劇しかりし者
真花
第1話
「あなたの言っていること、セリフにしか聞こえない」
ベランダの欄干に
「本当の声なんてない。そんなんじゃ、私、嫌だよ」
どうしてそんなところにいるんだ。思うのに声にならない。近付こうと足に力を入れるのに微動だにしない。鼓動が駆けて、汗がじっとりと噴き出す。どうにかしなくてはならない。真実子を欄干から下ろさなくてはならない。それなのに、真実子の声を聞くことしか出来ない。
「
僕は強烈な光を照射されたみたいに固まる。
嘘でもそうすると、役者らしく演じるべきなのか。約束をして破ったらきっとまたこの状況になる。役者をやめろと言うのは僕に死ねと言うのに等しい。考えが同時に頭の中を走って、応えることが出来ないで、沈黙と、困惑した視線だけを真実子に返した。真実子は正しい答えを待って、すんなりと待ちくたびれて目の輝きを失う。
「それが答えなのね。……じゃあ、さよなら」
真実子はすべり台を滑るみたいに自然に欄干から身を投げた。同時に僕は駆け出して捕まえようとしたが間に合わず、欄干に両手を突いて真実子が落ちて行くのを最後まで追い続けた。想像していたより長時間真実子は空中に滞在していた。地面に真実子が当たったとき、カーン、と高い音がした。僕はその音で我に返り、全速力で真実子のところに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます