悪犯探知】をと思っていると、いきなり背中を蹴られた。


「おい、お坊ちゃん、何処を見ているんだ?」

「そうそう、訓練はもう始まっているんだぞ?」


 どうやら、全員での乱取りが稽古のようだ。


「エル様!」


 カレンが俺を守ろうと俺を蹴った男に対峙する。


「俺はこの女と寝技の訓練だw」


 下品な顔をしたやつが、カレンの横合いから抱き着こうと突進して来た。


「カレン、殺すなよ」


 つまり、殺さなければ何をしても良いという御墨付きだ。


ボグ!


 下品な顔のやつがカウンター気味の肘を顔に受ける。


「ゲール!」

「やりやがったな!」


 ゲールと呼ばれた男が鼻血を出して崩れるのと同時に、訓練生が一斉に俺たちに襲い掛かる。


「【総合戦闘術】【総合強化】」


 凶悪犯の転生者を探している場合ではなかった。

俺は、訓練生たちに対抗することを優先するしかなかった。


 そして、最後の訓練生がカレンにより気絶させられ、訓練が終了した。


「なかなか面白いものを見せてもらった。

まさか、この連中がやられるとはな」


 ヴァルトフォーゲル伯爵が関心したように呟く。

どうやら俺たちが襲われるのをずっと見ていたようだ。


「おい、無茶しすぎだぞ!

なんなんだ、こいつらは?

まるで野良犬だぞ!」


「こいつらは、殺人衝動があって持て余していた連中だ。

その殺人衝動を敵兵に向ける訓練をしている。

敵に向かうのであれば殺人衝動も大歓迎だ」


「それを俺たちに向けさせたのは、シャレにならないのでは?」


 怒りを込めて訴える。


「その女、カレンと言ったか?

こいつらと同じだろ?

上手く使っているな」


「誤魔化すな」


 俺はヴァルトフォーゲル伯爵に向けて殺気を飛ばす。

すると、死屍累々で倒れていたはずの訓練生たちが一瞬で飛び起きた。


「指揮官殿を害されてたまるか!」

「指揮官殿を助けるのだ」


 どうやら上手く使っているのはヴァルトフォーゲル伯爵も同じだったようだ。

何かの条件付けでもしているのだろうか?


「このままだと、殺しの許可を出さざるを得ないが?」


 俺はヴァルトフォーゲル伯爵に最後通牒を突き付けた。

明らかな身の危険を感じたからだ。


「ふん、その覚悟もあるのか。

おい、おまえら止めろ!」


 ヴァルトフォーゲル伯爵の命令で訓練生たちの殺気が消えた。

どうやら伯爵の命令には絶対服従するようだ。

これならば、もし凶悪犯の転生者が居たとしても、犯罪行為は抑えられていると見てもよさそうだ。


「(【凶悪犯探知】)」


 俺はスキルで彼らが凶悪犯の転生者なのか調べた。

やっと、その暇が出来たともいう。


「ずいぶんな連中を集めたものだな」


 その結果は、5人が凶悪犯の転生者だった。

つまり、その他45人は、この世界生粋のわるだった。


「これでもスカウトには自信があるからな」


 つまり悪をスカウトして、立派な兵士にするのがヴァルトフォーゲル伯爵の仕事ということだろう。


「おいおい、こんなのばかりじゃないからな?」


 俺の視線に誤解があると思ったのか、ヴァルトフォーゲル伯爵が言い訳をする。

どうやら、まともな兵士も居るらしい。

だから、底辺部隊と自称していたのか。

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