第38話 確信

「忍者とは、今も闇のものと戦っている」

 アマンダは、今日も怪しい日記を書き記す。


 今日見た光景は、強烈だった。

 突然燃え上がる炎。

 あれはきっと火遁の術。


 フランスにいた頃、見た書物。

 それに書かれていたことは本当だった。

 パルクールのような動きで、あらゆる所を走り回り、魔法のような術を使う。

 そして、闇のものと戦う。

 そうそれは忍者。


 それこそが私の目指す姿。

 

 パルクールとは、フランス発のスポーツ。建物の上、壁、到る所をアクロバティックに走り回る。


 そうその姿は、忍者そのもの。


 ただそれは、忍者の極一方面の姿。


 本物は、気配も見せず術を使う。

 術こそすべて。


「むうっ」

「あらあら、アマンダさん。また家の中でそんな格好をして」

 静さんに見つかってしまった。

 廊下で仁王立ちをしていたら、叱られた。きちんとパンツは穿いているのに……

 理不尽。


 

「ああ暑い」

「火使いがこの暑さで参るの?」

「雫ってば、そのミストは何?」

「いいでしょう。颯司はもっとこっちに来る?」

 朱莉が、駅前のお店で売り始めた、秋の先取りサンマアイスを食べるというので店に向かっている。


 俺と雫はイチジクアイス。

 サンマは、癖がありすぎて、一部マニアのみが買うものだ。

 香川県には、うどんの入ったアイスがあると言うが、まあそのたぐいだな。


 世の中には、鮭いくらアイスもあるんだから、良いだろう。


 だけどまあ、暑い時期にはおかしなものもいる。


 橋の欄干の袂、子ども達が遊んでいるのかと思うと、カッパ達が流れて遊んでいた。


 こいつら、俺達以外だと、普通の子どもにしか見えない。

 そう何か偽装をしている。


 たまに川を覗くと目が合ったりするし、変わった町なんだよ。


 駅前に行くと、並んでいる人達、半分が人間じゃない。

 そして、サンマアイスが馬鹿売れ。


 おじさんも困惑しながら、毎年作っているらしい。


 温かい御茶と、アイスを買う。

 なぜかそれが決まり。


 近くの公園で並んで食べる。

「うん。これこれ」

「喜んでそれ買っているの、半分向こう側の奴らだったぞ」

「良いのよ、美味しいは正義」

「前に売っていた、ウナギアイスは消えたな」

「あれはだめよ、生臭かったし」

「そうなのか?」

「うん」

 違いが分からん。両方食べたが俺にはあわなかった。


 その日は町でうろつき、八咫烏が鳴く頃家へと帰った。



 すると、何があったのか、廊下にアマンダが倒れていて、右手の指先には、涙でままさんとダイイングメッセージが書かれていた。


 とりあえず無視をする。


 夕飯時に話しを聞くと、アマンダが例のごとく、裸でうろついていたので、水牢に座らせてお説教をしたため足が死んでいたらしい。うちの水牢は地下水のため十五度くらいしかない。



 さて、泣き暮らすアマンダを連れて、山へキャンプにやって来た。


 ここは、キャンプ場ではなく、家の山。


 無論、皆来ている。

 今年はたまたま家の山だと言うだけで、皆の家も、山がある。

 恒例の夏のキャンプ。

 そうキャンプと言うが、サバイバルと言った方が良い。

 慣れないうちは、死にそうになった。


 そして一人、場違いに喜んでいる奴がいる。

 そう、アマンダだ。


 周りでは、皆が黙々と荷物を点検し、装備を装着をする。


 各山には主がいる。

 気を付けねば、命に関わる。

「大丈夫なの?」

「大丈夫でしょ。あなたたちでも五歳くらいで、普通に過ごせたじゃない」

「おれは、五歳だけど、朱莉は最近まで死にかかっていた気がする」

「そうだったかしら?」

 かあさんは変ねえと首をひねる。


 父さん達が、子ども達を集めて、ゴール地点とマップを配る。

 そして一言。

「よし生き残れ。帰宅は明後日なので、午後0時にここへ戻ること。颯司拾ってきたのはお前だ、アマンダの面倒を見ろ。以上。散会」


 その瞬間に、父さん達は笑いながら消える。


 それを見て固まるアマンダ。


「ほら荷物を持って、行くぞ」

「イエスサー」

 一応、アマンダの軍服は、ケブラーポリパラフェニレン テレフタルアミド繊維を編み込んである。

 ケブラーとは、アラミド繊維で耐熱及び引張り強度が高い。

 デュポン社の登録商標である。


 ただ紫外線に弱いので、使い捨てにしている。

 うちは軍より過酷なんだよ。


「どうするの?」

 雫が、あらあらという感じで、アマンダを指さす。


「うん? 覚えているだろ。足を引っ張るとどうなるか……」

「あーそうだったわね。先に行くわ」

 引き吊った顔で雫はそう言うと、逃げるようにいなくなる。

 無論、幾度となくその扱いを受けた朱莉は、とっくに消えた。


「俺はいた方が良いんだろ」

「そうだな、手間を掛ける。どうせ朱莉はどこかで泣いているだろ」

「ああ、お腹を壊すのは得意だからなあいつ」


 そう変なものを、すぐ拾い食いする。


「ほら行くぞ。これを体のベルトに引っかけろ」

 俺の背中から伸びたロープを渡す。


 アマンダです。貰ったフックをカションとはめ、行くぞと聞こえた瞬間、世界が変わった。


 颯司と小太り陸斗は、はじけるように走り出した。

 そう、キャンプは、私の思うキャンプではなかった。

 簡単なマップを見てオリエンテーリングの様な要素を持った物だとは理解をした。


 だけど、すぐに私の足は地面から離れた。

「アマンダ、枝だ、蹴れ」

 枝、どこ?


 見ると三メートル向こう、二メートル下方に枝。

 どうやって…… ひいいいっ……

 きっと私は死ぬ…… そう確信をした……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る