日課みたいなものです

昼野あくび

教室の隅には謙虚が溢れている

「おはよう」

「おはよう」


隣に一度座った後、立ち上がり彼女の方を向く。


「ここの席、座っていい?」

「ふふ、もちろん」


彼女が携帯をしまう。


「今日は早いね」

「一限の時間帯には慣れたんだよ」

「そう」

「・・・いや、貴方と会うのが楽しみって言うのももちろんあります」

「あら、ほんと?」


ふざけた語尾を使い恥ずかしさを取り繕い、顔を赤らめても目は逸らさずに笑い合う。


・・・・・・


「えーと、今日は宮沢賢治さんの小説とそれの漫画版の違いを知りながら、批評について説明したいと思っているんですが、この冒頭の・・・・・・」


ボーダーシャツを着た中年ほどの先生の声が響く。響くというほどハキハキとした先生ではないが。


・・・


「ゴールデンウィーク何してました?というか休みの日って何してるの?」


スマホに書き込んで彼女に見せる。


「誇れることはしてない」


そういうことじゃない。


「寝てたとか、ゲームしてたとかあるでしょ」

「話題にならない」


じゃあ、そうだな。彼は考える。


「君の好きな食べ物は何?」


あまりに真っ直ぐな目でスマホを見せるから彼女は笑ってしまった。


「ハンバーグ」


本当は焼肉やすき焼きと書きたかったが、献身的な「女」を咄嗟に演じてしまう。


「今日すき焼き食べに行こう」


体が熱かった


「いきなりなんでよ」

「思いつき」


彼は1度スマホを自分に向けて、


「どう?」


もう一度私に見せる。

何かを求めているような目もしない。ただ自分に素直で彼であること、何かを期待した誘いではないことを1年の関わりでわかっていて。


「いいよ」


これが私が最大限できる心への抵抗。早く声が聞きたい。
















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日課みたいなものです 昼野あくび @hurumonnn

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