第36話 謎の転生者の正体
王家の紋章を見てケイマン男爵が一瞬怯む。
「ぶはははは、マジかw」
だが、後ろにいる魔導士っぽい男の笑い声で気を取り直す。
「こんなことやるやつ、リアルに居たんだw」
それは俺の時代劇じみた行動に対する嘲笑だった。
思わず恥ずかしさが倍増する。
「ええい、こうなったら全員始末して無かったことにしてやる!」
ケイマン男爵が開き直った。
だが、それはもう遅い。
「残念だったな、もう王家に報告済みだ」
俺がそう言うと、ケイマン男爵は魔導士っぽい男の存在を思い出したかのように振り返ってその顔を見る。
そして、ニヤリと笑った。
何か仕掛けて来る!
そう思った時には、魔導士っぽい男がスキルを発動していた。
「【精神支配】」
それは精神系の支配スキルだった。
しまった、先に【鑑定α】を使っておくべきだった。
俺は半分抵抗しながらも精神支配を受けてしまっていた。
そして、行動の自由が妨げられていること気付く。
「トオヌマ、良くやった」
その名前には聞き覚えがあった。
それは前世の世界でカルト宗教を起こし、宗教テロを行った教祖の名前だった。
遠沼という珍しい名前なのでピンと来たのだ。
まさか前世の名前を使っているとは、どれだけ自己顕示欲が強いのだろうか。
「もう1段階支配を上げておきましょう。
良い手駒になりそうですよ」
そう言うと遠沼は俺に近付いて身体に触れた。
今だ。
「【スキル強奪変換】」
俺は遠沼から【精神支配】【教団運営】【資金洗浄】【テロ指南】のスキルを奪った。
変換後のスキルは【カリスマ支配】【軍団運営】【資金調達】【軍事指南】になった。
これにより、遠沼の【精神支配】から逃れる事が出来た。
レベル差により半分抵抗出来ていたことと【スキル強奪変換】があったおかげだった。
「スキルが無くなった?」
「何をやってる! 早くやれ!
なんのために小さいころからお前を育ててやったと思ってる!」
よくよく見ると、遠沼の右手の甲には奴隷紋があった。
つまり、遠沼はケイマン男爵の奴隷だったのだ。
遠沼はせっかく教祖となり他人を支配出来るスキルを持っていたのに、それを利用できるようになる前に奴隷になってしまっていたようだ。
俺たち転生者に前世の記憶が蘇ったのは10歳の時だった。
その前に奴隷になっていては、せっかくの【精神支配】スキルも使用出来ず、奴隷の主人には通用しなかったのだろう。
その後、能力に気付かれて優遇は受けたのだろうが、奴隷として従わされる立場からは逃れられなかったということか。
市民を冤罪で掴まえた後、どうやって従わせているのかと思っていたが、そんなカラクリがあったのか。
正規の裁判で犯罪奴隷にしたとすると、そこに不正の証拠が残る。
それが、遠沼の【精神支配】を使えば、奴隷契約をしていなくても奴隷の出来上がりなのだ。
何か調査が入った時も、市民に奴隷紋が無いので、自主的に働いていることにされていたのかもしれない。
「無駄だ。
そいつのスキルはもう使えないぞ」
今頃鉱山でも自由になった人が現れていることだろう。
「ええい、死なばもろとも、やってしまえ!」
ケイマン男爵がそう命令したが、屋敷の戦力は壊滅した後だった。
そして、この台詞が決め手となり、叛逆罪で緊急逮捕となった。
王家の紋章は王家の代理人を意味する、その代理人に対する殺害命令だ。
完全にアウトだろう。
スキルを全て失った遠沼は呆然としたまま捕縛された。
能力を奪われたことが余程ショックだったのだろう。
「まさか、教祖が関わっていたとはね」
もしも遠沼教祖が身分の高い家に生まれ、その能力を存分にふるっていたら……。
カルト教団がまたテロを起こしていたかもしれない。
ケイマン男爵は小悪党だったが、その点でこの世界を救ったのかもしれなかった。
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