第17話 警戒任務

ジンたちは警戒任務のため北の森へやってきた。


「なんかこの森って不気味なのよね。」


日の光が地面に届かない。

なので、新しい植物が生えることもない。

そんなどんよりとした森だった。


「まあ最近全然モンスター出ないっていうし大丈夫だろ。」


「それでも、お前らちゃんと警戒しとけよ。今日はリーダー居ないんだからな。」


「リーダーがいなくてもジンさんがいれば大丈夫。だってジンさん強いからな。」


「それだけはアキトに同意ね。」


「お前らなぁ‥。」

(とは言えコイツらもある程度実力はついてきたからな。)

2人はこれまでの群れの経験で同世代の中ではトップクラスの実力を持つようになっていた。


そんなこんなで一行は警戒任務を順調に進めた。

任務は森の最深部を残すのみとなった。


「先輩、何も異常無さそうですね。あとはあの大木が立っている所だけですけど、パッと見たところ大丈夫そうですね。」


森の最深部だというのに、さっきまでとは打って変わって広く開けた広場のような場所。

そのちょうど真ん中を堂々と立っている木。

その木はジンたちが立っている場所から見ても大きな木。

樹齢1000年はあろうかというまさに大木だった。


「リン、いつも言ってるだろ。警戒任務の時は目で見るだけじゃなくしっかりと雰囲気を感じるんだ。ほらあとちょっとだ。行くぞ。」


「えぇー。先輩が言うなら‥。」


「そんなに行きたくないならリンだけ来なければ良いだろ。ジンさんもそう思いますよね。」


「えぇーだってー。あの木強そうなモンスターの匂いがするんだもん。」


リンの異能は『ゾウの特徴を持つ』というものだ。

動物の特徴を持つ異能を発現している人間はリン含め少数だが発見されている。

そして、ゾウは人間の約5倍の嗅覚を持つとされている。

それによりリンはモンスターの匂いで察知出来る。


「おい!何故それをはやく言わない。」


アキトはリンを睨む。

モンスターと戦う上で大事なのは相手を早く認識することだ。

モンスターは無知。

人間を見つけると襲ってくる。

逆にモンスターに見つからなかったら襲ってくることはない。

モンスターに見つからずにモンスターを見つけることが大事なのだ。

なので、アキトはリンを怒った。

なぜ、察知が遅れたのかと。


「さっきまでは全然匂いしなかったから‥。それに今もほぼ無臭だよ。」


「周りの匂いはどうだ。」


「いや、全然しないよ。」


リンが今まで任務してきた中で、対象があの距離の時ここまで察知が遅れた事はなかった。

モンスターがさっきまで居たが、移動したという可能性はある。

しかし、もしモンスターが移動したなら移動したところにも匂いがつくはずである。



ジン考えを巡らす。

(あの木がモンスターということは無さそうだな。では何故こんなにも近付かなければリンは気づかなかったのか‥。そして、モンスターは何処に居るのか。)


普段群れを動かしており慣れているリーダーだったら、ここですぐに、1度戻り報告をしただろう。

しかし、ジンには群れを率いた経験がない。

それに加え、数ある群れの中でもこの群れはトップクラスの成績を収めていた。

この2つの要因からジンは木を調査することにする。

最も、2つ目の要因に関しては普段実力を半分と出さず緊急時は的確な判断と圧倒的な戦闘力で影ながら群れを支えているリーダーの力が大きかったのだが、そんなことはこの時のジンは知らなかった。


「あの木を調査してみるぞ。」


「慎重に行きましょうジンさん。」


「怖いけど先輩が言うなら…。」


2人ともそうは言いつつもジンと同じように確かな自信があった。

2人も自分たちが注目の群れであることは自負していたのだ。



「これは…普通の木に見えるが。リン匂いはどうだ。」


「うーんさっきとあまり匂いは変わらないかも。」


(どういう事だ。匂いがする木には近付いているのに匂いはほぼ変わらない。)


「ジンさーん。なんか機械?のようなものがあったんですけど。」


木の反対側を調べていたアキトが言う。


「これは‥。」


「スイッチ?」


木の幹と幹の間に隠されるようにして機械のような装置があった。

そして装置にはスイッチがついている。

なんのスイッチかは誰も分からなかったが見るからに押さない方がいいことは確かだった。


「今日はここまでにしよう。リーダーもいないしリンも本調子じゃなさそうだ。そしてこのスイッチ。これはヤバい気がする。」


2人もジンの意見に同意し、1度帰ることになった。

しかし、この時の判断は遅すぎた。


「お主ら何をしているのじゃ‥。」


突然森の中から現れた老人がジンたちの方へゆったりとした足取りで歩いてくる。

なんでこんな森の最深部にいるのかジンたちは疑問が浮かぶ。


「おじいちゃんこそどうしたの。私たちも今から帰るところだから街まで送ってくよ。ほら、アキト肩貸してあげな。」


だがジンたちは狩人。

老人をこんな森の奥において帰るわけにもいかないので一緒に帰ろうとする。


「え、おかしいおかしいよ。今までこんなことなかったのになんで‥。」


突然リンが混乱した様子で喋る。

普段からお転婆なリンだがここまで取り乱す姿は任務中でも見たことが無かった。


「一体どうしたんだリン。」


「だってあれ‥‥。」


リンが指を指した方向を見るとそこにはモンスターが続々と森から出てくる。


「リン大丈夫だ。あの数なら今までの任務でも狩ってきただろ。まず、落ち着くんだ。」


確かにB級が1体いるがその他はD級このくらいだったらジン1人でも倒せるレベルだ。


「先輩ち、ちがうよ。周り‥‥‥。」


リンは怯えた様子で鼻をつまみながらそう言う。

急いで周りを見渡す。

そこにはさっき見た量の3倍はいる。

いや、今も次々と増え続けていく。


「こ、これは‥。」


アキトやリンは勿論、ジンでさえも経験したことの無いような圧倒的なモンスターの数。

今ジンたちがいるのは大木の近くその周りを囲むようにしてモンスターが出てくる。


簡単だと思っていた今回の任務。

しかし、狩人において簡単な任務はないということをジンたちは痛感することになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る