第2話

リュウカは勇者と出会った。


幼い頃、リュウカの村は魔物に襲われた。

その時代であればそう珍しくも無い話だった。


リュウカは勇気を振り絞り、台所にあった包丁を手に取り、村の入り口へと向かった。


恐怖、怒り、悲しみなどの感情が混ざり合って、身体は震え、呼吸は荒くなり、心臓ははち切れそうになった。


それでも、どうせ、何もしなければ、死を待つだけなんだと思うと、一矢報いてやるという気持ちが湧いて、武器を手に取ったのだった。


魔物たちの群れが村の入り口に向かって進軍してくる。

戦う準備をした村の者たちは、村の入り口に集まり、やってやる!来るなら来い!と口々に自分たちを鼓舞していた。

しかし、ほんとは皆わかっている。自分たちが生き残るには、奇跡が起きるのを祈るしかないと。


望みは薄いが、噂に聞くような戦士たちが助けに来てくれることにかけるしかない。


魔王の軍勢と戦い、そして勝利した英雄たちの報せは、国中に矢のように広まる。


しかし、こんな辺境の守る意味もない村を助けに来ることはありえない。だから、奇跡を祈るしかないのだ。


それでも、希望を持たなければ戦うことはできない。それに、たとえ逃げたところで、逃げ切れる望みの方が薄かったのだ。


しかし、目の前に異形の大群が押し寄せて来た時、その絶望感はあまりにも強大だった。


まだ、遠くに見える魔物の群れの先頭にたつ魔物を見た村人が悲鳴のような声を上げる

「こ、こんなとこに暗族が来るなんて!」


暗族(あんぞく)とは魔物よりも知性が高く、戦闘力も高い個体。魔物の中でも希少な存在である。

側頭部のツノと、目の奥に炎のような赤い揺らめきがあることが特徴。

戦力には差があるものの、最低でも

王国騎士団員(騎士のエリート)でなければ、

傷一つつけられない。


いよいよ、村の入り口に差し掛かる魔物に向かって、もう一人の村人が叫ぶ

「くそぉおお!!こいつを喰らえぇぇ!!」


叫びながら、向かってくる魔物の群れに向かって持っていたナタを闇雲に投げつけた。


先頭を進んでいた暗族は、羽を広げて宙を舞いながら飛んできたナタの前に飛び出し、

回転しながら飛んでくるナタを簡単に掴んだ。


少し宙に浮かんでいる暗族は叫んだ。

「抵抗しようがしまいが、貴様らの未来は変わらん、皆殺しだ。」


「最初はお前だ、このナタは返そう」


暗族は言い終わるとナタを軽く投げた。

目にも止まらない速さで投げられたナタは、

ナタの持ち主に一直線に飛んでいった。

村人たちは恐怖のあまり瞬きさえできず、

ナタが飛ぶのを見ていることしかできなかった。


ナタがその持ち主に突き刺さるその瞬間に、

ナタは宙へとその軌道を変えた。


そしてリュウカたちの目の前に、

白い羽のマントをたなびかせた男が現れ、

村人たちに微笑んだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

八岐勇者 @tairou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る