第12話 リリ、アロンの家に

 レスターがアヴェムに乗って王都に帰っていくのを見送ってから、私はアロンの家に向かっていた。

 あの結婚発表の時に、先に家に帰っていくアロンがちょっと気になったから。

「お、リリ! 結婚おめでとう!」

「ありがとう。でもまだだけどね」

 すれ違う人みんなにこうやって声をかけられる。

 すごいなぁ。私とレスターの結婚報告で、こうもみんなが笑顔になってくれるなんて。

 魔王討伐で世界中の人々が喜びに包まれたけど、魔王とそのしもべのモンスターが起こした被害と、落とした悲しみは計り知れない。

 モンスターに蹂躙されていて、今もまだ復興途中の村や街がいくつもある。

 一週間後……正式に全世界に発表することによって、世界中の人々が少しでも明るい気持ちになり、生きる活力になってくれれば本当に嬉しい。


 私の目的も、あの旅で果たすことができたし……。


 それにしても、このモストイ村に被害がほとんどないわよね。

 もちろん被害を望んだわけじゃないわ。ただこの辺りのモンスターって、わりと凶暴なヤツもいるから、レベルの低いみんなでは束にならないと勝てないはず。

 それなのに村のみんなにケガとかはなくて、家とかもほとんど被害を受けていない。

 たまたま村に襲撃してきた時に実力のある冒険者が立ち寄っていた?

 でもここは世界最東端の村。ここから街まで大人の足でも二時間はかかる距離にある、言ってしまえば辺境にある村。

 勇者パーティーの私が生まれ育った村だとしても、そんなに冒険者が立ち寄ったりする場所ではないと思ったのだけど……。

 ……あ、アロンの家が見えてきたわ。

 考えるのはあとにして、今はアロンがどうしているのか様子を見ないとね。

 私はノックをしてアロンの家のドアを開けた。

「こんにちはー」

「あらリリちゃん。よく来たわね」

 キッチンに立っていたカヤおばさんが私に気づいて近づいてきた。

 カヤおばさんは小さい頃から本当にお世話になった人。本当に大切な人。

「おはようおばさん。昨日はあんまりおはなしできなくてごめんなさい」

 なのに、昨日は村のみんなから引っ張りだこだったから、おばさんとゆっくり話をする時間が取れなかった。

「いいのよそんなこと。世界を救った英雄さんをみんなが取り囲むのは当然なんだから」

 お世話になった人にちゃんと挨拶もできなかったのに、それでもおばさんは気にしないでいてくれた。

「ありがとう……おばさん」

 やっぱり私、おばさん好きだなぁ。両親はもちろん、アロンのご両親とこうやって三年前までみたいにおしゃべりすると、故郷に帰ってきたんだなって強く実感する。

「あ! そうだったわ。いちばん肝心なことを言い忘れてたわね。リリちゃん、結婚おめでとう」

「や、やめてよおばさん! まだ、決まったわけじゃ……」

 正式な発表は一週間後……だからまだ正式じゃない。

「おお、リリちゃんじゃないか」

 家の入口でおばさんと話していたら、アロンのお父さんのガレードさんが階段から降りてきた。

「あ、ガレードおじさん。おはよう」

「おはよう。……それから結婚おめでとう」

「お、おじさんまで……!」

 レスターのあの発表からまだ時間が経過していないから、みんなの心には強く残っていることはわかるんだけど、やっぱり言われると……なんかこう、落ち着かない。

「きっと、王都での正式発表まで、この村ではその話でもちきりだろうな」

「あ、あはは……」

 この村は頭に『ド』がつくほどの田舎で、娯楽も本当に少なく、街から出た情報もここに届くまで時間がかかる。

 今回の私とレスターの結婚報告は、まだどこにも出ていないし、この村出身の私が勇者であるレスターと結婚するというのは、この村では私にご先祖さまの力が宿って魔王討伐の旅に出た時以来の大ニュースだから、みんなの気持ちもわからなくはないんだけど……。

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勇者にだって負けられない! 水河 悠 (みずかわ ゆう) @kawa0620

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