第2話 というわけで…

「え、選ばれた…ですか?」


「左様!!」


そう言ってウォンは掌から魔方陣を出した。


「うちの魔導技術部の大発明、この「異世界人ホイホイ」にのう!!」デデーン!!


「いや、選ばれてないですよね? 捕獲されてますよね? だってホイホイって

 付いてるもの!! 罠にしか付かない単語だものそれ!!」ガビーーン!!


「ホッホ! これは踏んだ者を強制的にこちらに送ってもらう代物での、コイツを

 他の世界にばら撒いてやったわ」


「…クッソ迷惑ですね、それ」


「だだし、誰でもという訳ではないぞ。ここに来れたということは、お主にもちゃん

 とその「素質」があるのだ」


「…いや…僕は…」


僕は顔を伏せる。


「ふうむ…断ると言うなら、今ならまだ元の世界に帰せる。その場合はここでの記憶

 を消させてもらうがね」


「…それじゃあ、そうさせて…」


「…だが、お主は、このままでよいのか?」


「え?」


「先ほどからの言動から察するに…お主、元の世界ではあまり良い待遇を受けておら

 んじゃろ。そして、その影響からか、自身の評価もかなり低い」


「!!」


その言葉に体がピクンと跳ねた。


「もし、お主が魔王になって世界の一つでも征服するれば、そこはもうお主の世界。

 そこに生きる者すべてがお主を畏怖し、ひれ伏し、敬愛し、崇めることじゃろう。  

 世界はお主になり、お主が世界となる。どうだ、 ワクワクしてこんか? 今まで 

 お主を虐げて来た者たちを見返すこともできるぞ?」


「………」


「…後な、魔王はモテる」(ボソッ)


 煮え切らない僕に、ウォンはとどめの一言を放った。その言葉は、年齢=彼女いない歴の僕の心に深々と突き刺さった。そして伏せていた顔を、バッと上げた。


「やります!!」(キリッ)


「ホッホッホ、よろしい。これにて魔王候補生の受付は締め切りとする」


「魔王…候補生?」


「そうじゃ。じゃあ今から魔王ね、とはいかんよ。ワシの治める世界で候補生とし

 て魔王とは何たるかを、一からしっかりと学んでもらうぞい」


そう言うと、ウォンはパンパンと手を叩いた。


「――お呼びでしょうか、ウォン様」


声がした方を振り向くと、そこには大きな扉とメイド姿の女性が立っていた。


「お初にお目にかかります、私はメイドの「セツメ」と申します。以後、宜しくお

 願い致します」


彼女はとても美しい所作で、ペコリと頭を下げた。


「向こうはワシの世界、魔界となっておる。その扉を潜ればもう後戻りは出来んぞ。 

 ・・・じゃが安心しろ。ワシらがみっちり仕込んでやるからの。では明日から魔王と

 しての授業を開始する。部屋を用意してあるから、今日はゆっくり休むとよい

 ぞ」


「は、はい…」


 案内されるままに大きな扉をくぐる。そこはゲームやアニメで見るような

中世っぽい立派な宮殿の廊下だった。


(はえ~…天井たっか!! 至る所の装飾も豪華だし、調度品も高そうな物ばっか…)


 まるで、おのぼりさんの様にキョロキョロと周りを見ている僕に、先導していたセツメさんは小さくクスッと笑って、足を止めてこちらに向き直った。


「ここはウォン様が支配される前は、最も栄えた種族の王城だった場所です。

 今は少々手直しをして、居城として使っています」


(てことは、あのお爺さんが…この世界を滅ぼしたって事だよな…?)


「あの…失礼な事かもしれませんけど、ウォン…様は強いんですか?」


「ええ、そうですね。ここを含めて5つの世界を征服されています」


(マ、マジですか。やっぱりあの殺気は、伊達じゃなかったってことか…)


「お部屋はもうすぐそこです。さぁ参りましょう」


 セツメさんの案内で再び僕たちは歩き出す。その間、僕は少し後ろから彼女をチラチラと観察した。


(セツメさん…だっけ。メチャクチャ美人だ…。煌めく水色の長い髪に、透き通る 

 ような肌と整いまくった容姿。…こんなの3次元にいちゃいけない存在でしょ)


 そんな事を考えながらセツメに見惚れていると、一つの扉の前でセツメが足を止めた。


「ここが央真は様のお部屋になります。どうぞお入りください」


「あ、はい。案内してくれて、ありがとうございました」


 ドアノブを回して部屋の中に入った。そこは先ほどの王宮と違って、壁は土壁、床は板張り。例えるなら、安宿の一室の様なみすぼらしい部屋だった。


「夕食と、身体を拭く道具は先に用意させて頂きました。それではごゆっくりお休

 み下さい」


 そう言ってペコリとお辞儀をし、セツメさんは去って行った。再度、部屋を見渡す。小さなテーブルの上にはパンと水が入ったコップ。そしてベッドの傍にはお湯が入った桶と手拭いが置いてあった。


 王宮だから豪華な天蓋付きのふかふかベッドや、豪勢な料理が出ると思っていた

から少し残念に思いながらも、疲労した体を早く休めたくて、手早く食事を済ませ、体を拭いて下着姿(Tシャツとトランクス)でベッドに潜り込んだ。すると直ぐに瞼が重くなり、深い眠りに落ちたのだった。

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