第9話 怪獣‪✕‬少女⑶

 俺と瑠璃は雫さんに連れられて、アイギスの本部へ向かう。


「でも、雫さん、あんなに飛びまわる敵を、どうやって倒すんですか?」

「それは大丈夫!新兵器が出来てるからね!訓練してる暇もないから、ぶっつけ本番になるけど」

「それ、ほんとに大丈夫ですか……?」

「暴発とかするかも……?」

「はは、冗談……」


 瑠璃は至って真面目そうなのだが。おや、ここで止まるようだ。

 連れられたのは、廃れたクラブハウス。なるほど、これはカムフラージュか。扉にはドアロックがかかっており、手馴れた手つきで雫さんがそれを解除していく。


「はい、入って。あ、あとこれ君たちのカードキーね。暗証番号は一時間おきに変わるから、その都度携帯に送信される暗証番号を打ち込むように。あ、携帯落としたらダメだよ?情報漏洩は極刑だから」


 なんかサラリと恐ろしいことを言うな……。ロックキーが解除され、中を進むと一気にサイバーな雰囲気を匂わせる青色の照明が基調とされた基地が展開された。ここは見覚えがある。


「さ、こっちから直接格納庫に向かうよ!」

『了解!』


 エスカレーターを上がり、立ち入り禁止の看板を無視して進む。少し恐ろしいが、この先にアダムがあるのだろう。

 今度は先程よりもさらに長い暗証番号を入力し、俺たちはその部屋の中に入る。そこでは、アダムともう一機……、たしかアルテミスと言ったか。が整備されていた。


「パイロットを連れてきたよ!もう行ける?」

「アルテミス、アダム、並びにいつでも行けます!」

「了解!二人とも、乗り込んで!避難警報は出したけど、今回は飛ぶ敵だ!機動力においては、前回戦ったエネミーの比じゃない!さっさと倒しちゃおう!」

『はい!』


 俺と瑠璃は返事をして、コックピットまで駆けだす。本当に、早くしなくては……!あの怪獣は、空を飛ぶ!いつもより被害は広範囲になるぞ!


「エントリー・オン!Mark1・アダム!」

「エントリー・オン。Mark2・アルテミス」

『両機、安全装置解除!発進準備完了!タイミングは、そちらに合わせます!』


 少し息を整えて、リングを見つめる。これを媒体として、俺はこのアダムを動かす。


 3日前の出撃の際、感じた恐怖。それは嘘じゃない。

 怖かった。痛かった。でも、今は俺が必要とされてる。この街を、世界を、守るために。

 だから、痛みくらい……!何度でも乗り越える!


「アダム、発進!」

「アルテミス、発進」


 ハッチが開き、俺たちはレールに沿って進み、やがて機体が地上に出る。

 下には、避難に遅れている人々がチラホラと見えた。


「この際、もう公表するしかないかもですね……」

『あぁ……、それは後の会議で決めるとしよう。その必要も無いだろうがな』

『目標は、ここから南西約100キロ!見える?』


 南西……、おぉ、ガイドがある。こっちか!えーっと、あれ……、だよな。目を凝らすと、ズーム機能が働いて、怪獣がモニターに映し出された!


「確認しました!」

『こちらも!』

『今回あれを倒すにあたり、要となる武器がある。これを』


 おや、コンクリートがせり上がり、武器庫のようなものが出てきた。中には、斧や盾、そして銃が入っている。そして、そのひとつにガイドが反応した。


『ライフル・レーザーだ。これでコアを撃ち抜けば、怪獣は消滅するだろう』

「なるほど……」

『2丁ある。アサルトライフルと、スナイパーライフルだ。ひとつずつ、持っていくといい』


 ライフル・レーザーを手に取ると、呼応するようにレーザーが点灯し、視界の端に残量を表すメーターがでてきた。


『遠距離は私が担当する。さ、いこ』

「なら俺は近距離だな!」

『スナイパーライフルの有効距離は10キロ、アサルトライフルの有効距離は1キロだ!』


 なるほど、近くに行かなくてはいけないな……。でも、このロボット、歩くだけでも車やら道路やらを破壊してしまう。


「あの、飛行機能とかないですか?街を破壊しながら進むのは……」

『済まないが、そのような機能はない。なるべく建物の損壊は避けてくれ。道路は、整備すれば済む話だが、建物は避難場所になっている可能性が高い』

「了解……」


 仕方がない。道路の損壊はこの際気にしないで置くか。

 俺は、怪獣の元へ、駆け出した。


 3分ほどで、怪獣のすぐ側までやってきた。ビルの影から、怪獣の様子を伺う。

 まだ、彼女は怪獣の足に座っているようだ。


 瑠璃は、限界射程ギリギリの位置から狙撃するらしい。俺は、それで仕留められなかった時のダメ押しをするために、待機している。


『行きます』

「おう」


 引き金を引き、レーザーが掃射される。ふらりと、怪獣が体勢を崩すも、すぐに立て直し、奇声を上げた!

 不味い、怒ってるのか!?このままでは、瑠璃に標的が!


「こっちだ!」


 俺はレーザーを乱射し、注意をこちらに向けさせる!「キェエエ!」と奇声を上げながら、怪獣は嘴や足を使って、攻撃をしてくる。


『外したのか?』

『いえ、コアは少しだけ露出して傷ついていました。場所は当たっていたけれど、届かなかった。一撃では足りないということでしょう。それに、もう完全に再生してる』

『なるほど……、なら、二人で息を合わせよう!』


 突然の雫さんの提案に、俺は少し混乱する……、というか、ゆっくり理解する暇がない!


『まずは恭弥君が注意を引きつつ外装を破壊!再生する前に瑠璃ちゃんのスナイパーライフルで一撃!どうかな』

『それで行きましょう』

「了解!」


 よし、作戦実行!俺は銃口をエネミーの胸に向けて、撃とうとする。その時、彼女の存在が目に入る。

 そうだ、怪獣を倒したら、彼女が……!


『この期に及んで私の心配?』


 何だ、この感じ。脳内に直接語り掛けられてるような……。テレパシーか?


(そうだよ、俺は君に改心して欲しいんだ。そして、人に寄り添って欲しい)

『改心?エネミーを暴れさせて街を壊す、それが私たちエネミーの本質だよ。人間の価値観をエネミーに押し付けないでくれるかな?それはエゴってやつだよ』

(それでも、俺は君とは戦いたくないんだ!エネミーを生み出すのも、もうやめてくれ!)

『やだよ。楽しいもん。でも、そろそろ帰ろっかな。お腹空いたし』


 そう言うと、彼女は手を振りながらエネミーから飛び降りた……。きっと、また彼女はエネミーを生み出すだろう。

 でも俺は、諦めたくない。

 彼女がエネミーでも人間から産み出たのなら、人間の心を理解できるはずだ。

 そして、きっと分かり合える。


『城川くん!』

「……すまん、今から作戦開始だ!」

『うん!早く終わらせちゃお!』


 遂に、作戦が開始される。俺はレーザーをまずはコアのあった場所に打ち込む。連射する度にガリガリと外装が削れ落ちていくのを見るに、やはり手数が必要だったか。

 やがて、コアが露出した!しかし硬すぎるのか、全く傷がつかない!

 でも、さっきのアルテミスの一撃は、コアに傷をつけていた。ならば、期待する他ない!


「瑠璃!」


 俺は羽ばたかないように翼の付け根にレーザーを打ち込み、翼をもいだ。そして、それを巴投の要領で放り投げた!


『ん……、上出来』


 パシュンと、エネミーのコアをレーザーが撃ち抜き、そのまま貫通する。

 空中で、どんどんとエネミーが分解し、最後は跡形もなく消えてしまった。


『エネミー、消滅を確認!』

『よし、撤退だ!』

『はい!』


 俺と瑠璃は、急いでその場を後にする。しかし、これでエネミーやアイギスの存在は明るみに出てしまった……。

 仕方がないとはいえ……、本当に、今回でかなり俺たちの今後が変わってきてしまうことになるだろう。


『大丈夫?』

「あぁ。多少攻撃を食らったくらいだからな。前ほどじゃない……」


 でも、怖かったぁ!あいつ、スピードが前のエネミーの比じゃなかったからな!2、3発くらってしまった……。

 でも、少し痛む程度。前回はもっと酷かった。


「2人とも、お疲れ様ー」

「どうも」


 基地まで帰ると、雫さんが笑顔で俺たちを迎えた。しかし、その後ろに立っている真上さんは、神妙な面持ちを崩さない。


「本当、よくやってくれた。しかし……」

「はい。エネミーの存在が、世間に知れてしまった」

「そうだ……」


 すると、「真上司令!」と背後から構成員が走ってきた。手には、大量の書類が抱えられている。


「真上司令、防衛省からお電話が……」

「こちらからかけ直すと伝えておけ。済まない。しばらくは忙しくなるから、訓練は少しあとだ。暫くは、波崎くんからの指示を待ってくれ」


 足早に、真上さんが立ち去る。今回の事態の収集を、付けに向かってくれたのだろう。


「じゃ、私も仕事あるから、先に2人とも帰ってて」

「はい」

「先に、帰って待ってますね」

「うん。でも、今日は遅くなるからご飯は2人で食べててー」

「わかりました」


 雫さんも、色々やることがあるらしい。周りの人々も、忙しなく動いている。

 逆に、何もしてない俺たちが、申し訳なくなってくる。

 だから、俺はこの場を去る選択を取ることにした。


「帰るか」

「ん」


 こいつも同意見のようだ。少し居心地悪そうにしてたからな、こいつも。


「ねぇ、あの子、居たよね」

「あぁ、昼会った」

「うん」

「居たよ」


 こいつも、スコープ越しに見えていたのか。


「あいつは、エネミーを倒す前にどこかへ行った」

「そっか……」


 瑠璃は小さく、「良かった」と呟いた。

 瑠璃も、彼女のことを心配していたんだ。


「俺は、彼女と心を通わせ、分かり合うことができるって信じてる」

「……私は、少し疑ってる。彼女とて、エネミーだから。だから、貴方は彼女を信じてあげて」

「分かった。悪いな」

「大丈夫。何かあったら、貴方が私を止めて。貴方がもしも騙されそうになったら、私が止める」

「あぁ」


 これで、お互い安心して彼女に接することが出来る。

 しかし、彼女の目的はただエネミーを作り出し、街を破壊するだけなのか?なら、何故一日に一体しか生み出さない?

 彼女の様子を見るに、体力の消費は無さそうだった。


 ……まだ、彼女については知らないことが多いな……。


 そもそも、彼女が本当にエネミーなのか。それもわかっていない。ただ、エネミーを巨大化させることが出来る人間、という可能性もある。

 それを、『ただの人間』と呼んでいいのかは分からないが。

 家路を辿っていると、何やら前から興奮気味の大地が走ってきた!


「な、なぁ!2人とも!見たか今の!」

「大地?」

「大地くん……?」


 こいつ、顔が真っ赤だ。分かりやすいなぁ、恋する乙女……。

 ん?こいつ今、「見たか今の」って言ったか?いずれバレるとは思っていたが……。


「怪獣とさ!ロボットがさ!バトルしてさ!めっちゃかっこよかったんだぜ!」

「そ、そうなんだ」

「興奮してる大地くん……、可愛い」


 留まるところを知らねぇな!こいつ!もうここまで来るとホストとかにすぐに沼ってしまいそうで怖いぞ。


「で、なんで走ってたんだ」

「あ、そうだ!写真を現像しに行くんだ!それじゃ!」


 そう言うと、大地は走り去っていった。


 とりあえず、今日は俺たちの正体がバレてないだけマシか……。

 当分はこいつのマシンガントークの餌食になるだろうがな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人類防衛戦線アイギス ライト @raito378

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ