1話 婚約破棄された皇女様が島流しで来たんだけど。

「…………」

「…………」

「…………シグ様。浮気、ですか?」

「待て待て待て。俺はこの方と初対面だぞ!?何か、海で意識失ってたから拾ってきただけだ。」

「ちょっと待ってくださいまし、人を物扱いするのはやめてください!!」


 さて、ユキに搾り上げられた翌日、ユキとは真逆の少女が海に落ちていた。こんな陸の孤島に降り立っている地点で、かなりの奇人だと思った。

 ユキ、痛いぞ。抓るのやめてくれないか?えっ?私のことを貧相な身体と言ったって?言ってないぞ、断じて。希少価値のある素晴らしき身体と言ったんだ。痛い!!首はやめて!!


「………すまない、粗相をしたな。」

「い、いえ。」

「とにかく、名前を教えてもらってもいいか。」

「あっ、そうですね。私はアリス=ゲーニッヒ=カイザーと言います。」

「………面倒だからアリスでいいか。」

「それで構いませんわ。それで、貴方方の名前を伺いたいのですが。」

「そう言えば、言っていなかったか。俺の名前はシグだ。」

「私はユキと申します。以後、お見知りおきを。」

「そんな、頭を下げないでくださいましっ!!」


 俺とユキは癖で頭を下げていたらしい。かつていた世界の癖はなかなか抜け落ちないものだな本当に。お互い様だけど。アリスも頭を下げて平伏を続けるから、意味のない時間がずっと続いていた。

 さて、そろそろ頭を挙げたいんだけど、完全にタイミング逃した。なんか、あちらさんはバチバチと視線でさっき飛ばしあってるし。取り敢えず、お茶でも飲もうかな。


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 そそくさと逃げれば、2人は仲良くなっていた。揃って甘味を所望された。無いと言えば作れと言われ、再び台所にとんぼ返りすることになった。悲しいよ。

 取り敢えず、お菓子を魔法を駆使しながら作り、紅茶と一緒に彼女らの手元に置くと、急に話を振られた。


「シグ様。」

「どうしたの?ユキ。」

「アリス様のいた国、滅ぼしませんか?」

「急に物騒になったな。何があったんだよ。」

「アリス様がここに来た理由はご存知で?」

「知らないけど。」

「アリス様は、婚約破棄されて島流しに合ったそうです。無き罪を背負わされて。」


 何か、お偉いさまによくある話だな。婚約破棄って。どうせ、運命の人だかアリスを嫌っている奴が嵌めたんだろう。相場的に。ご都合主義だろうけど。


「なんと、相手が男の方だったのです。」

「うん、待ってアリス、男に寝取られたの!?」

「はい………まさか、婚約者が公爵家の叔父様と結婚すると言い出しまして、婚約破棄されましたわ。」

「っ、すぅぅぅぅぅ。何と言うか、お疲れ様です。」

「えぇ、ホントに骨を折りましたわ。女に不貞されたほうがマシですわ。」

「なんだろうなぁ、相手が悪かったとしか言えないなこればかりは。」


 うん、ノーコメントだ。俺たちのいた時代だと、上杉弾正少弼殿(上杉景勝のこと)がいい例じゃないだろうか。正室はいたが子供をつくらず、男とばかり遊び惚けていたと聞く。最終的にはよく遊んでいる男に女が扮して子供を成したと言われている。うん、今聞いても奇天烈すぎて頭に入ってこないな。

 アリスも災難な男を夫に貰いかけたな。合掌。


「それで、アリスはこれからどうする?」

「………こちらで、お世話になってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、もちろんいいが。ユキは?」

「問題ありません!!寧ろ、シグ様側室にしなさい!!」

「………それに関しては待て。早計すぎるから。」


 いやまぁ、良い提案だけど、ユキさんや俺あなたと結婚してから一年も経っていないんだが?


「そ、その前に、ユキさん聞きたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」

「ん?あぁ、国を亡ぼすって話ですか?アリスさん。簡単ですよ。私たちが各国に売っているものを法外な値段で売らせる、それに、贋作をあたかも本物と言い張って流出させているんですよ。」

「そ、そんなことをしていたんですか!?」

「それと同時に貴族の汚職とか王族の汚職とか見てられないものが多数出たのよ。ちなみに、これを暴露すれば一発で戦争勃発します。」

「そんなに、酷いのかい。ユキさんや。」

「正直、私たちがいたころよりもひどいですよ。」

「大名家に属していたお前が言えるものでは無いがな。」

「…………すいません、失言でした。」

「以後、気を付けてくれ。お前は分かっているだろう?俺は、権力者が大嫌いなんだよ。殺したいくらいには。」


 殺気が無意識に漏れる。同時に力の一部が漏れ出していた。怒りが徐々に自身の理性を蝕んでいた。


「シグ様、それ以上はいけません。アリス様が気絶してしまいました。」

「っ!すまない。外に出る。」

「分かりました。」


 俺は、外に出た。当てもなくフラフラと歩くことにしたのだった。

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