第38話 合法殺人(加筆版)

 俺は捕まえた凶悪犯の転生者から、その犯罪スキルを奪っていた。

だが、有り触れた殺人犯からは、同じスキルしか手に入ることがない。

ケイマン男爵の息子からも、重複したスキルしか手に入っていない。

だが、そのスキルが齎す犯罪衝動は、捕まった後でも危険なために犯罪スキルはなるべく奪うようにしていた。


「あれ? スキルが進化している?」


 そうやって重複してスキルを取っていrと、取ったスキルが進化している事に気付いた。

例えば、殺人犯が持ちがちな【殺人技】や【殺戮補助強化】だが、これを俺は【戦闘技】と【戦闘補助強化】として入手していた。

これが重複して得るうちに【総合戦闘術】と【総合強化】に進化していた。

どちらも上位のスキルであり、適用範囲が広がっているようだ。

例えば、【総合戦闘術】は戦闘技のジャンルが増えていて、【総合強化】ば、自分しか使用出来なかったものが第三者も強化出来るようになったといった感じだ。


「殺人犯といっても手口が違うから応用範囲が広がったのか?」


 あの刑務所に入っていたのは、ほとんどが殺人犯だった。

その手口に差があっただけだ。

詐欺、宗教、薬物、性的嗜好、怨恨、快楽、それらにより犯行に差が出ていただけなのだ。


「だが、もっと多いはずの傷害致死犯と遭遇しないのは……まさか……」


 受刑者の中で一番多いのが、やはり傷害による殺人ということになる。

そんな転生者にあまり遭遇しないのは、この世界特有の事情によるものかもしれない。


 この世界、殺しに来たら反撃して殺しても罪に問われない。

凶悪犯の転生者は、10歳でその前世の記憶に目覚めるようになる。

そこで犯罪衝動に駆られたら……。

大人との体格差で返り討ちになっている可能性が高い。


「そういやカレンは幼くして暴れて、即奴隷として売られたと言ってたな」


 奴隷として生かされたのはまだ良い方だったようだ。

つまり、なかなかの数の転生者が、人知れず処分されているということだろう。

そうなると、必然的に生き残る条件というものが出来る。


「裕福なほど、権力者に近いほど、暴れても揉み消せて生き残れるということか?」


 【殺人技】を持て余しても、その捌け口を用意出来るのかもしれない。

殺しても良いだけの罪を犯した犯罪奴隷を処分するのは合法だった。


 ジェイソンが【ロリコン】を持て余しても、その捌け口の奴隷を用意出来たように、そういった用途の奴隷を買えば良いのだ。

そこの過程が合法ならば、取り締まることは出来ない。


 他にも例えば、カレンのように合法の殺しが出来る仕事に従事すれば、それはむしろ善行となる。

殺して良い職業に就けば罪に問われることはなということだ。

軍に入り戦争で敵を倒す、これは合法的な殺人行為だ。

処刑人になって死刑の執行をする、これも立派な職業となる。

殺しても良い職業、それがこの世界には存在する。

特に、冒険者になって人型の魔物を倒し、殺人衝動を抑えれば、それは社会の役に立つ存在となる。


「俺もいつの間にか、刑を執行する立場だった」


 これも役に立つ殺人行為なのだろうな。


 俺はいつのまにか、合法殺人に手を染めていた。


 ◇


「ということで、殺人を犯していない凶悪犯の転生者は積極的に勧誘することにした」


「また面倒なことを」


 カレンが呆れ気味に言う。

カレンはあまり慣れ合いたくないという主義だ。


「俺には【カリスマ支配】がある。

危ない奴は支配でどうにか出来る」


「ルディみたいに、信用できると思ってからだな」


 カークもあまり乗り気ではないようだ。


「ならば、しばらく人となりを見てからならば良いだろ?」


 試験採用というやつだな。


「まあ、その対象者が見つかってからにしましょう。

無理な奴は無理なんで」


 それは俺も理解している。

例えば、Aが更生していたとしても、それを仲間になんかできるわけがない。

この世界で違法だろうが俺はAを殺すだろう。


「そうだな。

まあ頭の隅にでも入れといてくれ」


 全ては凶悪犯の転生者を見つけてからだ。


「それじゃあ、当初の予定に戻って港湾都市アケーリアルに向かおうか」


「次の寄港地は王軍の練兵場があるはず。

職業軍人が多い領地だな」


 それも王国内全土から集められているという。

もしかして、そこには凶悪犯の転生者、しかも【殺人技】使いが多いかもしれないな。

殺しを職業にするならば、兵士になって戦争に行くのが一番だからな。

そこには俺が求める更生した殺人犯が居るかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る