第7話 決意
前世の失敗を糧に、5度目の転生後は生まれた時から全力で自分の能力上げに励んでいた。
魔力操作はもちろん、赤ん坊でも問題無い魔法をどんどん使って、基本値の底上げをしている。
俺は受験生か?ってくらいに頑張った。いや、自分が受験生だった時なんか目じゃないぐらいに頑張ったつもりだ。
そりゃそうだろ?
誰だってあんな風に殺されたくはない。平凡な人生だったとしても、今生は年老いてからポックリ逝くって決めたんだ。それこそ、異世界に『ぽっくり寺』があるなら、お参りして願掛けたいほどだ。
だが世の中、願掛けで願いが叶う様な甘いもんでは無いのは分かってる。だからその為に、自身の強化は必要不可欠。
それに、数値では見れないけど俺の能力は転生しても引き継がれているっぽいし、『学習』で覚えた魔法や技能も引き継がれていた。
もう少し大きくなったら、今まで出来なかった体力強化もしていきたい。目指せ!細マッチョ!そして俺は華麗に剣を振るうんだ!
そんなやる気に満ち溢れた3歳児の俺だったが、しっかりと乳母のハリエットが目を光らせているので無理は出来なかった……。
しかし、俺のヤル気の炎にガソリンをぶち込んでくれた、忘れもしないあの名前。それを貴族名鑑で見つける事が出来たからね。
やっぱりお礼は3倍返しが基本だよな〜。倍じゃ全然足りないよね。だけど家名は一緒でも、当主の名前が違っていた。この辺りはしっかり事実確認しないと……。
あーー!早く大きくなーーれ!
◇
その時、俺は笑顔を顔に貼り付けながら、心の中で悪態を付きまくっていた。危うく笑顔の仮面が剥がれそうになったけどな。
俺の転生は嫌な巡り合わせで出来ているのか?って気がする。本当に………。
切っても切れない腐れ縁みたいに、こっちは望んでいなくても、向こうから笑みを浮かべてやって来る。
でも早いんだよ!!
父様と母様に連れられ、たまたま行った社交の場で会ってしまったんだ。前世で非常にお世話になったクソ野郎に。
俺まだ7歳。成人もしていない。
そしてクソ野郎は18歳。その隣には婚約者がいた。間違い無い……マッマだ!
今のマッマは、輝く程に綺麗で幸せそうな顔をして微笑んでいた。俺の唯一持っていたペンダントの肖像画と同じ笑顔だ。
傍から見ると、とてもお似合いのカップル。きっと今は幸せな状況なんだろう。マッマの表情には何の憂いも見られなかったから。
後から父様に聞いた所、マッマ……カトリーヌ様は、平民出ながら高い回復魔法の術者で、教会での献身を見たラディエンス子爵に養女として迎えられたそうだ。
貴族となった後もその活動に変わりは無く、子爵領内で別け隔てなく治療をするその姿から『聖女様』と領民から呼ばれ、慕われていたと知った。
養父母との関係も良好で、この度ミッティリア伯爵家の嫡男でもあるラーキンス(クソ野郎)との縁談も決まり、世間的には順風満帆の路線を走っていた。
もし万が一、今世のクソ野郎が俺の知ってるクソ野郎では無かった場合、マッマの幸せの為にお礼回りは控えようと思っていた。
そう思ったんだけど……だけどさぁ、俺はクソ野郎のあの笑顔に見覚えがあるんだよ。
ぱっと見は微笑んでいるのに、笑っていないあの冷たい目。その目でマッマを見ているアイツが、マッマを大切にするとは俺には思えなかった。
これが杞憂で終わるならそれでいい。
でも今世では、俺は出来る事は全部やるって決めたんだ。だから何でもやる。使える物は何でも使う。
やらずに後悔は絶対にしたくない。
だが、自由の無い7歳児が出来ることは、かなり限られてしまうだろう。
しかも、2人はもうすぐ結婚するって段階まで話が進んでいた。せめてもう少し近い年齢だったら手段も方法も選べたかもしれないのに。
時間は無いが焦っては駄目だ。
心の中で自重を繰り返し、気休めに魔法を練りながらも、俺はあいつから視線を外す事が出来なかった。
ああ、そうか………。
俺はマッマの為にと思っていたけど、この気持ちは前世で5年の歳月を掛けて俺が育て上げた物だ。
俺はそれだけあいつを憎んでいた。
失敗続きの転生に先はあるのか? いずいし @isuzu15
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