第27話 寄港地

 河船は船外機が不調ながらも、次の寄港地になんとか辿り着いた。

やはり、このまま航行を続けるには不安があるようだ。


「本格的に修理するか、船外機を換装するかになると思います。

それと爺ちゃんを教会の救護所に見せないと……」


 船頭見習いの孫が前に出て報告する。

爺さん本人は元気だと言うが、もし頭に血が上っての脳溢血か何かの場合は命に係わる。

ここは孫の指示に従うべきだろう。


 そうなると困るのが、今後の運航に関してだ。

河船を船頭見習いの孫に託すのか、改めて別の船頭が派遣されるのか、その対応に修理以上に時間がかかりそうだった。


「しばらく足止めになりそうだ」


 俺は独立捜査機関の皆にそう告げた。

ただ、遊びではないので、この領地でも凶悪犯の転生者は探すことになる。

今思えば、寄港地をスルーせずに凶悪犯の探索だけはしておけば良かった。

ルディみたいな隠れた転生者が居たかもしれなかったのだ。


 目的地のアケーリアルに注意が行っていて、早く到着出来ることを歓迎してしまっていた。

しかし、寄港地毎に領主が違うわけで、そこでの特殊犯罪が王都まで上がって来るかは領主の腹次第なのだ。

報告が無いから転生者は居ないのではなく、隠されている場合もあると想定するべきだった。


 特に、この領地は息子をお披露目会に出していないことが判明していた。

それも俺の1個下。

転生者である可能性は残されていた。


 転生者が俺の年代と次の年代とに分かれるのは、年次の考え方のせいだと思われる。

地方貴族が王都へと向かうのは、それなりに大変なことだった。

特に雪深い領地から出て来るのは物理的に不可能な場合がある。

つまり、貴族子女のお披露目会で全貴族子女を集めようと思えば、自ずと移動が出来ない冬が除外される。

年始は1月からであっても、そのタイミングで集まるわけにはいかないのだ。

そしてお披露目会は一番問題のない月、9月ごろが選ばれる。

そのため、その時点で10歳になる者が集められると、同じ年生まれでも後年に取りこぼされる者が出るのだ。

それが1個下にも転生者がいるからくりだった。

女神様もその年代に満遍なく転生者をばら撒いたらしく、そのような弊害が発生していた。

どうせならば同じ誕生日にしてくれれば探し易かったのだが、それは凶悪犯を転生させていたと女神様が気付いたのが転生させた後なので、仕方のないことだった。


「領主に会いに行く」


 それはガモス男爵家訪問とそっくりなシチュエーションだった。

あの時、隠されていたのは、この世界では意識が遅れているために忌避されていたゲイの転生者だった。

同じように隠された転生者が居る可能性は高い。


 ◇


 訪問先はサルガドという男爵家だった。

領地の農業生産物を河船で流通させるために寄港地が発展し、そこが領都そのものとなっていた。

領地の奥まで移動しなくて良かったのは助かる。


「我が領地に何用ですかな?」


 男爵と面会するのに、特殊犯罪独立捜査機関という仰々しい肩書を利用したため、サルガド男爵が警戒を顕にする。

これは嫌なパターンだ。

何らかの隠すことがあるために、捜査機関が邪険にされるということは多々あるのだ。


「河船が故障してしまいましてね。

その修理で足止めとなってしまったので、ご挨拶をと思って」


 同じ男爵位とはいえ、若造との面会で機嫌が悪いのだろうか、サルガド男爵が苦々しい顔をする。

しかも俺は、王家の後ろ盾である紋章入りの剣持ちで、実家は公爵家。

先任男爵として上から対処するわけにもいかないというジレンマがあるのかもしれない。

或いは、探られたくない腹があるかだな。


「なるほど、何も無い・・・・領地だが身体を休まれて行くが良い」


 そんな表情を必死に隠そうとしながら、サルガド男爵は歓迎の意を示した。

俺はそんなやり取りの間に【凶悪犯探知】を使用していた。


「ありがとうございます。

しばらくこの領地に御厄介になります」


 領主の館に厄介になるわけではない。

きちんと宿屋に泊まる。

だが、大手を振って領地を見て回ると暗に言っておいたのだ。

何か隠しているのならば、動きがあるはずだった。


 領主館を護衛のカークとスケズリーと辞す。


「領主館には居なかったな」


 意外な事に在宅中だという息子に凶悪犯の転生者の反応は出なかった。

となると、サルガド男爵が隠しているのはいったい何なのだろうか?

そこを探るのも特殊犯罪独立捜査機関の仕事だった。

まさか、変な当たりを引いてしまったのか?

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