第35話 領主館突入
こういった場合に使える強制捜査権が特殊犯罪独立捜査機関には与えられていた。
この世界、領主の息子のような立場だと、簡単に法律を曲げやがる。
それで苦しむのは領民だが、こいつらは領民の命さえも自分たちの所有物だと思っている。
だから、無実の市民を誘拐して犯罪奴隷にし、鉱山でこき使うなんてことが出来てしまうのだ。
当然、王国法でも犯罪行為なのだが、その取り締まりをするのが領主の役目でもあるため、領主が領主側の犯罪をスルーするなんて当たり前なのだ。
「そのための特殊犯罪独立捜査機関だ。
領主館に乗り込むぞ」
貴族犯罪を正す。
それが特殊犯罪独立捜査機関設立の理念だ。
発端はシンディーの実家が乗っ取られた事件だった。
それを解決した手腕を見込まれ、王様直々に設立が宣言され、俺に任されたのだ。
取り締まられる側の脛に傷持つ貴族たちからは、意外にも反対する意見は出なかった。
藪ドラになることを恐れたのと、当時13歳だった俺の御褒美人事のママゴトという認識だったからだ。
だが、王様と俺は本気だった。
先の麻薬事件解決で、脛に傷持つ貴族たちは戦々恐々としたことだろう。
俺が子爵に陞爵された現場にケイマン男爵が居なかったことが不幸だったのだろう。
彼は領地が王都に近いことで、王城への出仕時には船で移動していた。
だが、今回俺が御召し船という高速船で移動したため、彼は登城が間に合わなかったのだ。
なので、あの現場の雰囲気というものを肌で感じていなかった。
次は自分かもしれないという。
それが
◇
ケイマン男爵の館は、
そこにボコボコにされ縛られた
門番の顔色が変わる。
ちなみに、
殺せない鬱憤をぶつけたのだろう。
まあ、止める気もなかったけどね。
そして、部下たちは捕縛してルディに任せている。
ここに連れて来ても邪魔なだけだからな。
その犯罪行為を以って領主館に強制捜査に入るのだから、生き証人として連れて来ていたのだ。
「我らは王家直轄特殊犯罪独立捜査機関である。
誘拐容疑で強制捜査する」
カークが宣言する。
だが、そんな組織のことなど下っ端まで周知徹底しているわけではない。
腐敗貴族の天敵だということに、気付かれも警戒もされていないのだ。
「な、なんということを!
敵襲、敵襲だ!!!」
主君のお坊ちゃまがボコボコにされて縛られている姿を目撃し、門番が慌てて増援を呼ぶ。
捜査機関の強制捜査だという文言など耳にも入っていないようだ。
お坊ちゃまがやられた、それだけで動いているのだろう。
「なにごと!」
「な、坊ちゃん!」
「はあ。まったく。
スケさん、カクさん、懲らしめてやりなさい」
「「はっ」」
「カレンとメイルは手加減だからな?」
「腕ぐらいは切り落として良いよね?」
「再起不能は手加減に入りますか?」
カレンが「死ななければいいんだよね」と言い出す。
メイルも「バナナはおやつに入りますか」みたいな手軽さで言う。
「相手が殺しに来てたら良いよ」
さすがに命が危険ならば許すしかない。
そして、大立ち回りのすえ、ケイマン男爵の騎士と領兵側に立っている者は居なくなっていた。
「な、何事?」
そんな最悪のタイミングでケイマン男爵がやって来た。
後ろにローブ姿の男を従えている。
魔術師か?
「我らは王家直轄特殊犯罪独立捜査機関である。
誘拐事件で強制捜査に入ったのだが、抵抗されたので対処した」
その惨劇にケイマン男爵が息を呑む。
そして、
「ガスパル! なんてことを!
なんとか独立捜査機関?
知らんわ!
このまま生きて帰れると思うなよ!」
俺たちは5人、そしてケイマン男爵にはまだ千人単位の領兵がいる。
それを後ろ盾に強情しようというのだろう。
「聞こえなかったのか?
我らは王家直轄の捜査機関だぞ?
そして誘拐事件の裏は息子が吐いたぞ?」
つまり、事件着手の報告は既に王城に行っている。
王国軍が来るのも時間の問題だろう。
「そんな眉唾に騙されるか!」
そっちか!
俺たちがそんな捜査権を持っているわけがないという方か。
特殊犯罪独立捜査機関だというところから信じてないのね。
「ならば、これを見よ」
俺は王様拝領の剣を鞘ごと抜いて見せる。
その鞘と柄には、王家の紋章が金細工で装飾されているのだ。
「頭が高い!」
思わず時代劇みたいなことをしてしまった。
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あとがき
「藪ドラ」は「藪蛇」のこの世界での表現です。
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