第3話 崩れゆく日常
最初は悪ふざけみたいなものだったらしい。
でもその悪ふざけは――――――、取り返しのつかないところまできてしまった。
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昔から憧れていたYouTuber。
最初は家族旅行の時に撮影した動画を倉庫代わりにとサイトにアップロードしたのがきっかけだった。(もちろん非公開だ。)
編集なんてまったくしてない動画でも、いつも見ているサイトで動画を見てみると自分がYouTuberにでもなった気分がして楽しかったんだ。
家族に話してみると、応援してくれた。 それからは旅行の時やちょっとした家族の会話を撮影し、身バレしないよう編集したものを投稿してみるようになった。
最初はまったくコメントもつかず、再生回数も身内が見てるだけだったけど、母と姉ふたりの面白会話がショート動画で伸び、それからは細々だったけど固定のファンもついてくれた。
動画を投稿するたびにコメントもつくようになり登録者数も徐々に増えていった。
そんな様子をみていた家族たちも少しむずがゆいような顔をしながらも一緒に喜んでくれていた。
――――――そんな時だった。あいつらに目をつけられたのは……。
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樹が言うには、同じ中学のタチの悪い連中に投稿していた動画を見られてしまってから始まったそうだ。
最初は「YouTuberならなんか面白いことしてよ~!!」みたいな無茶ぶり程度だったらしい。
それが徐々に「動画のネタ考えてきてやったぞ! 学校の3階から落とされた自分のスマホ、キャッチする為なら普段より早く走れる説。検証! とかどうよ!」とか言いながら、スマホを取り上げられたり、他にもずいぶんと酷いことをされてきたようだ。
「最初は……、あいつらもちょっとしたら飽きるだろうし、僕ひとりが我慢すれば良いと思ったんだ……。 でも―――、全然そんなことなかった……。」
ぽつぽつと言葉を絞り出すように話す樹の背中を薫と二葉は優しくさすっている。
雄介と一花は怒りで顔を真っ赤にし、今にも怒鳴りこみに行きたい気持ちを必死に押し殺し拳を強く握りしめていた。
「色々とひどいこともされたけど、まだ自分だけなら良かったんだ……。あいつら……、あんなことまで……!!!」
樹は口をつぐむ。
手はプルプルと震え、どのような言葉で伝えようか悩んでいる様子だった。
「いっちゃん、大丈夫……。私たちも覚悟しているから。どんなことでも話していいのよ。」
薫はそんな樹の様子を優しくも、しっかりと覚悟を決めた眼差しで見つめる。
二葉もプルプルと震えている樹の手をぎゅっと強く握りしめている。
「あいつら……、犯罪現場を撮影すれば絶対バズるからって……。 もし、それが嫌だったら、お前の家の住所晒せば……、姉ちゃんたち目当ての奴らが来るから……、それを撮影させてもいいかもなって……。」
「―――ふっっっざけんじゃないわよ!!!」
その言葉を聞いた瞬間、一花の叫び声が響きテーブルにドンと拳を振り下ろす。
「一花。 気持ちはわかる。 でも、座りなさい。」
雄介も今にも叫びたくなる気持ちを押し殺し、激高している一花を声で制す。
「僕……、父さんや母さん、姉ちゃんたちを巻き込みたくなかったんだ……。 だから、駅前の本屋さんで万引きしようと思ったんだけど、でもそんなこと絶対やっちゃダメなことだから……! バレるようにやったんだ……、ごめんなさい……! 本当にごめんなさい……!!!」
一花の叫び声にビクッと身体を震わせていた樹だが、雄介とのやり取りをみて矢継ぎ早に言葉を並べる。話をしながら感極まって、途中から涙混じりの必死な叫びで訴えている。
薫は立ち上がり、泣き出した樹をぎゅっと強く抱きしめている。一花もそんな樹の叫びを聞き、途中から腰を下ろしていた。
「樹。 話してくれてありがとう。 今まで辛かっただろう。 気が付いてやれなくて、すまない……。」
樹の訴えが終わり、泣き声が静かに響く中、雄介が口を開いた。そしてゆっくりと立ち上がるとテーブルの向かいに座っている樹の頭に手を伸ばし、優しく撫でながら、樹の目をじっと見つめる。
「もう大丈夫だ。 あとのことは父さんと母さんに任せなさい――――――。」
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