人類防衛戦線アイギス

ライト

第1話 深紅✕巨人⑴

 俺は今まで、特別な存在何てものとはかけ離れていた。


 ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の学校生活を送り、ごく普通の高校に入った。しかし、こんな生活がいつか音を立てて崩され、画期的な出会いがあることを、ただただ退屈な生活の中で、望んでいた。


...


『改めて済まない、このような急ごしらえになってしまって」


「いいですよ、うん、しっくり来ないけど、何とかなります」


『私たちも援護するが……』


「助かります。では……、行くよ、アダム」


...


「巨大隕石は以前速度を変えずに地球に接近中です、政府は、東京都全域の避難勧告を発令しました」


 何度目かも分からないようなニュースの内容は、以前同じ映像を垂れ流すだけである。俺、城川恭弥しろかわきょうやは、寮生活をしていたのだが、避難勧告が出されたため、高校の体育館でスマホでニュースを見ていた。


「やっぱ変だよ。ただの隕石で東京都全域に避難勧告なんてさ!きっと政府は僕らにやましいことがあって、それを隠したがってるんだ!それに、外が見えないようにってカーテンまで締切っちゃって!これじゃまるで情報統制じゃないか!おかしくない?」

「陰謀論なら他所でやれよ。ただただ隕石の破片や瓦礫なんかが飛んできたら危ないから被害を少しでも抑えようとしてるだけだろ。カーテン締め切るのも、窓が割れた時に破片が飛び散らないようにだって」

「そんなもんかなー?」


 目を輝かせている彼は、齋藤大地さいとうだいち。まぁ、見ての通りのオカルト好きである。


 最近は少しマシになって来たのではないかと思っていたが、この体育館に来てから水を得た魚のように陰謀論だの未知との邂逅だのと口が止まらない。


「でもさー、さっきからずっとニュース同じ内容ばかりだよ?それにこれみて?」


 大地は俺にスマホを見せる。ニュースで写った隕石の映像だ。


「いや、俺も思ってたけど……」

「実はこれ、二年前の隕石が地球スレスレを飛来した時の映像と酷似してるんだ」

「あー、あったな、そんなことも」


 今度は、動画サービスで二年前のニュースの映像を俺に見せた。こいつの言い分もわかる。思わず納得出来てしまうほどに、映像は酷似していた。


「こら、根も葉もない噂を流さないの」

「あだっ、やめてよ、バカになったらどうすんのさ」

「あんたは十二分にオカルトバカでしょ」

「えへへ……」

「褒めてない」


 大地を本で小突いたのは古森梨乃こもりりの。彼女は委員長ではなく副委員長なのだが、委員長以上に委員長気質のため、大地は彼女を委員長と呼んでいる。言わばあだ名だ。


「やっぱ根も葉もない噂だよな?」

「そりゃそうじゃない。もしかしてあんたもう毒されてるの?」

「いや、そういう訳じゃないけど」

「なら変な事聞かないで」


 そう言うと、古森は本を開きながら俺たちの隣に腰を据えた。


「げっ」

「げっとはなによ」

「僕はただただ恭弥と話したいだけなんだって!」

「そ、お気になさらず」


 こちらを気にするような素振りもなく、古森は小説のページを進めた。それからは特に会話も生まれず、少しして俺は立ち上がった。


「き、恭弥?」

「すまん、トイレ」


 大地が何やら俺を酷く脅えた目で見てくる。自分一人を置いていくのかとでもいいたげだ。


「事前に済ませておきなさいって言われてたのに……」

「もう三十分以上前だろ、すぐ済ませてくるから」

「わかったわよ。先生に聞かれたら伝えとくわ」

「助かる」

「ぼ、僕も……」

「連れションなんてしてる場合じゃないでしょ」

「……はい」


 諌められる大地を置いて、俺はコソコソと体育館から抜け出し、最寄りのトイレに駆け込んだ。

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