Episode11 罪と決意
彼女の戦闘力は並ではない。
そのためか
だが、いつまでも部屋の前というのも落ち着かない。
ダイニングキッチンに移動してお茶の準備をする。
キッチンにはダイニングテーブルとは別にカウンターもついている。
雫月がキッチン側から、カウンターに座る
コトッと響いた音に
彼女は見た目に反して日本のものを好む。
淹れてくれたのは緑茶だった。
しかも、最近はあまり見なくなった赤茶色の急須を使っている。
但し、湯飲み茶碗ではない、出されたのはマグカップだった。
清楚さを感じるクールビューティが、熊さんのマグカップを両手で持っている。
こだわっているのか、いないのかちょっと不思議だった。
「マグカップ、可愛いね。湯飲みは使わないの?」
雫月の顔が赤くなっている。
特に恥ずかしくなる事は聞いていない。
「……
どこから来るのか良くわからない恥じらいが可愛いと思う。
雫月は軽く軽く咳払いをした。
それからあの夜の事を話し出す。
あの夜、襲ってきた男は、
「シアンが
その後、警護対象者の近くに戻り張り込みを開始する。
そこで、もう一人の
想定外の事態だったが素早く順応し、バスのルートは安全と判断。新しく認識した
結論としては、顔を隠した男が帰り道に襲撃を仕掛けたのは予定の行動だと思うが、
的確に敵を認識している。
「
「無いわ。私は
なんというか、とても人を殺したことのあるようには見えない。
空気を変えるように、
「私も
ずっと留守番だったココアも、非難の眼差しを
「ノアとイネーブルする方法は無いの?」
「この世で
「うーん、ノアより? 強いから?」
「それは理由でしょう、そうじゃなくて。UbfOSのソースを直接変更して、強制的にリンクできないようにしてるの。私の仕事は、リアルでしか意味がない」
これまでの穏やかな光が消え、
「私ね、初めての仕事で失敗したの。だから、処分されるはずだった。でもね、蒼井博士と
自分が誰かに操られて犯罪行為をする。
生きるためとはいえ、どんなに恐ろしい事だろう。
組織に命を脅かされて、または、
胸が痛い。
こんな風な胸の痛みは初めてだった。
✽✽✽
サザンクロスが煌めいていた。
日本では決して見ることのできない星空である。
RPGのストーリーが進まない停滞感をいだきながら、『misora』の平原をさまよい、ひたすらレベルを上げていた。
ノアは攻撃魔法を中心に取得し、
その中には面白いものがある。
例えば、鑑定スキル。
発動するとアイテムや場所の詳しい説明が目前に表示される。
その説明から当たりを付け、研究者としての実験のスキルで、アイテムを掛け合わせる。
成功すれば新しいアイテムになった。羽ペンで学術書に記載もできる。
今のところのヒットは、カモマイルという薬草と水とエンドウ豆を掛け合わせてつくる『リカバリー』という錠剤だ。
このリカバリーは、一錠飲むと三割ほど体力と魔力が回復する。
錠剤で瓶に入れて持ち歩くことができ、錠剤の数に関係なく一瓶となるため、持ち運びに便利な仕様になっていた。
さらに、戦闘中も服用できる。
意外と役に立つのがマーキングというスキルで、迷宮や森などの自然物や構造物に目印をつけることができた。
実験として川にマーキングを試したところ、半径五百メートルくらいは有効であり、蛍光塗料のように闇夜に光ることが解かった。
但し、残念なことにマーキングはログアウトすると消えてしまう。
従って、このスキルに頼りすぎて、マップでの地点登録を
この欠点を踏まえても、実用レベルで非常に有効なスキルだった。
『misora』には現実世界では、立入禁止になってしまいそうな剥き出しの自然が溢れていた。
深い森、断崖絶壁、凍った湖、底の見えないクレパス。
そこに棲むモンスター達。
その全てがリアルに作り込まれていて、自然の脅威により「死んでしまう」と思ったのは一度や二度では無い。
モンスターとの戦闘で足を滑らせ、崖下に転落しFPが0になったこともある。ビルの六十階くらいの高さからの落下だったため、トラウマになるくらい怖かった。
確かに、剣で刺されても魔法で攻撃されても、強烈な痛みは感じない。
しかし、無痛で刃物が体を貫く感触は、想像以上におぞましく気持ち悪かった。
更に、FPが0になった時のペナルティ・タイムは、暗くて狭い空間に閉じ込められ、動けない、話せない、眠ることもできない状態なのに、音だけははっきりと聞こえてくる。
まるで棺桶に魂が閉じ込められているような感覚を味わった。
なまじっか意識がしっかりしているので、ここでシステムエラーが起きたらこのまま閉じ込められてしまうのではないかと考えてしまい、気が休まる暇もない。
ステータスを見ることができないし、外の状況もわからない。
ノアが襲われている不気味な音が聞こえてきても、
例えば、フローム界隈で一番強い雑魚モンスターが、ノアをコテンパンに攻撃していても助ける事すらできないのだ。
二人でなら絶対倒せるのに。
リアルな分だけマジで怒りが湧く。
そして毎回
戦いを挑んできたシアンを懲らしめなくては気が済まないと。
「絶対クリアしてやる!」
✽✽✽
それは、
街の様子がいつもと違うことに二人は気付く。
イベントは往々にして突然やってくるものだ。
開門されている検閲所を抜けても広場に誰も居ない。
人影が見えても、すぐに城の方向へ走り去り見えなくなってしまう。
何かがおかしいぞと、
すると、ふいに体の自由が効かなくなり、足が勝手に走り出す。
「なにこれ。体が勝手に動くぅぅぅ」
---続く---
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