第2話 深紅✕巨人⑵

「ふぃー、戻るかぁ……」


 用を済ませ、体育館に戻る時、ふと廊下を振り返る。誰もいない廊下は、どこか非現実で、空気が少し冷えていた。


 まるで夢のようだ、今俺たちが置かれている現状を含めて。そんなことを考えていると、何やら地震のような地響きが起こった。


「わぁ!」


 俺は情けない声を上げて廊下に屈み、収まるのを待つ。しかし、5秒ほどで地震は止まった。


「ん……」


 顔だけ出して窓から外の様子を眺める。な、なんだこれ……。


 そこにあったのは、横たわっている深紅の巨大なロボットだった!そして、その対面には怪獣のような生物が!

 な、なんだこれ!?映画の撮影か……?いや、こんなとこで特撮映画の撮影なんてしないだろ!


 俺はこの光景に釘付けになっていた。すると、怪獣が大きく口を開け、ビームのようなものをチャージしようとする。ま、まずい、あいつこっち狙ってきてる!?


「わっ!」


 その怪獣に、ロボットがタックルをする。しかし振り離され、その直前、ロボットがキックを放った。結果的に、共倒れし、校庭に落ちてくる!


「な、なんなんだよこれ……!」


 夢……?いや、こんなにリアルな夢…、いや、こんなに非現実的な現実も信じられないんだけれども!て、何あれミサイル!?こっ、こっちに来て……!


「うわっ!」


 怪獣に着弾した!が、怪獣にはほとんど聞いていない様子……。

 すると、ロボットの項の辺りが開き、中から少女が這い出てきた。あの子がこのロボットを操っていたのか?どうやら怪我をしているようだ。


 俺は気がつくと、校庭に走り出ていた。あぁ、これはきっと良心なんて物じゃないんだろうと俺は思った。

 あそこから出てきたのがむさいおっさんとかなら、きっと助けないんだろうなと。そう、それは下心丸出しでしか無かった。彼女が可愛かったから、助け起こそうとしたのだ。


「だ、大丈夫!?」

「あ、あなた……、避難は……!」

「んなこといってる場合じゃないでしょ!ほら、君怪我しちゃってるし!」


 そこまで言うと、彼女は俺の手をぎゅっと掴んだ。ドキリと俺の心臓は跳ねる。


「それはこっちのセリフ……!今私は避難なんてしてる場合じゃない。戦わなくちゃならない……!」

「戦うって……!負けてんじゃん!」

「それでも!戦わなくちゃいけない!勝てないからと言って、戦うことを放棄することは出来ない!」


 そう叫んだ瞬間、怪獣がこちらに歩んできた!もしかして、音に反応したのか……?


「まずい!乗って!」

「えっ!ちょっ!?」


 少女に引っ張りこまれ、俺はロボットに入れられた。ちょ、ちょっと狭いな!これ一人用だろ!


「少し我慢して……!」

「う、うん!」

「エントリー・オン、Mark1・アダム……、わぁ!」

「がぁ!痛た……た?」


 俺の手には、何やら妙なリングのようなものが着いていた…、なにこれ?理解できないまま、何やら壁面に英数字の文字列のようなものが流れ、最後に『Mark1 Adam』と表示され、外の風景が映し出された!


「そ、そんな……!今すぐ外して!これは普通の人間じゃ……!な、何ともないの?」

「うん、それよりこれなに……?ぐぁ!」

「説明してる暇はない!まずはあの怪獣を倒して!貴方が祈れば、きっとアダムは答えてくれる!」

「え、えっと!とりあえず……!腕を振り払わないと……!」


 怪獣がこのロボット……、アダムの首を絞めているのだ!

 何故か俺も首が締められてる感覚があるし……!すると、アダムが怪獣の顔面を殴り、蹴り飛ばした!こ、これは……。


「まるで手足のように動くぞ!」

「す、すごい……、ここまで……!」

「で、倒すにはどうしたらいいの?まだ起き上がってくるよ、あいつ!」


 って、やっぱり起き上がろうとしてる!?押さえつけなきゃ!俺が怪獣に覆い被さると、また何やらビームのようなものを発射しようとしてきた!


 これって、かなり不味いのでは……!?案の定その予感は当たった。ロボットを、怪獣の放ったビームが掠め、それを間一髪で避ける!


「まだ研究すら出来てないのに、そんなの知らない。でも、ビームを打つ時、エネルギーは腹部に集中していた。つまり……」

「腹部にエネルギーの貯蔵機関がある!それを叩けばいいんだな!」

「ん!話が早くて助かる!」


 まだビームが掃射されてる結晶体に向かって手を伸ばし、砕こうとする!


 その時、俺の手が火傷のように傷んだ!少し怯み、手を確認するが、火傷はしてないようだ。


「君の感覚と、アダムの感覚はリンクしてる」

「いいのか悪いのか分からないな……!」

「スマートに動かすには必要不可欠らしい、我慢して」


 我慢って!たく、分かったよ!こいつ倒さないと、もっと大変なことになるんだ!そして、こいつを倒せるのは現状ほぼ俺一人!なら!


「分かったよ……!偽物の痛みがなんだ……!腕の一本や二本くらいくれてやる……!うぉおおおお!」


 し、死ぬほど痛い……!でも、生きてる!ならば……!躊躇することは無い!


 腕の部品が融解し、映像の半分が途切れる。おそらくカメラの半分が焼かれたのだろう。だが、なんてことは無い!


 俺は何とか融けた両腕で怪獣の結晶体を支え、膝蹴りで蹴り壊した!


 怪獣は、次第に首をもたげていき、ビームも弱まっていく。か、勝った……のか。


「……驚いた。本当に倒しちゃうなんて」

「はぁ……、はぁ……」


「大丈夫……?あ、ごめん、上から連絡」


 そう言うと、少女はロボットから脱出しながらインカム越しに会話を始める。


「ま、まだ腕がジンジンする……、怪我は無いけど、痛みは本物なのかもな……」

「君、余韻に浸ってるとこ悪いけど、私と一緒に来て」

「何処に?」

「私の上司の所まで」


 彼女の上司……、このロボットの開発者とか、責任者とかなんだろうな……。


 もしや怒られるのでは……。いっその事このまま逃げてしまおうか……。


「あ、こっちこっち。ありがとうございます」


 外に手を振り、何かを受け取る少女。そして、俺に何かをつける。え?なんだろう……。


「外に出て」

「ちょっと……」


 何故か彼女に若干引き摺られる形でロボットから出て、手に付けられたものを確認する。


「わー、手錠だー」

「拒否権は無い♪」


 にこりと微笑む彼女からは、親しみなんてものは感じられなかった。

 外を見渡すと、軍服の人が瓦礫などを回収していた。


 自衛隊……、これってつまり、このロボットは政府と繋がってる……?

 謎が深まる、まず、このロボットは何なんだ?しかも、感覚がリンクするなんて、オーバーテクノロジー……。脳に直接作用でもしてるのか……?


 分からない。今はとにかく、彼女に着いていく他ないのだろう。だってほら、手錠掛けられてるし……。


「あのー、そろそろ……」

「鍵は上司しか持ってない」

「まじか……」

「これも……」


 は、目隠し!?そのまま車らしきものに乗せられて……?


「ど、どこへ行くんだ!?」

「だから上司の所まで」

「だからって強引すぎだろ!」


 それ以来、誰も俺の言葉には誰も答えず、しばらくしてまたもや強引に引っ張られ、俺は車を降りさせられた。そして、何らかの施設に連れ込まれる。


「ここは……?」

「上司のいる場所」


 でしょうね。もっと詳しいことを聞きたかったが、車での態度を見るに、答えてはくれないだろう。


 しばらくして、一室に通された。そして冷たいパイプ椅子に座らされる。ここが目的地か……。


 もうなんか早く終わらせて帰りたい。無責任は承知で、全部投げ出して家で寝たい。あぁ、ほんとに余計なことに首を突っ込むもんじゃないな。


 ガチャンと音がして、手錠が外される。


「さっきの鍵は上司しか持ってないってのは嘘。あとは頼みますね、真上さん」

「あぁ」


 視界が解放され、俺は正面に座った中年の男性を見つめる。てか嘘なのかよ……。


「まずは……、君、城川恭弥くんの処遇に関してだ。あのロボット、アダムは……もうこの際言っておくが、政府の最重要機密の一端だ。元は避難所を避けていたんだがな……、まぁ、初めての接敵だ。少々手こずってしまってな」


「は、はぁ……」

「そこで、だ。君は今言った通り、機密事項を知ってしまったんだ。なので、君を始末する」

「はぁ……、は?」

「君の死刑が決定した」

「……えぇ!?死刑ぃ!?」


 お、俺が死刑!?俺はぽかんと口を開けたまま、男性を見つめた。

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