こんな僕の魔王候補生ライフ

犬雑炊

第1話 魔王と面接!?

「ハァァァァァァァァァァ~~……」


 と、クソデカため息を吐きながら、ガックリと肩を落として家に帰ろうとしている僕の名前は「成瀬 央真」。今年大卒業の絶賛就活中。性別は男で、年齢は23歳だ。


「ふぅ…今回も【ご活躍お祈りコース】だろうなぁ…多分」


 自分で言うのはアレだが、僕の見た目はあまりよろしくない。少しツリ目の三白眼に低身長で短足。加えて何度も努力したが、一向に改善しなかったポッチャリな体。そのせいで幼い頃から散々いじられてきたのだ。…おかげで今まで面接を受けた会社は全滅。今日の面接官たちもあまりいい顔はしていなかった。


「よく人は外見じゃない。中身だって言うけど、初対面の相手は外見から入るしか

 ないんだよなぁ…。はぁ、世知辛い世の中だよホント。いっそのこと滅んでくれ

 ないかなぁ、こんな世界」


 と、愚痴っていたら住んでいるアパートに着いていた。部屋は2階の奥から2番

目なので、外付けの階段を上がる。連日の就活で、少しよれたリクルートスーツが何だか重く感じる…疲れてるんだな。今日の晩メシは宅配頼んで、風呂入ってさっさと寝よう。そう思いながら玄関の玄関の鍵を開け、ドアノブを回した。


「ただいま~………え?」


 一歩中に入ると、そこは見慣れた1Kの部屋ではなく、真っ白な空間が広がっていた。ハッとなって後ろを振り向いたが、そこにはもう玄関のドアは無かった。


「な、何がどうなって…ここはどこなんだろ…?」


 改めて周囲を見渡たす。上も下も、右も左も「白」しかなく、ここから出られる様なものは見当たらなかった。どうやらこの妙な空間に閉じ込められてしまったようだ。


「――ほっほっ、突然のことで驚かせてしまったようだのぅ」


「!!」


 突然の声に僕は驚いてビクッ!!っと体が跳ねさせた。振り返ってみると、そこには安っぽい会議用テーブルにパイプ椅子に腰掛け、和風っぽい着物を着た、ちょんまげお爺さんが座っていた。


(さっきまで何もなかったし、誰もいなかったのに…この人、何処から現れたんだ?)


そう思いながら怪訝そうに見ていると、お爺さんはニコリと笑って話し掛けてきた。


「ほれ、立ちっぱもシンドイじゃろ。座って話そうじゃあないか」


 そう言いながら手を前に出して座るように促したきた。ふと横を見ると、さっきまで無かったパイプ椅子か一脚置かれていた。何度か椅子と老人を交互に見てから恐る恐る椅子に腰掛けた。


(あれ? この構図って、何か面接っぽいような…?)


 そう思うと、連日の就活のクセで体は勝手にネクタイを締め直し、ピッと背筋を伸ばして座り直していた。


「ふむ、では改めて今回はワシらの召喚に応じてくれたことに感謝する。ここは

 お主の世界とワシの世界の間にある異空間といえる場所じゃ。…そしてワシは

 こちらの世界で「魔王」をしておった「ウォン・タイシー」というものじゃ」


「え? は? は、はぁ…」

(異空間? 魔王? 何を言ってるんだ、このお爺さん。 その歳で中二病とか痛いの

 通り越してヤバイ人でしょう…)


僕の反応にウォンは眉をひそめた。


「お主の世界には、魔王は居らんかったのかの?」


「え? ええ、まぁ…漫画やアニメには出て来ますけど、実在は…しませんね。

 ははは…」


「ふむ、そうか……ならば…」


 ウォンは小さく息を吐くと、カッと目を開らいた。すると彼の体から何かが発せ

られ、僕をすり抜け、白い空間に広がる。次の瞬間、全身に鳥肌が立ち、汗がとめどなく吹き出した。心臓の鼓動が早鐘のように鳴り始める。例えるなら素っ裸で身動きが取れない状態で、全方向から刃物がゆっくり近づいてくるような…。


「……どうだね? 信じてくれたかね?」


「フー…フー…、ハァ…ハァ…、は、はい…も、もう大丈夫です」

(さ、さっきのはこの人の圧…いや殺気? とにかく人間が出せるようなもんじゃ

 ない。下手を打ったらホントに殺さる!!)


 僕は額の汗を腕で拭い、ガクガクと震える両足を手で押さえ付けると、もう一度

背筋を伸ばし直した。


「あの…ぼ、僕はどうしてここに呼ばれたんでしょうか?」


「ん? それは当然、君に「魔王」になって欲しいからじゃよ」


「え?」


「ワシもいい歳じゃし、引退して魔王の座を次代をになう若者たちに譲ろうと思っ

 ての」


「あの、えっと…それなら貴方の手下?…部下? から後継を選べばいいじゃないで

 すか。何でわざわざ…」


「お主は「チート能力を持つ者たち」を知っているかね?」


「ああ…、一時期流行りましたね。異世界に転生してチート能力で無双するって

 やつ…。まぁ、ラノベなんかの話ですけど…」


「神のヤツらが力を与えて、勇者や世界の刺激要素として自分の世界にホイホイ

 招いた結果、ヤツらときたら、こちらの思惑などを全てすっ飛ばして好き勝手

 してくれたのよ。おかげで最速で担当魔王が殺られたり、やる気をなくして引

 退する魔王が続出する始末。それってムカつくじゃろ? ならこっちも異世界

 人を喚んで魔王になってもらえばよくね?っという事になったのじゃよ」


(えぇ…異世界や魔王が実在していたことにも驚いたけど、転生も本当にあるんだ…)


「そ、そうなんですか。…だとしても僕は魔王にはなれませんよ。というかそんな

 資格、僕にはありません。頭も運動神経も悪いし…それに容姿だって…」


僕の弱々しい言葉にウォンは表情を変えた。


「いや、お主は選ばれたのじゃよ」


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