第18話 目覚め
戦力の差は圧倒的だった。
「ジンさん!こんなのもう無理です!耐えきれません。」
さっきまでの不気味な森の静けさが嘘のようにモンスターが湧き出てくる。
ジンたちがいる大木を中心に360度すべての方向からジンたちに向かってモンスターが押し寄せてくる。
「倒しても倒してもこれじゃキリがない。おい、リンお前も早く戦え!」
(おかしい。そもそもこれだけのモンスター何処から現れたんだ?森の中にはモンスター感知器の反応も無かったのに‥そしてなぜ俺たちの方向に集まってくるのか‥)
普通、モンスターは人間などの対象を見つけたら襲ってくる。
しかし、今襲ってきているモンスターは最初から一直線にジンたちの方へ向かってくる。
まるで操られているかのように。
「先輩‥‥。」
モンスターを察知できるリンには分かった。
モンスターは今見えているだけではなくこのままではみんな倒されることが。
「ジンさん。俺残るんでリン連れて逃げてください。こんな状況でもジンさんの異能なら出来ますよね。無理とは言わせないですよ。」
アキトは有無を言わせぬ笑顔でそう言いきった。
「リン、行くぞ。」
ジンは素早く冷徹な判断を下す。
いかに群れを率いたことがないジンでも今の追い詰められている状況を鑑みて最良の決断をする。
「そんな!…駄目だよ。アキト1人置いていくことなんて出来ないよ。こんなの死ねって言っているようなものじゃない。」
「リン‥。ジン先生頼みます。」
「ああ‥。コンバット。」
ジンは暴れ回るリンを無理やり抱え異能を使う。
ジンとリンの気配が消え、モンスターの注意はアキトに向く。
ジンは泣き叫ぶリンを抱えながら、振り返ることなくその場を離脱する。
そのあとのことを知る者はいない‥‥‥‥‥‥。
○
時は自身をラビと語る女モンスターとジンとの戦いに戻る。
「大丈夫。俺が勝つ。もう逃げない。」
ジンとラビの戦いはさらにヒートアップしていく。
しかし、ただでさえ人間とモンスターの単純な身体能力の差は大きい。
だからこそ異能という対抗手段を人間は持っているのだ。
それが使えなければ、いかに体術を極めているジンといっても腕の傷もあり不利な状況が続く。
余程の事がない限り攻める方より守る方がキツイ。
それは肉体的にも精神的にも。
まさにその通り。
ジンの体にも次第に傷が増えていく。
「グゥッッ」
鋭い一撃。
ジンは木に叩きつけられる。
「「先生!」」
(このままじゃ先生は‥)
「飽きちゃったわ。最後にとっておき見せて殺してアゲる。いくよー。」
女はニコッと笑い
【コンバット】
そう言った。
正しく言うのであればモンスターがそう言った。
その瞬間地面が凍りつきジンの足までもが凍る。
「こ、これは‥。」
3人とも理解が追い付かない。
異能は狩人がモンスターと対等に戦うためのもの。
モンスターが使えてしまったら‥
女は嗤う。
彼女にとってはこれは遊びに等しかった。
足を凍らされ動けないジンにゆっくりと向かっていく。
(先生が‥)
ウルドにとってジン先生は、前世と今世の人生で初めて本気でぶつかり自分のことを見てくれた先生だった。
ウルドのことを真剣に考えてくれた。
俺が強くすると言ってくれた。
(まだ、全然教えて貰ってない。こんなんじゃ)
女は氷で作った剣を持ちジンに近づいていく。
「可哀想に。2人とも置いて自分だけ異能使って逃げてればこんなことにならなかったのにね。」
女がジンに振り下ろそうとしていた氷の剣が折れる。
「な、あんたその身体で戦えると思ってんの?」
ウルドの口には2本目の血液が入ったケースが咥えられていた。
「勝つ。」
「アハッ何て言った?舐めすぎでしょ。異能なしでも勝てなかったのに。」
女は異能を使いウルドの体、表情ごと凍らす。
「「ウルド!」」
アレックス、ジンは動けない。
このままウルドが殺されると2人は思った。
ビギビキ ビギビキ
ウルドは内側から氷を食べる。
氷にヒビが入っていく。
バリッーン
ウルドの動きを封じていた氷は砕ける。
ウルドは動きだす。
段々とその速度を上げて女に近付いていく。
「な、なんでアタシの、博士に貰った異能が効いてないの‥。そんなわけ‥」
余程自分の異能に自信があったのか、女は動揺して動けない。
ウルドの全力をもろに食らい、女は吹っ飛ばされる。
肉体的なダメージか精神的なダメージか女は動かない。
しかし、ウルドは立ったまま気絶していた。
ここまでの戦いで普通では動けないくらいの傷。
それに加え2本の魔物の血液の摂取。
ウルドの体はとっくに限界を越していた。
「アァ、何で、何で、何で、ナンデ、なんで。博士に貰った物だったのに。負けるわけない。負けてない。」
ドンッ ドンッ
女は狂ったようにウルドを殴る。
「‥‥‥。」
気絶しているのでウルドは動けない。
どんどんその身体は傷つけられていく。
筈だったが‥‥
ヒョコっとウルドは立ち上がる。
「‥‥‥ッ!え‥‥‥。」
そして、反撃。
女は吹っ飛ばされる。
「‥‥よくもやってくれブゥッ。」
ドンッ ドンッ
ウルドが追撃し続ける。
女も攻撃するがウルドは全く怯むことなく殴り続ける。
「あれは‥」
アレックスの視線の先にあったのは‥
角
モンスターに生えている物よりは小さいが、それは正にモンスターの角と呼ぶにふさわしい物がウルドの頭に生えていた。
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